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67話 ダルスの苦悩

 

 暫く歩いていると、七海がフォンに話し掛ける。


「ねぇねぇフォンちゃん! さっきの車ってどうやって止めたの?」

「ん? 普通に、手で抑えたんだわさ?」


 フォンは七海の質問に、さも当たり前といった顔で飄々と答えた。


「えっ!? それでフォンちゃんは何処も怪我してないの!?」

「うん……あのくらいは別になんとも無いんだわさ!」


「そ、そんな事ってあるの?……」

「この三人に“普通”は通じないわよ! 儀式によって、身体は人外の強さを得てるんだから……」


 七海は顔を痙攣らせながら俺に視線を向ける。

 だが、七海の呟きにメルダが答えた。


「人外?……お兄ちゃんだけじゃなく、フォンちゃんも凄い力を持ってるの?」


 メルダは大きく頷く。


「えー! フォンちゃん、すっごーい!」

「「「ははっ、ははは……」」」


 七海は驚愕の表情を浮かべ、俺達はそれに苦笑する他無かった。


 更に歩を進めていると、突然足元に何かが蠢く。


「ワン!」


 視線を落とすと、白い中型犬が俺達の周りをウロウロしながら吠えた。


「なっ、なんだわさ?……」

「あたし達、何かしたのかしら?……」

「ど、どうしたっす?……」


 仲間達は犬を前に困惑している。

 異世界には犬などの動物は存在していない。

 未知の生物との遭遇は仲間達へより一層の恐怖を覚えているだろう。


「す、すみません、ウチの子が……」


 飼い主の20代くらいの女性が、申し訳なさそうな顔をしながら犬のリードを引く。

 だが、犬は飼い主の思いに反して俺達を嗅ぎ回っている。

 そして、ダルスの足を嗅いだ時、犬の動きが変化する。


「ワン!……ヴヴゥゥゥゥ」


 どうやらダルスの事を威嚇しているようだ。

 ダルスは口元を痙攣らせ困惑している。


「ワンワン!」

「えぇっ!? おい、どうしたっす?……」


 飼い主がリードを引いて宥めるも、犬は更にダルスへ向け吠え続けている。


「ワンワンワンワン!!」

「うぅ……」


 ダルスは何かを溜め込むように顔を歪ませ、ギュッと目を瞑った。


「ワンワンワンワンワンワンワンワ……」






「……ヴゥウォン!!!!」






 ダルスはカッと目を見開くと、低く重い声で吠えた。

 それは強力な殺気を含み、音と共に周囲へ拡散されていく。


「くぅーん……」


 直後、犬は静かに座るとコロンと仰向けになってしまった。

 そしてダルスの殺気に、飼い主を始め周囲の人々は恐怖に慄き、ダルスへ視線を向けながらペタリと地面に座り込んでしまう。


「……あっ。やっちまったっす……すまねぇっす! すまねぇっす!」


 ダルスは周囲をキョロキョロと見回すと、ペコペコと頭を下げた。

 だが、頭を下げたことでダルスの帽子がポトリと落ち、犬耳が露わとなる。

 周囲の人々の視線がダルスの耳へと集中し、ダルスは自身の頭に手を伸ばす。


「あっ」


 そしてダルスが飼い主へ顔を向けた瞬間。


「ひいぃ! ご、ごめんなさーい!!」

「くぅー……」


 飼い主は犬をズルズルと引き摺りながら、一目散に走って逃げてしまった。

 その様子をダルスは目を点にしながら眺めている。


「オ、オイラ……オイラ……」


 ダルスはアワアワと混乱しながら俺達へ向き直った。

 俺はヤレヤレと肩を竦め、わざと大声を上げる。


「おいおい!! こんな所でハロウィンの衣装出すなよ!!」

「なんだハロウィンか……」

「よく出来てるねー……」


 道行く人々の視線が徐々に俺達から離れていく。

 どうやら獣人であることは誤魔化せたようだ。

 俺達はふぅと溜息を吐くと、七海は静かに呟く。


「ダルスくん、すっごーい……」

「あは、あははは……」


 ダルスは手早く帽子を被り直すと、苦笑と共に目に涙を浮かべていた。


「……ほんっとに、お前らはいくつトラブルを起こせば気が済むんだ!……ったく、さっさと帰るぞ!」


 全員が頷くと、俺達は逃げるように歩き始めた。


 ※ ※ ※


 暫く歩いたところで、ふと七海が立ち止まる。


「どうした、七海?」

「えへへ。なんだかお腹空いちゃった。もうすぐお昼だし、みんなでファミレス行かない?」


「そうだな。行くか! ファミレス!」


 俺の言葉に全員が笑顔で頷く。

 こうして俺達はファミレスへ向かうことになった。


 ファミレスに到着すると、ウェイトレスに六人掛けのテーブルを案内される。

 フォン、七海、俺が奥の列に。

 ダルス、メルダが手前の列に座った。

 左右が通路になっていて、動き易いテーブルだ。


 俺達が着席すると、ウェイトレスは料理の用意されたカウンターを指しながら、説明を始める。


「いらっしゃいませ。当店はバイキング形式となっております。本日のメニューはこちらです。お好きなものをお召し上がりくださいませ!」


 ウェイトレスは説明を終えると厨房の方へ戻っていった。

 カウンターにはパスタ、ドリア、サラダ、デザート、ケーキ、アイス、ドリンクバー、チョコレートファウンテンが用意されている。

 説明を受けた異世界の三人は、手元のメニューに視線を向けた。

 だが、三人は揃って首を傾げる。


「こんな文字見た事ないっす……」

「なんて書いてあるのか読めないんだわさ……」

「異世界に来たって感じがするわね……」


「まあ大丈夫だ! あそこの料理が食べ放題! 好きなだけ食え!」


 俺は料理の乗るカウンターへ視線を向けた。


「うおお! あれ、全部食べ放題っす?」

「こんなに豪華な食事、初めてだわさ!」

「い、異世界すごいじゃない!!」


 三人は目を輝かせながらカウンターを凝視している。

 口元は緩み、今にもヨダレが垂れてきそうだ。


「今日は特別だ! お前らに豪華な料理を食わせてやりたいと思ったからな! 良いぞ、好きなだけ食え! 但し、残すのは駄目だからな!」


 三人は大きく頷くと、カウンターへ向かい料理を取り分け始めた。

 その様子を見て、俺はニヤリと密かに嗤う。

 実は豪華な料理を食わせてやりたいというのは嘘だ。

 コイツらを普通のファミレスへ連れて行った場合、調子に乗って値段の張るものを注文されてしまうと、想像を絶する出費となる。

 特に二人バカどもが何かを仕出かす可能性は十分に想定出来た。

 その点バイキングなら余計な心配はない。

 一人1000円で安心して料理を楽しめるのだ!


 俺は、ふぅと一息吐くと横から視線を感じる。

 右を向くと七海がニヤニヤと俺の顔を見つめている。


「……ん? どうした、七海?」

「お兄ちゃん、何か企んでたでしょ?」


「な、何も企んでないぞ?」

「ふぅ〜ん。バイキングだから安く済むぞ〜なんて考えてない?」


 七海は俺へ顔を近付けながら、俺の心情を言い当てた。

 俺は背中をビクリと震わせると、顔を青褪める。


「やっぱり図星だね! お兄ちゃん、すぐに顔に出るんだもん! わかりやすいよ!」

「ぐぬぬ……」


 俺はバツが悪そうに顔を顰めると、七海はフフッと笑っていた。

 丁度その時、コトンとテーブルに皿が置かれる音に気付く。

 視線を前に向けると、フォンが舌をチロリと出しながら笑顔で座っていた。


「お兄ちゃん、バイキングで正解だね……」

「だろ?……」


 フォンの前には溢れんばかりに料理を盛られた皿が置かれていた。

 その光景に俺と七海は苦笑する。

 なんと料理の高さは皿の直径を超えていた。


「うーん! 美味しそうだわさ! いっただっきまーす!」


 フォンは幸せそうに料理を頬張り始める。

 すると、ダルスとメルダも戻ってきた。


「ふ〜! 選ぶだけで腹一杯になりそうっす! ここは天国っす!」

「そうね! どれも美味しそうで迷っちゃう! これが全部食べ放題なんて信じられないわ!」


 案の定、ダルスの皿もフォンと同様に料理が盛られている。

 俺は改めて心の中で胸を撫で下ろした。


「お兄ちゃん! あたし達も料理取りに行こ!」

「おう! そうだな!」


 俺と七海は皿を掴むと料理を取り分け始める。


「ねぇお兄ちゃん、なんか料理少ない気がしない?」

「た、確かに……」


 今は昼のピークを過ぎた辺りだが、料理が綺麗に取り尽くされた物が多かった。

 俺は自分達のテーブルに視線を向けると苦笑する。


「まさか、あいつら俺が残すなって言った意味を履き違えて無いだろうな……」

「まっさかー! 普通そんなに食べられないよ……」


 そんな事を話しながら、俺達も料理を取り分けてテーブルへ戻るのだった。


 ※ ※ ※


 数十分後、俺の予想は的中していた。

 フォンとダルスは満足そうに突き出た腹を撫でている。


「ぬー。トール様、すまねぇっす。料理、残しちまったっす!……ゲフッ!」

「うー。トール様、アタシも……もう、食べられないんだわさ……ゲフッ!」


 二人の前には山積みになった皿が鎮座していた。

 軽く数えても20皿近くある。

 しかもコイツらは、その皿の全てに料理をてんこ盛りにして持って来ていたのだ。

 コイツらも『空間収納』を持っているのではないかと思う程に、大量の料理を平らげていた。


 俺や七海やメルダは勿論、俺達の背後に控える店員までも、その皿の量に驚愕している。

 そして俺達の様子を伺っていた店員が、恐る恐る声を掛けてくる。


「お、お客様……お済みのお皿をお下げしても宜しいでしょうか?……」


 フォンとダルスはゆっくりと肯首すると、店員はそそくさとテーブルを片付ける。

 その手際の良さに俺は感心して眺めていた。


 落ち着いた所で、ふと七海が口を開く。


「ねぇ、フォンちゃんとダルスくんってさ……」

「「んん?」」


 フォンとダルスは、いつの間にか膨れた腹が元に戻ると、お茶を飲みながら顔を向かい合わせている……


「まだ付き合ってないの?」

「「ブフォーー!!」」


 七海の言葉に、フォンとダルスは盛大に飲み物を吹き出し、二人の顔はビショビショに濡れた。


「な、ななな七海ちゃん! なんてこと言うんだわさ!!」

「そうっす! 誰がこんなヤツと……」


 二人は慌てて顔を拭きながら七海に反論するが、その顔は真っ赤に染まっていた。

 どうやら満更でもないらしい。


「二人とも顔が真っ赤だよ? 実は好きなんじゃないの? ほらほら、正直に言っちゃいなよっ!」


 七海は意地悪そうに二人に促す。

 すると、ダルスがフォンに目線を逸らしながら呟く。


「オ、オイラは別に、フォンでも良いっす……」

「ア、アタシは……」


 ダルスはフォンに対しての好意を認めた。

 そしてフォンも静かに口を開き始める。

 直後、人々の視線が一気にフォンに向けられ、店内は静寂に包まれた。


「アタシは……!?」


 だが、視線を感じたフォンは周囲を見回す。

 すると、フォンの顔が更に赤く染まっていく。


「アタシは……アタシは…………」


 フォンはギュッと手を握り締め、目を強く瞑った。




「アタシはダルスのことは何とも思ってないんだわさ!!!!」




『『あぁー……』』


 店内からは何処からともなく落胆の溜息が木霊する。

 そしてダルスはプルプルと肩を震わせると。


「……くっ。あーっ! 期待したオイラがバカだったっす! もういいっす! フォンなんて知らないっす!!」


 テーブルに突っ伏し、拗ねてしまった。


「もう……フォンちゃん、勇気出さなきゃ! 実るものも実らないよ?」

「うぅ……だって……ここじゃ恥ずかしいんだわさ……」


 フォンの言葉にダルスの耳がピクリと動くと、ダルスはそっと顔を上げ、フォンをじっと見つめる。


「べ、別に、ダルスの事は……嫌いじゃ無いんだわさ。でも……でも……」


 フォンはダルスから視線を逸らしながらモジモジと手元を弄っている。

 その様子にダルスは一つ大きな溜息を吐く。


「ふう……オイラはどっちでも良いっす。返事はそのうちすれば良いっす」


 フォンは静かに頷く。


「その代わり、絶対に嘘だけは吐くなよな!!」

「……わ、わかったんだわさ!」


 更にフォンは強く頷いた。

 その顔を見てダルスは満足そうに笑う。

 二人の様子に俺達は胸を撫で下ろす。


「まだ発展途上ってところね……」


 そして七海は静かに呟いた。

 こうして、二人は互いに想いを告げる事が出来た……のか?


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


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ありがとうございます!

次回の更新は16日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] よし、七海ちゃんよくぞ言ってくれた! いけー、そこだ! ダルス! 『フォンでもいい』って何だ! もっと言い様があるだろ! いけー、フォン、言っちまえー! ……………………。 あー……。 …
[一言] 甘酸っぺえ( ˘ω˘ ) 青春やなあ( ˘ω˘ )
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