65話 お買い物券の罠
二度目のエスカレーターは全員、難なく乗る事が出来、特に何事も無く抽選会場へと辿り着いた。
会場に用意されたテーブルの上にはガラポン抽選機が置かれ、その前では五人程の客が順番を待っている。
テーブルの背後には配当表が掲示されていた。
一等:有名テーマパークのペアチケット
二等:家庭用3Dプリンター
三等:大型液晶テレビ
四等:お買い物券5000円分
参加賞:お好きな飲み物ひとつ
抽選が一万円で1回の為か景品は割と豪華だ。
何人かの抽選を見ていると、5回に1回は四等が当選していた。
これは期待出来るかもしれない。
「よーし、みんなそこの列へ並べ! 抽選機は時計回りに回すんだぞ!」
三人を並ばせようとするが、フォンが首を傾げた。
「とけいまわりって、何だわさ?」
「あー、時計回りは……この方向だ!」
俺は三人の前で腕を回して見せた。
すると、フォン、メルダ、ダルスは大きく頷くと列に並び始める。
暫くしてフォンの番となった。
「はーい、じゃあ時計回りに1回まわしてくださいね〜」
係員の案内にフォンは小さく頷くと、ツマミに手を掛けゆっくりと回し始める。
ガランガランと玉の音が鳴り響き、コトンと玉が飛び出した。
出てきた玉の色は白だ。
「はーい、参加賞ですね〜。左がお酒、右がジュースです。お酒はハタチ以上の方だけで〜す。好きな物をおひとつ選んでくださ〜い」
「えっ……ハズレだわさ……」
残念ながらフォンはハズレだった。
悔しそうに飲み物を取ると俺達の元に帰ってきた。
「ダメだわさ……」
「まぁ仕方ないよな。で、何貰ってきたんだ?」
「うーん、よくわからないから適当に取ってきたんだわさ!」
フォンの片手には銀色の缶が握られていた。
「あれ? フォンちゃん、それお酒じゃない?」
「えっ? これお酒なんだわさ?」
なんとフォンが持ってきたのは缶ビールだった。
フォンは俺と目が合い苦笑するも、ゴクリと唾を飲み込み缶ビールを凝視する。
明らかに飲みたそうな顔をしている。
「あー、わかったわかった。飲みたいんだろ? 帰ってから飲ませてやるから今は我慢しろよな!」
するとフォンの顔がパァっと明るくなり笑顔が溢れる。
「良いんだわさ? わぁーい! 異世界のお酒、楽しみだわさ!!」
「フォンちゃん、お酒好きなんだね」
「お酒は……好きだわさ! ……すっ、好きだわさ!」
フォンは一瞬、天井を見上げて固まるが、七海の問いに素直に答えた。
あの一瞬の間が気になるが、酒が好きなのは本当だろう。
抽選会場を見ると、今度はダルスが抽選機を回そうとしていた。
ガラポンからコトンと音を立てて飛び出した玉は銀色だ。
直後、係員によってカランカランとハンドベルが鳴らされる。
「おめでとうございま〜す! 二等賞、3Dプリンター当選で〜す!」
突然の事態にダルスは目を丸くして固まってしまった。
だが、そんなダルスを他所に、係員はダルスへ巨大な箱が入った紙袋を手渡す。
「ありがとうございました〜」
すると、ダルスは目を丸くしながら俺達の元へ戻ってきた。
「おうダルス! 二等賞おめでとう!」
「な、なんか知らないけど当たったっす……」
俺達はダルスの持つ紙袋を覗き込むと、そこには3Dプリンターの入った箱が見えた。
「誰でも手軽に好きな物を! フィラメントをセットして、パソコンやスマホから簡単操作が出来ます!」
と、箱に書かれていた。
「「「「なっ、なんだこれ……」」」」
俺達は期待の斜め上な景品に口を開けて立ち尽くす。
だが、フォンはチラリとダルスを見遣ると、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「これは、どうせダルスには使い熟せないんだわさ!」
「なっ、なにぃ〜……」
ダルスは口元を痙攣らせている。
異世界では間違いなく喧嘩を始めるところだが、ダルスはジッと我慢しているようだ。
良いぞダルス! ここで暴れられたら困るからな!
俺は心の中でダルスを賞賛すると共に、フォンをキッと睨みつけた。
「うっ……ま、まぁ上手く使うんだわさ……」
フォンは俺から目を逸らすと、ばつが悪そうに横を向く。
そんな二人のやり取りを、七海はクスクスと笑いながら横目で眺めていた。
ふと抽選を見ると、今度はメルダの番だ。
メルダは恐る恐る抽選機へ手を掛けると、手早くハンドルを回す。
飛び出した玉は黄色だ。
「は〜い、おめでとうございま〜す! 四等賞、お買い物券5000円分で〜す!」
メルダは係員から封筒を受け取ると、俺達の元へ駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっと! 当たっちゃったわよ!」
「おうメルダ! おめでとう! お前が一番まともなものを当てたみたいだぞ!」
「えっ?……」
メルダはフォンとダルスの手元に視線を向ける。
「これは……さっき自動販売機で買ってたヤツね。えーと、飲み物と……これは何かしら?」
メルダは3Dプリンターに指を差すと首を傾げた。
「実は俺達にもよくわからないんだ。何か物を作れるらしいんだが、パソコンかスマホが無いと使えないみたいでな……」
「ぱそこん? すまほ? うーん、難しそうだけど、あたし複雑な物に燃えるのよね。ねぇダルス、あとでこれを貸してくれる?」
メルダはギラリと目を光らせながらダルスに迫る。
「おっ、おう。そこまで言うならコイツはメルダにやるっす……」
「えっ、ほんと? ありがとうダルス!」
メルダは嬉しさのあまりダルスへ飛び付いた。
その様子をフォンは不機嫌そうに眺めていたが、ダルスとメルダはその視線に気付くことは無かった。
メルダは3Dプリンターをダルスから受け取ると、握りしめている封筒に視線を向ける。
「あっ、そうだ! この紙で何か買えるのよね?」
「そうだ。5000円分だから、それなりに良いものが買えるぞ!」
「じゃあ次はメルダちゃんの買い物だね!」
「よし、丁度良い。店内を一周してみるか!」
全員が揃って頷く。
こうして俺達はメルダが当てた商品券を使う為、建物の中を見て回る事になった。
※ ※ ※
家電量販店に着いた。
店内に入ると真っ先に目に飛び込んで来た物はスマホ売り場だ。
「ちょっと、なによここ! 紐に繋がれた四角い箱が沢山あるわ……」
「ははっ、これはスマホってヤツだ。さっき当たった3Dプリンターもこのスマホがあれば動かす事が出来るぞ!」
「ふ〜ん。じゃあ、この紙でスマホを買おうかしら?」
メルダは商品券を封筒から取り出すと、スマホに付けられた値札と見比べる。
「いち、じゅう、ひゃく、せん……まん?」
そして俺に顔を向けると、口元を痙攣らせた。
「も、もしかして、足りない?」
「そうだな……」
スマホには25000円の値札が付けられていた。
「そ、そんな……」
「まぁ仕方ないよな……」
メルダはガックリと肩を落とすと、俺達はスマホ売り場を後にしようとする。
「ンお客様〜! ン何かお探しでしょうか〜?」
振り返ると、両手を擦りながら眼鏡を掛けた男性店員が俺達に笑顔を向けていた。
「え〜と、スマホを買おうかと思ったんだけど、予算が足りなくて……」
「ン何と! ンご予算はお幾らですかな〜?」
店員は大仰に驚くと、俺達の手元をチラリと見遣る。
「うーん、5000円なんだけど……こんなんじゃスマホは買えないよなって諦めてて……」
「ンご心配は要りません! ン当店、中古のスマホも取り扱っておりますので! ン5000円でしたら中古の端末はご購入頂けるかと〜」
店員はキラリと眼鏡を光らせると、自信満々に提案した。
その言葉にメルダの顔がパァっと明るくなる。
「ほんと!? ちょっと、その中古のスマホ、見てみたいわ!」
「ン畏まりました〜! ンそれではこちらに〜……」
俺達は店員の後に続くと、ガラス張りのショーケースに案内された。
「ンこちらは4000円の価格帯の端末となっております〜。ン機能面でお客様のご要望はございますか〜?」
「そうだ、コレに対応する物が欲しいんだ……」
俺はメルダの持つ3Dプリンターを店員に差し出した。
「ンなるほど〜。ンこの規格の通信を搭載となりますと〜……」
店員は舐めるようにショーケースを見回し、スマホの値札に書かれた細かな文字を読み漁っていく。
暫くすると、店員の目の動きが止まった。
「ンこちらの端末は如何でしょう〜?」
店員はショーケースの鍵を開け、一つの端末をメルダに手渡した。
次の瞬間、店員の目が見開かれ、メルダを凝視する。
「ンこの端末は一昨年発売されたモデルの廉価版となっております容量は64ギガとやや少なめではありますがメモリは4ギガとなかなかハイスペックとなっておりますご要望の通信規格にも対応しておりますのでそちらの3Dプリンターも問題なく動作いたしますBランク品と若干傷が付いていますが一か月間の動作保証も付いておりますのでご心配は要りませんお客様のご要望を満たすピッタリの逸品です!!!!」
店員の話が終わると俺とメルダは目を丸くしながら店員に視線を向ける。
「「……」」
俺達は店員の話の一割も理解できていなかった……
「えーと、この端末は幾らですか?」
「ンお値段は税込4000円となります〜」
俺はメルダと顔を合わせる。
するとメルダは強く頷いた。
どうやらこの端末にするらしい。
「じゃあ、この端末を買います」
「ンお買い上げありがとうございます!!」
俺達はレジに進もうと踵を返すが、店員に動く気配は無い。
振り向くと店員の眼鏡が再びキラリと光った。
「ンお客様〜。ンそちらの商品券はお釣りが出ません! ン1000円分が無駄になってしまいます〜。ンよろしければ充電器は如何でしょうか〜?」
俺は再びメルダと顔を合わせる。
異世界にはコンセントなんてものは無い。
スマホの充電を使い切ってしまえば、わざわざ地球まで充電をする必要があるのだ。
メルダも同じ事を気付いたようで、ハッとした顔をしている。
「あー、そうだな……コンセントが無くても充電が出来るものがあれば欲しいんだけど……」
「ンなるほど〜! ン屋外で使えるアウトドア向けの充電器をお探しですね! ンではこちらに〜」
どうやら店員は都合良く解釈してくれたようだ。
俺達は再び店員の後を付いていく。
「ンこちらがアウトドア向けのバッテリーチャージャーとなります〜。ン主に乾電池、手回し式、太陽光の3種類がございます〜」
俺は棚に並べられた充電器を見回す。
乾電池……は異世界で手に入らないから無理だな。
となると、手回し式か太陽光の二択だが……
「太陽光……」
メルダがふと呟き、俺に向き直るとポンと俺の肩を叩く。
その顔は何かを企むような雰囲気を纏っていた……
「太陽光にしましょう!」
「ン太陽光ですね! ンお買い上げありがとうございます〜」
だが、俺の不安を余所に店員はスマホと充電器をレジへと運ぶ。
俺達もレジへと進み支払いを行う。
「ンお客様のお会計、ン8000円になります〜」
俺は顔が引き攣った。
またしても予算オーバー。
おかしい、どうしてこうなった?
店員に視線を向けると、店員は笑顔で俺を見つめている。
だが、その目は笑っていない。
今度はメルダへ視線を向けると、満面の笑みで俺に熱い視線を向けている。
ここで引いたら許さないと、そんな思いがひしひしと伝わり、俺は仕方なくニャオンを取り出す。
「……ニャオンで」
「ンではこちらに!」
「ニャオンヲ、タッチシテクダサイ」
「ニャオン!」
決済音がレジから響いた瞬間、店員の口元が更に緩む。
どうやら、ここまでの流れは全て店員の中で仕組まれていたらしい。
5000円の商品券を使おうとしていたこと、スマホを探していたことを。
予算より若干安いスマホを勧めたのは、差額で充電器を買わせる為だろう。
余りが無駄になると言われれば、差額で何か買おうと考えるのが客の心理だ。
そこに差額では買えない物を勧めることで、予算よりも高い金額を客に出させる事が出来る。
今回は完全に店員の策に嵌められてしまったわけだ。
度重なる予算オーバー。
間違いなく前世の俺に怒られるだろう。
「ンこちらが商品になります〜。ンお買い上げありがとうございました〜」
俺は小さく溜息を漏らしながら、店員から商品の入った袋を受け取ると、内心で泣きそうになりながら、その場を後にするのだった。
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