64話 服を買おう!
――地球では、メルダ、フォン、ダルス、の三人が目を丸くしながら空を見上げている
「なっ……なによこれ……」
「おっきいんだわさ……」
「首が……折れるっす……」
俺達は繁華街へ入ると、その中でも一際高く聳え立つ高層ビルへ異世界の三人が心奪われていた。
ビルは地上20階を超え、その根元からは建物の全容を窺い知ることは叶わない。
異世界の建物といえば、5階もあれば高層ビルだ。
20階を超えるこのビルは、三人には刺激が強過ぎるのだろう。
「おーい、そろそろ行くぞー」
立ち止まる三人へ声を掛けると、三人は空を見上げながら此方へと歩いてくる。
三人の異様な姿勢に七海は怪訝な表情で問う。
「み、みんなどうしたの?」
「ずっと上を向いてたから……」
「首が固まったんだわさ……」
「下を向けないっす……」
「そ、そうなんだ……」
七海は苦笑しながら俺へ視線を向ける。
「お兄ちゃん、少し休憩しようよ!」
「ったく、しょうがないな。ちょっと休むか……」
俺は肩を竦めながら、三人の回復を待つ事にした。
ふとフォンとダルスへ視線を向けると、二人の手には俺が温めた缶が握られている。
その缶は外気に触れて冷えていくものの、未だ缶の表面は薄っすらと赤く輝いていた。
おそらく温度は400度を超えているだろう。
これをそのまま建物の中へ持ち込めば、火災報知器が作動するかもしれない。
余計なトラブルを回避する為に、缶を常温へと戻す事にした。
「二人とも、その缶貰っていいか?」
「はーい!」
「んーっ!」
フォンとダルスは斜め上を向きながら、腕を垂直に伸ばして俺に缶を差し出した。
その姿はまるでゾンビのようだ。
「お、おう。ありがとう」
俺は二人から缶を受け取ると、缶を握り締め、掌から缶の熱を奪っていく。
手から常温に調整した熱の流れを缶へと注ぎ込み、缶から押し出された熱を体内へ吸い取っていくような感覚だ。
数秒が経つと、常温へと戻った缶は真っ黒に焦げていた。
申し訳ないと思いながらもコーンポタージュとおしるこだった缶をゴミ箱へ捨てる。
三人へ目をやると、首をバキバキと音を鳴らしながら左右に傾げている。
どうやら回復したようだ。
「よし、そろそろ行くか!」
全員が頷き、俺達は再び歩き始めた。
暫くすると目的のショッピングモールへ到着する。
自動ドアを抜け、店内へと歩を進める。
異世界の三人は自動ドアに驚くと思ったが平然としていた。
思い返すと向こうには魔法がある。
物が勝手に動く事には慣れているのかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、建物中央の吹き抜けに辿り着く。
「「「おおおおー!……」」」
三人は目を輝かせて吹き抜けに魅入っていた。
吹き抜けの作りは1階から最上階までが空洞となり、上りと下りのエスカレーターが左右に1セットずつ配置されている。
エスカレーターとエスカレーターの間にはガラス張りのエレベーターが横に3機設置され、忙しなく上下に稼働していた。
「床が、輝いてるんだわさ……」
「色んな物が動いてるっす!」
「天井も壁もみんな光ってるわ……」
光沢のある床は天井の照明を反射し、壁は間接照明が使用されている。
吹き抜けの左右は道となっていて、道の端には店舗がズラリと並んでいる。
大手スーパーが運営する巨大ショッピングモールだ。
地下都市アルキメデスも都市自体が似たような作りをしているが、華やかさや開放感に欠けていた。
規模では向こうが勝るが、美しさではこちらが長けているだろう。
三人は口を半開きにしながら、吹き抜けの景色を堪能している。
「異世界、凄いんだわさ……」
「ずっと見てられるっす……」
「魔法が無いのにこんなものが作れるなんて……」
だが、いつまでも此処に居ても仕方がない。
「七海、店の場所を調べてくれないか?」
「わかった! うーんと……3階だね! エスカレーターを登ってすぐみたい!」
七海は吹き抜けの先に指を差した。
俺は七海に礼を言うと立ち尽くす三人へ声を掛ける。
「よーし、そろそろ行くぞ!」
「「「はぁーい……」」」
三人は名残惜しそうに渋々歩き出した。
七海を先頭にフォン、ダルス、メルダと続くが、ふとフォンの足が止まる。
「フォン、どうした?」
「いや、その、階段が動いてるんだわさ……」
フォンはエスカレーターを凝視しながら苦笑している。
どうやら初めてのエスカレーターで怖いようだ。
「それはエスカレーターって言ってな、黄色い枠の中で立ち止まるんだ。黄色い線を踏むと段差が出来るから気を付けろよ!」
「わ、わかったんだわさ……」
フォンは恐る恐るエスカレーターへ飛び乗る。
するとフォンを乗せたステップはぐんぐん上昇し、俺達と離れていく。
その様子をダルスは目を丸くして眺めていた。
「ほら、ダルスも乗れよ!」
「りょ、了解っす……」
ダルスはゴクリと唾を飲み込むと、片足でポンと飛び乗った。
二人の様子をメルダは頷きながら眺めている。
「なかなか楽しそうね、このエスカレーターって……」
メルダは嬉しそうにエスカレーターへ一歩踏み出した。
「そんなに怖がる事も無いわね。足元の石が上に上がるだけで……」
メルダが言葉を言いかけたその時、メルダの体が傾いた。
「えっ?」
そしてメルダは後方へ向けて倒れていく。
「あっ、あわわわわ……」
「おっと。気を付けろよ!」
どうやらメルダはステップの黄色い線を踏んで乗ってしまったようで、段差が生まれた時に体勢を崩してしまった。
幸い俺が背後に控えていた為、メルダの肩を支える事が出来た。
「あっ、ありがとうトール……」
「あんまり甘く見るなよ! 結構、転倒事故とか起きるんだからな!」
メルダは恥ずかしそうに顔を赤らめながら前を向き直った。
暫くすると3階に到着し、エスカレーターを降りた目の前に目的の服屋があった。
「よーし、みんな上下一着ずつ買うぞ! 七海、フォンとメルダの服を選んでやってくれ!」
「はぁーい! じゃ、フォンちゃん、メルダちゃん、行こ!」
フォンとメルダは頷くと七海の後をついて行く。
「よーし、ダルスは俺とだな。付いて来い!」
「了解っす〜」
※ ※ ※
服選びは特に悩む事もなく、15分程度で決める事が出来た。
フォンは茶色のニットと黒のチノパンとハンチング帽を。
ダルスは黒の革ジャンと白のジーンズと黒のワークキャップを。
メルダは黒のトリプルリボンドールワンピースを選んだ。
俺は三人の服を籠に入れレジへ進んでいく。
「いらっしゃいませ! お客様のお会計、31582円になります」
「えっ、さんまん……あっ、はい……ニャオンで」
「ニャオンヲ、タッチシテクダサイ……」
「ニャオン!」
「ありがとうございました! こちら1万円お買い上げ毎にお配りしている福引券になります。5階の抽選会場でお引きください!」
「あっ、わかりました……」
俺は会計を終え、ヨロヨロと仲間達のもとへ戻る……
「お帰り、お兄ちゃん!……って、どうしたの!? お兄ちゃん、その顔……」
「へ? な、なんでもないよぉ……」
なんでもない訳がない。
3万だぞ、3万!!
俺の財布の中身は俺が一番よく知っている。
3万を気軽にポンと出せるほど俺の給料は高くない。
前世の俺は間違いなくキレる。
額を嫌な汗が流れ、ガックリと肩を落とした。
※ ※ ※
買い物を終えると、七海は俺が持つ福引券へ視線を向ける。
「お兄ちゃん、その券なーに?」
「ん?……ああ、福引券だとさ。3枚あるからお前ら引くか?」
四人の目の前に3枚の券をちらつかせて見せた。
だが、フォン、メルダ、ダルスは揃って首を傾げる。
「ふくびきけん……って何だわさ?」
「ああ、福引券ってのは……簡単に言うと、何かが貰える抽選に参加する為の券だな。5階で抽選が出来るらしい。どうだ、やるか?」
「へぇ、面白そうじゃない! やってみようかしら?」
「オイラもやりたいっす!」
「フォン、お前もやるか?」
「うん! アタシもやりたいんだわさ! あっ、でも七海ちゃんは?……」
フォンは思い出すように七海へ視線を向ける。
「あたしはいつでも出来るから気にしないで! みんなで引いてよ!」
だが七海は両手を振り福引を断る。
三人は七海に礼を言うと、俺達は5階の抽選会場へ向かう事となった。
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