61話 あったか〜い
俺達は朝食を食べ終え、片付けも済ませると、テーブルで談笑をしていた。
「やっぱり異世界の料理は美味かったっす!」
「うんうん! 異世界に住んじゃいたいくらいだわさ!」
「でも、魔法が無いのにあたし達の世界より文明が進んでいるのはちょっと悔しいわね……」
そんな他愛のない会話が続く中、ふと七海が口を開く。
「この後の買い物は勿論みんなで行くんだよね?」
だが、前世の俺は申し訳無さそうに手を挙げる。
「いや、すまないが俺は行けないな……」
全員の視線が前世の俺へ集中する。
「どうした? 何か用事か?」
「ああ。昨日オレの記憶を見ただろう?」
「そういえば昨日、記憶を共有した時に面藤絡みで何かあったような……」
俺は眼を閉じると、昨日の記憶の中から前世の俺のモノを手繰り寄せていく。
すると、面藤……つまり遠藤料理長との遣り取りが浮かんだ。
※ ※ ※
【遠藤さん、お先です】
昨日の退勤前の光景だ。
遠藤料理長を前に、前世の俺が通用口の扉に手を掛けようとしている。
【おい待て、樋口! お前明日休みだろ?】
【えっ? ええ、まぁ……】
この展開は何度も覚えがある。
退勤前に遠藤料理長に呼び止められる時。
それはいつも面倒事に巻き込まれる前兆だ。
【昼からで良い。明日はワイに付き合え! どうせヒマだろう?】
【ええっ!? いや、俺明日はちょっと……】
ほら来た。
どうせ何か面倒事を押し付けられるのだろう。
【さっき団体様の予約が入ったんだよぉ〜! 頼むよぉ、なぁ樋口ぃ?〜】
【ははは……わかりましたよ……】
面藤は前世の俺の肩を組み、満面の笑みを押し付けてくる。
前世の俺は乾いた笑いを溢すと、迫り来る笑顔に負け、渋々面藤の頼みを聞き入れてしまった。
※ ※ ※
記憶の一部始終を見終えた俺は、静かに苦笑する。
「ははっ。何時もの事だが、お前も大変だな」
「全く参るよなぁ、面藤には……」
前世の俺は頬を掻くと、徐に立ち上がり財布を取り出す。
そして数枚の千円札と電子マネー“ニャオン”を俺へ差し出した。
「まっ、そんなわけだ。俺は行けないが、これで楽しんでこい!」
「いつも済まないな……|向こうの世界(異世界)へ行く時には、この穴埋めは必ずするからな!」
「おう。期待しないで待ってるぞ!」
「いや、そこは期待しろよ!!」
そんなわけで前世の俺を残し、俺達は買い物の為に街を目指し部屋を出た。
※ ※ ※
五分程歩くと繁華街が近い所為か、行き交う人々が増えてきた。
「凄い人混みっす……」
「獣人も居るんだわさ! 服装もアタシ達のものよりも派手だわさ!」
「高い建物が沢山あるわね!……」
ダルスとフォンがマスクで口元を覆いながらモゴモゴと呟く。
フォンは辺りを見回しながら、人々の姿を観察している。
服装に興味を示しているようだが、今はハロウィンのシーズンだ。
街には仮装をした人々が歩いている。
どうやらフォンは色々と勘違いして居るようだ。
「今はハロウィンって言ってね。みんな普段よりも派手な服装や仮装をして歩いてるの。獣人も仮装で、中身は人間だよ!」
「へぇ〜! 面白いんだわさ!」
七海の説明にフォンは目を丸くし、コスプレをする人々へ更に熱い視線を向けていた。
暫く歩いていると、フォン、ダルス、メルダが小刻みに震え始める。
「なっ、なんだか寒気がするんだわさ……」
「オ、オイラ風邪引いたかもしれないっす……」
「ちょっとこの世界寒すぎるんじゃないの!?……」
確かに異世界の気温はやや暖かく、日本では6月頃の陽気が続いていた。
もしかしたら異世界には季節という概念が無いのかもしれない。
特に今日は雪が降りそうな程に寒い。
ただ単に寒さを凌ぐだけなら炎を纏わせてやればいいが、街中で炎を放てば大混乱に陥ってしまうだろう。
「ここで炎を出すわけには行かないしな。うーん、どうするか……」
若干の歯痒さを抱いていると、七海が指を差す。
「お兄ちゃん! 良いものがあるよ!」
「ん? 自販機? ……そうか! 七海、でかしたぞ!」
七海の指が差す先には一台の自販機があった。
11月ということもあり、“あったか〜い”の飲み物がセットされている。
俺は七海の頭をポンと撫でると、七海はフンと鼻息を荒く吐いた。
そんな俺達の様子を異世界の三人は首を傾げて眺めている。
「んん? トール様、この大きな箱はなんだわさ?」
「この箱、光っているけど魔法の気配は感じないわ。これも電気で動いているのかしら?」
「なんだか不思議な気配のする箱っす……」
怪訝な表情を浮かべる三人を横目に、俺はポケットから千円札を取り出し自販機へ挿入する。
「これは自動販売機……自販機と言ってな。飲み物が買える機械だ。メルダの言う通り、電気で動いている」
「じはんき? 物が買えるって事は、この箱は獣人……じゃないわよね?」
メルダは更に深く首を傾けている。
どうやら自販機を箱型の獣人だと考えたらしい。
そんなメルダを余所に、俺は自販機のボタンへと手を伸ばしていく。
「千円札を入れた後に、欲しい飲み物のボタンを押せば……ほら!」
すると、ガコンと重厚な金属音と共に、取り出し口に缶コーヒーが落ちてきた。
「凄いんだわさ!」
「中に誰か入ってるっす!」
「どうだ、凄いだろ! これが自販機だ! 金を入れたら好きなだけ飲み物を買えるぞ! ちなみに中には誰も入ってない! よし、メルダ! これを待ってみろ!」
取り出し口から缶コーヒーを掴みメルダへ渡す。
「ん! 暖かいけど、これはどうやって使うのかしら?」
「あたしに貸してみて!」
七海はメルダから缶コーヒーを受け取ると、プルタブを起こす。
すると缶からシュコッと心地良い音が鳴り、香ばしい香りが漂う。
「はい、メルダちゃん。飲んでみて!」
「ありがとう七海ちゃん! ……あっちゅい!!」
メルダは咄嗟に口から缶コーヒーを離しながら顔を顰めた。
「ちょっと! コレ熱くて飲めないわよ!」
「そうか。メルダは熱耐性を持っていなかったな。なら冷めるまで持ってみろ! 少しは寒さも紛れるだろ?」
結局、メルダは暫くコーヒーを握り寒さを凌いでいた。
そんな中、フォンとダルスの目が輝いている。
「ん? 二人共どうした?」
「じはんき、やってみたいんだわさ!」
「オイラも、やりたいっす!」
キラキラと俺を見つめる二人は、まるで玩具を強請る子供のようだ。
「わかったわかった! 好きなのを買え!」
今度は自販機へ“ニャオン”を翳す。
すると、ボタンが一斉に点灯した。
「うわぁ! 綺麗だわさ……」
「これで買えるようになったぞ。好きなボタンを押せば飲み物が出てくる」
フォンは恐る恐るボタンを押す。
するとガコンとコーンスープが出てきた。
フォンは取り出し口から缶を取り上げると顔が綻ぶ。
「あったかいんだわさ〜」
まるで風呂に浸かっているかの如く、幸せそうな表情を浮かべている。
「オイラも! オイラもやるっす!!」
今度はダルスがボタンを押す。
すると、おしるこ缶が落ちてきた。
「ふわぁ〜あったかいっす〜」
ダルスも幸せそうな表情を浮かべる。
だが、フォンの表情が徐々に俯いてきた。
「フォン、どうした?」
「もう冷たくなったんだわさ……」
どうやら缶が冷めてしまったらしい。
暫しフォンの缶を眺めていると一つ思いついた。
「フォン、その缶貸してみろ!」
「ん? 何をするんだわさ?」
フォンからコーンスープ缶を受け取ると、両手で包み込み徐々に敵意を込めていく。
すると、ボコボコと音を立ててコーンスープが沸騰を始める。
更に敵意を強めていくと、缶が赤く発光し始めた。
ここで敵意を止め、フォンに缶を返す。
「ほら、温めておいたぞ。どうだ?」
「うん! さっきよりあったかいんだわさ!」
フォンの顔が再び綻ぶ。
するとダルスが缶を差し出してきた。
「オイラのも頼むっす!」
「おう、ちょっと待ってろ!」
二度目となると慣れたもので、一秒足らずで加熱が終了した。
真っ赤に輝くおしるこ缶をダルスへと返す。
おそらくこれで一時間は寒さを凌げるだろう。
ふと七海へ視線を向けると、七海は目を丸くし口をポカーンと開けていた。
「ん? どうした、七海?」
「お、お兄ちゃん、今何したの?」
「何って、缶を温めたんだよ。500度くらいに」
「お兄ちゃん、それ温めるってレベルじゃないよ……」
七海は顔を痙攣らせながら俺へジト目を向ける。
「えっ、まぁいいじゃないか。二人も喜んでるみたいだし……」
「もう中身飲めないんじゃないの?」
七海の指摘で食材を無駄にしてしまった事に気付き、安置な行動に反省した。
「うっ。確かにそうだな……」
「はぁ〜コレ、すっごく良いんだわさ〜」
「なんか落ち着くっす〜」
苦笑する俺を余所に、フォンとダルスはストーブの如く真っ赤に輝く缶へ頬擦りをし、メルダと七海はそんな二人へ微笑む。
こうして俺達は日本の文化と平穏な日常を満喫していた。
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