60話 異世界人と日本料理
身支度を終えた俺はキッチンへ向かうと、前世の俺が既に朝食を作り始めていた。
「「おはよう」」
「何を作ってるんだ?」
「おう。今日はザ・日本食! 焼き魚と味噌汁だ!」
ハモる挨拶を終えてまな板に目を向けると、鮭の切り身とナメコと豆腐が置かれ、炊飯器は保温モードとなっていた。
「ほう、コメはもう炊けてるのか」
「そうだ。あとはナメコの味噌汁と鮭を焼くだけだ!」
「そうか、じゃあ魚は俺が焼こう」
「おう! 任せた!」
俺はテーブルに視線をやり、人数の確認を行う。
(えーと、前世の俺と、フォン、ダルス、メルダ、俺、あとは……)
ふと、七海と目が合った。
「七海ー! 朝飯食ったか?」
「まだだよー!」
「わかった! お前の分も用意するぞ!」
「うん! お兄ちゃんありがとー!」
どうやら七海を含めて六人の食卓となりそうだ。
鮭を焼く為にテーブルへ網を敷いた大皿を置き、網の上に六切れの鮭の切り身を乗せる。
そして適度に塩を振れば下拵えは完了だ。
あとは食べる直前に焼けば良いだろう。
暫くすると味噌汁が出来上がり、配膳が完了する。
「これが異世界のご飯だわさ?」
「なんか色々あるっす!」
「キノコのスープがちょっと変よ……」
「よし! みんな揃ったな! それじゃあ魚を焼くぞ!」
全員が席に着き各々が感想を口にしたのを確認すると、俺は左手から炎を放ち、網や鮭に纏わせた。
すると五人の視線が網の上の鮭に集中する。
「うわぁ。この焼き方面白いね!」
「本当に不思議な炎だな……」
七海と前世の俺が目を丸くしながら感想を口にした。
「おう! 普通じゃ食えない鮭を食わせてるから待ってろよ!」
そんな事を言いながら、俺は弱火程度の敵意を込めて、ある仕掛けを施した。
やがてジュワッと滴る脂と共に、香ばしい匂いが漂い食欲を唆る。
「うーん! 良い匂いだわさ!」
「異世界の魚も美味そうっす!」
「これはなんて言う魚なのかしら?」
「これは鮭っていう魚だ。生でも食えるが焼いても脂が乗ってて美味いぞ!」
三人の口からジュルリと音が漏れる。
どうやら我慢の限界が近いようだ。
だが、テーブルを見遣ると何か物足りなさを感じる。
「なぁ、何かもう一品付けようぜ!」
「そうだな。冷蔵庫に納豆があった筈だが……」
俺が冷蔵庫からパックの納豆を取り出した。
「「ぐっ!!」」
直後、ダルスとフォンが顔を顰め鼻を抑える。
獣人ということもあり、人間よりも鼻が効くのだろう。
「なっ、なんだわさ、そのクサいの……」
「は、鼻がおかしくなりそうっす……」
「おう、これは納豆って言ってな、豆を腐らせた食べ物だ!」
「く、腐った!? トール様はアタシ達になんて物を食べさせるつもりなんだわさ!?」
「これは……オイラには無理っす……」
納豆のパックをテーブルに置くと、フォンとダルスは仰け反ってしまった。
「ちょっと! そんなに酷い臭いなの?」
メルダが首を傾げながら納豆のパックを開封すると、手で仰ぎながら臭いを確認し始める。
「くっ……くっさー!! ちょっとトール!! アンタなんて物を出すのよ!?」
メルダは目を見開きながら俺に人差し指を向ける。
「ま、まぁ確かに臭いはアレだが、味は美味いぞ!」
だが俺はニヤリと嗤いながら、メルダの開けた納豆に付属のタレを掛けて数回掻き回す。
そして小さな炎の竜巻を生み出し納豆を数粒包み込むと、炎の竜巻ごとメルダの口の中へと突っ込んだ。
「……ほらよっ!」
「むぐぐ……や、やめなさいよ! こんな……腐った……」
炎の竜巻はメルダの口内で消滅し、納豆だけが舌の上に残る。
苦悶の表情を浮かべるメルダだが、恐る恐る咀嚼すると強張っていた顔が徐々に平静を取り戻していく。
「あら? 案外イケるじゃない……臭いはアレだけど、味は良いわね……」
「だろ! 俺が料理で失敗するわけ無いじゃないか! はっはっは!」
俺はドヤ顔で応えるが、七海からはジト目が向けられてしまう。
「その納豆、お兄ちゃんが作ったんじゃないけどね……」
「うぐっ、そ、そういう事は言わなくて良いんだよ……」
七海の指摘に俺は思わず苦笑すると、七海はあざとくチロっと舌を出して応えた。
メルダの様子を伺っていたフォンとダルスも納豆を開封し、タレをかけて数回搔きまぜると、箸で摘み恐る恐る口へと運んでいく。
「こんなものが……」
「美味いわけ……」
「「……ん!!」」
「どうだ! 美味いだろ?」
「い、異世界の食べ物は凄いんだわさ!」
「く、腐った豆がこんなに美味いなんて思わなかったっす!」
二人の表情が笑顔に変わり、納豆を見つめていた。
「そうだろ? この納豆は、搔きまぜる程美味くなるんだ!」
俺は箸を握りしめ、両手首のスナップを利かせつつシャカシャカと搔きまぜ始める。
すると、フォンとダルスも俺を真似て納豆を掻き混ぜていく。
更にメルダも続き、俺達四人は黙々と納豆を掻き混ぜる。
「あれよりもおいしく……」
「なるなんて……」
「本当かしら?……」
そんな事を呟きながら、三人は納豆を凝視している。
(そろそろ三分か……)
「もう良いぞ! あとはコメに乗せて食ってみろ!」
三人の持つ納豆は真っ白に泡立っていた。
その納豆を各々がご飯の上へ掛けると、ご飯と共に納豆を箸で掬い口へと運ぶ。
「「「んん!!」」」
「どうだ? 美味いだろ?」
「ふぁっふぃほひほいひいんはわは!(さっきより美味しいんだわさ!)」
「はふえふふぁえほひふはいはっふ!(混ぜる前より美味いっす!)」
「ひょっひょふはひほほはひひっへふはははあはいふぁほ!(ちょっと二人共何言ってるか解らないわよ!)」
納豆のネバネバで、三人が何を言っているのかサッパリわからなかった。
「お、おう……何言ってるかわからねぇから、食ってから話せ……な?」
「はふぁっふぁふぁは!(わかったわさ!)」
「ひょほはひっふ!(了解っす!)」
「ほふへ!(そうね!)」
三人は大きく頷くと、納豆ご飯を無心で掻き込んでいく。
「ねぇ、こっちのお兄ちゃん。納豆をこんなに美味しそうに食べる人初めて見たよ……」
「そうだな。いつも何気無く食べている物でも、人によってはご馳走に変わる。それが料理ってモンなんだよ……」
七海は前世の俺の言葉に深く頷く。
そして、三人の満足そうな顔を目を細めて眺めていた。
暫くして三人は、ほぼ同時に納豆ご飯を完食すると、ナメコの味噌汁に手を伸ばす。
「このスープ、変だわさ……」
「うーん、なんか糸引いてるっす……」
「まさか腐ってるんじゃないでしょうね?」
「ははっ! 腐ってるものなら今食ったばかりだろう? それは滑子っていうキノコと、豆腐を入れて味噌で解いたスープだ! こっちでは味噌汁って言うんだよ。ナメコの味噌汁だな!」
「なめこのみそしる……」
「なんかヌメヌメしてそうな名前っす……」
「実際にこのキノコ、ヌルっとしてるわね……」
フォンは首を傾げ、ダルスは顔を顰め、メルダはナメコを箸で摘み眺めている。
「まっ、良いから食ってみろよ!」
俺は笑顔で食べる事を促すと、三人は渋々ナメコを口へと運んだ。
そして、ゆっくりと咀嚼すると、フォン、ダルス、メルダが口を開く。
「こ、これは……」
「何とも言えない食感っす!」
「でも、質素で美味しいわ……」
どうやらナメコも異世界人の口に合ったらしい。
三人はじっくりとナメコを噛み締めながら味わっている。
黙々と食べ続ける三人に満足した俺は、ふと七海に視線を向けると、鮭を箸で解しながら首を傾げた。
どうやら七海は鮭の秘密に気付いたようだ。
「ねぇお兄ちゃん! 鮭の骨がすぐ折れちゃうんだけど……」
「おう、気付いたか! 鮭はそのまま食えるようにしてあるぞ!」
「えっ! 網で焼いてただけなのに、何が違うの?」
「ふっ。秘密はさっき焼いていた炎にある。実は骨の周囲に纏わせる炎を変えたんだ。簡単に言えば部分的に圧力鍋にしたようなものだな。だから缶詰めのように丸ごと食べられるぞ!」
実は鮭を焼くときに、切り身の隙間から炎を潜り込ませ
圧力を掛けながら温度を上げることで、缶詰のように骨が舌で崩れそうになるまで柔らかくしていたのだ。
「そんな事も出来るの!?」
「へへっ! 炎の事なら任せとけ!!」
驚愕の表情を浮かべる七海へドヤ顔で応える。
数億本もの指を操るかの如く、炎の粒子を把握し自在に操作できる俺にとって、リヴァイアサンの手術に比べたら、この程度の炎の操作など文字通り朝飯前だ。
「こりゃ一家に一人欲しいお兄ちゃんだね!」
だが、七海はニヤリと嗤うと俺を揶揄ってきた。
「おいおい、俺をお手軽な調理器具みたいに言うなよ……」
「「「「「ははははっ!」」」」」
頭を掻きながら肩を竦める俺に、五人が笑いながら指を差す。
こうして和やかに二日目の朝は過ぎていった。
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