57話 異世界土産のナゾ肉
三人がケーキを食べ終えたのを見計らい、七海は三人へ質問を投げかける。
「ねぇねぇ、メルダちゃんって、お母さんも魔女なの?」
「あまりはっきりとは覚えてないわ。両親は幼い頃にスライムに殺されたから」
「うっ……そ、そうなんだ……変な事聞いてごめんね……」
「いいの。気にしないで」
思わぬ地雷を踏み抜き、七海はがっくりと肩を落とした。
「フ、フォンちゃんは兄弟とか居るの?」
「妹が居たけど、スライムに殺されたんだわさ……」
「ううっ……ご、ごめんね……あたし、その……」
「良いんだわさ。悪気が無いのはわかってるんだわさ!」
七海は更に肩を落とすと、申し訳無さそうに深々と頭を下げた。
「そ、そうだ! ダルスくんは向こうでは何してるの? やっぱり獣人とかいっぱい居るの?」
「オイラ、トール様と出会う前は闘技奴隷だったっす。獣人はいっぱい殺したっす」
「うううっ……あたし、なんでこんな余計なことばかり……」
七海は涙目になり頭を抱えた。
「ただいまー!」
直後、玄関の扉が開き、前世の俺が帰ってきた。
ナイスタイミングだ。
「おう、お帰り! 七海が来てるぞ!」
「そっか、いつもありがとな……って、え?」
前世の俺はフォン、ダルス、メルダへ視線を移すと固まってしまった。
三人も前世の俺を見て目を丸くしている。
「トール様が二人居るんだわさ!」
「そっくりっす!」
「双子かしら?」
そして前世の俺へは困った様子で俺に訴えかける。
「お、おい、これはどういう事なんだ? どうしてこいつらがここに居るんだよ……」
「そ、それはな……」
俺は釈明の為に前世の俺と目が合わせると、静電気のような衝撃が体中に走り、以前のように一瞬にして記憶を共有した。
「魔王って何だよ……」
「また面藤か……」
「「はぁ……」」
そして俺達は大きく溜息を吐く。
その様子を四人は首を傾げながら眺めていた。
※ ※ ※
「……っというわけなんだ」
俺は四人に前世の俺との関係、そして記憶と左目の映像の共有について説明した。
「じゃあ、トール様と、とおる様?……は、同一人物で、ここは二人の部屋って事だわさ?」
「「そういう事だ!」」
「息ピッタリっす!」
「「そうだな!」」
「さすが異世界ね! あたし達の常識では考えられないわ!」
「いや、こっちの世界でも起こらない事だな。俺にもよくわからん!」
俺はメルダの言葉に苦笑し肩を竦めた。
「そうだ! 今日は土産を持ってきたんだ!」
ふと土産の事を思い出し、俺は全身炎化すると腹からナゾ肉とぶよぶよの入った“ニチー”の袋を取り出す。
「おー! やっぱり向こうのお兄ちゃんの体すっごーい!」
「何度見てもおっかないな、その炎は……」
「ははっ、まぁ大丈夫だ。俺が敵意を込めない限り、物が燃えることはない。それよりほら、土産だ!」
俺は人型に戻ると、取り出した袋をテーブルに置いた。
前世の俺と七海は袋を覗き込むと顔を顰める。
「こ、これ食えるのか?」
「このお肉食べられるの? 色が変だよ……それに、透明なムカデが……」
俺が初見で思った反応と同じ表情をしている。
やはり日本人の俺達にとって紫色の肉とムカデのような見た目は、なかなか衝撃的だ。
七海と前世の俺は、本当にナゾ肉が食べられるのか疑問視している。
二人の反応に少し親近感を覚える。
「まぁ、俺も最初はこんなもの食えないと思ったから無理もないな」
「でも、この肉はどうやって食うんだ?」
「うーん、そうだな。そのまま焼いても良いんだが……」
俺はふと周囲を見回すと、テーブルに置かれたパン粉が目に入った。
異世界には揚げ物という文化が無い。
以前は天ぷらを作ったが、仲間達には好評だった。
ならば、今回はカツを揚げようと決める。
「よし! 俺がコイツを使ってカツを作ってやる! 良いだろ?」
俺は全員が頷くのを確認しキッチンに立った。
体感で約二週間ぶりの自宅での調理に懐かしさを感じる。
炊飯器を開けると、釜を取り出しコメを研ぐ。
そして炊飯器へセットしスイッチを入れた。
おそらくカツが揚がる頃に炊けるだろう。
次に冷蔵庫を確認し、中からキャベツ、塩こしょう、薄力粉、卵、サラダ油、パン粉、揚げ油、ナゾのブロック肉を取り出しテーブルに並べると、鍋に油を張った。
カツの下拵えに、まずナゾ肉を6枚に切り分け、筋切りをし、塩コショウを振る。
次にナゾ肉へ薄力粉を塗し、サラダ油を加えた卵に浸し、最後にパン粉を付ける。
そして左手から炎を放ち鍋全体に纏わせると、強火程度の敵意を込めて一気に油の温度を上昇させた。
数秒が経ち、鍋に泡が立ってきたところで人差し指を入れ、温度を確認する。
「ちょっと温度が高いかな……」
そう呟きながら、ふと視線を横に向けると俺の動きを七海が目を丸くしながら興味津々に眺めていた。
「お兄ちゃん! 油に指なんて入れて熱くないの!?」
「ああ。俺に熱さは感じないからな。ぬるま湯を触っているような感覚だぞ」
七海は首を傾げながら鍋にすっと手を伸ばし、油を触ろうとする。
「あちゅっ!」
だが、指に油が跳ねたようで、目を瞑りながら後方へと飛び退いた。
俺はジト目で七海を見つめる。
「七海……何やってんだ?」
「えへへ。あたしも熱さを感じないんじゃないかな、なんて思っちゃって……」
七海は照れながら頭を掻くと、舌をチロっと出しテヘっと笑った。
俺達の遣り取りをフォンとダルスは目を丸くして眺め、互いに顔を合わせると、同時に俺へと視線を向ける。
「オイラ、熱いなんて感覚忘れてたっす……」
「アタシも久しぶりに聞いたんだわさ!」
その言葉に七海は驚愕の表情を浮かべると、目を輝かせながらテーブルに手をつき、ダルス、フォン、メルダへ質問する。
「ねぇ! 三人も熱さを感じないの?」
「「うん」」
「ちょっと! あたしは違うわよ! あたしは人間と感覚は同じなの! 火傷だってするわよ!」
ダルスとフォンは揃って頷くが、メルダは勢いよく立ち上がり異議を唱えた。
七海は安心した様子でテーブルに着くと、ホッと溜息を吐く。
「よかった! メルダちゃんはまともな体なんだね!」
「そうよ! あたしはまともなのよ!」
メルダは鼻息を荒らげ腕を組むと、ドヤ顔で着席した。
「おいおい七海! まるで俺達がまともじゃないような言い方じゃないか」
「だって向こうのお兄ちゃんの体は燃えるし、これをまともって言っちゃったら何でもまともになっちゃうよ!」
「うぐっ、そう……だな……」
七海の純粋な正論が胸に突き刺さり、俺の心はキリキリと悲鳴を上げた。
周囲の人間から異質の目で見られる事にはもう抵抗が無いが、実の妹から「まともじゃない」なんて言われたら悲しくなる。
傷付く心を紛らわすように、鍋を纏っている炎を使い油の温度を吸収していく。
暫くして再び指を入れると、適正温度だと感じた。
そして衣をつけたナゾ肉を次々に鍋に投入していくと、カラカラと音を上げて肉がきつね色に染まり、同時に香ばしい香りが室内を満たしていく。
「う〜ん、いい匂いだわさ!」
「早く齧り付きたいっす!」
「あんな気味の悪い色の肉なのにトンカツになってるんだな……」
「わぁー、普通のトンカツになっちゃった!」
「トンカツ? これはトンカツって言うのかしら?」
各々が思い思いに意見を口にし、今か今かとカツの完成を心待ちにしているようだ。
頃合いを見て網にカツを引き上げると、キャベツを千切りに刻む。
その間にぶよぶよに炎を放ち、中火程度の敵意を込めて焼き上げた。
炎を纏いワシャワシャと足が蠢くぶよぶよの様子に、七海は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「うえぇ。やっぱりコレ、ムカデみたいで気持ち悪いよ……」
「ま、まぁな。見た目はアレだが、味は美味いぞ! 期待しとけよ!」
「う、うん……」
煮え切らない顔をする七海を余所に、山盛りになったキャベツを6枚の皿に盛り付け、その上に等間隔に切り分けたカツと背板毎に切り分けたぶよぶよを置く。
「ピピピピッ! ピピピピッ!……」
その直後、丁度タイミングよく炊飯器から炊き上がりを知らせる音が鳴った。
するとフォン、ダルス、メルダの三人はビクッと肩を震わせ、一斉に炊飯器へと視線を向ける。
「あっ、あの箱鳴いたんだわさ……」
「き、きっと何かが隠れてるっす……」
「ちょっと! あの箱大丈夫なの!?」
三人の様子に、前世の俺は鷹揚に笑いながら炊飯器を指差す。
「ははっ! あれは炊飯器って言ってな、電気でコメを炊く機械だ!」
「でんき? って何だわさ?」
フォンは口をへの字に曲げながら首を傾げた。
異世界には電気を利用するという発想が無いのだろう。
魔法が進んだ世界では仕方ないのかと俺は内心で納得する。
「ちょっと! 電気って……光を放つあの電気の事!?」
メルダは怪訝な表情で炊飯器を眺めている。
「そうだ! メルダは魔法で電気を出せるな。根本的にはアレと同じものだ。それを精密に制御し加工したものを炊飯器に流すことで動いている」
俺は炊飯器から伸びるコンセントに指差すと、メルダは指の動きに合わせて視線を流す。
「あのヒモから電気を流しているのね?」
「ああ。あれはコンセントと言ってな、炊飯器がコンセントから電気を吸い上げるようになってるんだ」
メルダはふむふむと納得し、何度も肯首しながら目を輝かせた。
フォンもそれに続き肯首する。
「さすが異世界ね! 魔法も無しで物が勝手に動くなんて……非常識だわ!」
「そうだな。この世界の常識は、お前達の非常識だ。慣れない部分も多いと思うが、しっかりと覚えて楽しんでいってくれ!」
俺の言葉に三人は大きく頷いた。
俺は、それを満足気に眺めながら、人型に戻ると人数分のコメをよそい、全員の前に料理を並べる。
「出来たぞ! ナゾ肉をカツにして揚げたナゾカツだ! 食え!!」
「「「いっただっきまーす!」」」
フォン、ダルス、メルダは我先にとナゾカツに齧り付いた。
「「「んん〜! うんまぁ〜!」」」
そして泣きながらナゾカツとコメを口へ流し込んでいく。
そんな三人に目を細めながら七海に視線を向けると、複雑な顔をしながら七海はぶよぶよを箸で突いていた。
「七海、食わないのか?」
「うう〜ん……だって、このムカデみたいなのが……」
七海が箸で突く度に、ぶよぶよの足がワシャワシャと蠢く。
それを見て一層七海の表情が曇っていく。
七海がふとフォンに目を向けると、フォンは嬉々としてぶよぶよを口に含もうとしていた。
視線を感じたフォンが七海へと視線を向ける。
「ん?」
フォンは口からぶよぶよを咥えながら七海を見つめている。
フォンの口から飛び出るぶよぶよの足がワシャワシャと蠢いていた。
その様子はまるで昆虫の口内を彷彿とさせるかの如く悍ましい姿だ。
それを見て七海は顔を青くし呟いた。
「ううっ……気持ち悪い……」
さらにフォンは、まるで海老の尻尾を噛み潰すかのようにバリッと音を立てながらぶよぶよを噛み潰す。
「ひいぃぃ……やっぱりあたしには無理だよぉ……」
「そうか……無理なら食わなくていいぞ。七海のワガママはいつもの事だからな」
居た堪れなくなった俺は、七海の皿からぶよぶよを取ろうと箸を伸ばす。
だが、七海はすっと皿を持ち上げ俺の箸を阻止した。
「七海、どうした?」
七海は目に涙を浮かべながら頰を膨らませ、ぶよぶよを箸でつまむ。
「あたし、ワガママなんて言わないもん!」
そして勢いよく口の中に放り込み、ひと思いに噛み潰した。
バキリと咀嚼音が響き、七海は硬直する。
「な、七海、大丈夫か?」
「……」
「七海?」
「ん……うんまぁ〜!!」
七海表情はパッと明るくなり、ぶよぶよを味わうようにゆっくりと咀嚼を続ける。
「磯の香りにエビみたいな食感! 見た目はアレだけど、コレすっごい美味しい!!」
七海の様子に、俺達はホッと安堵の表情を浮かべた。
続いて前世の俺がナゾカツに箸を伸ばす。
その手はどこか及び腰で、警戒しているようだ。
俺は怪訝な表情で声を掛ける。
「食えるのは理解してるんだろ?」
「ああ。それはお前から見せてもらったからな……」
前世の俺とは経験した記憶を共有している。
だからこそ、躊躇う理由は無いはずだが……
「オレの口で味わったものじゃないから、どうしてもあの肉の色を見るとな……」
「おいおい、それでも料理人か? 未知の食材だからこそガブっといっちゃえよ!」
「くっ……わかったよ。じゃあ……いただき……ます……」
前世の俺は目を瞑りながらナゾカツを一口齧った。
「う……美味いな」
「だろ? ナゾの肉は見た目はアレだが、食材としてはなかなか優秀なんだよ!」
「そうだな……牛と豚の中間のような食感だ。脂身は豚よりも少ないようだな。確かにこれは美味い!」
こうして、なんとか俺達は食を通じて異世界交流の第一歩を踏み出したのだった。
今回もお読みくださりありがとうございます。
ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。
執筆中に154件目のブックマークを頂きました!
ありがとうございます!
次回の更新は26日です。
広告の下にあるリンク
【小説家になろう 勝手にランキング】
をクリックお願いします。




