56話 異世界人のカルチャーショック
「着いたぞ! みんな出てこい!」
腹に手を突っ込み、仲間達を吐き出した。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
「やっ!」
勢いよく飛び出した三人は、いつものように積み重なった。
三人は恨めしそうに俺に視線を送るが、俺は平謝りをし三人を席に着かせた。
「……さて、改めて紹介するが、ここが俺達の部屋だ!」
「おおー! ここがトール様の部屋っす?」
「見た事ない物がいっぱいだわさ!」
「……でも、なんか小汚いわよ?」
部屋の中は洗濯物や通販の段ボールなどが散乱している。
我ながら小汚い部屋だと感じ頭を抱えた。
「うっ……メルダ、あんまりそういう事は気にしないでくれ……」
「……うん、わかったわ」
メルダは苦笑しながらそっと目を閉じた。
俺は話題を変えようと席を立つ。
「よし、改めて注意事項の確認だ! 俺が言った事を覚えているか?」
「「「……」」」
三人は目を丸くしながらポッカリと口を開けている。
(こいつら、完全に忘れてやがる……)
俺は顔を引攣らせながら、再度三つの注意事項の説明を行う。
・獣人とバレてはいけない
「いいか? この世界に獣人は存在しない。だからお前達が獣人だとバレると大変な事になるんだ!」
「オイラ達は人間のフリをするってことっす?」
「そうだ。フォンとダルスは顔だけで言えば人間と大差無いからな。耳と尻尾は常に隠してもらう」
「わかったわさ!」
「了解っす!」
・能力を使わない事
「この世界の人間は、念力で物を持ち上げたり、空間を切り裂いたり、魔法を使う事は出来ない。そんな所を見られたら大混乱になるだろう。だから能力や魔法は使っちゃダメだ」
「わかったわさ!」
「了解っす!」
「わかったわ」
・物を壊したり殺してはいけない
「この世界では物を壊したり生き物を殺したら罪に問われる。そして間違いなく穏便に済ます事は出来ない。そうなれば俺達に居場所は無くなる。それは絶対に避けたい」
俺は、ふとフォンを見遣る。
「なっ、なんでアタシを見るんだわさ?」
「そりゃあフォンが一番やらかしそうなんだからしょうがないっす!」
「な、なんですって!」
フォンは拳を握り腕を引く。
「「「あっ!」」」
これは間違いなくいつものパターンだ。
「ままま待つっす! オイラが悪かったっす!」
ダルスは愛想笑いで手を振るが、フォンの顔が引き攣っている。
どうやらダルスには止められそうにない。
「??????」
メルダは慌てて詠唱を始めた。
……って、魔法は使うなと言ったばかりだろう!
あまりにも統率の取れない三人に苛立ちを覚える。
「ダルス〜! 覚悟……」
(お前ら……)
「あわわわわ!」
(いい加減に……)
「??????」
(しろっ!!)
俺は全身炎化し室内を一瞬にして炎で包み込むと、三人を再び体内へと飲み込んだ。
「だわさ!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
「??????」
直後、メルダの結界が発動し、ダルスとフォンは球形の結界に閉じ込められた。
そしてフォンの拳がガードを構えるダルスにヒットし、結界内をドーンという轟音と共に爆風が吹き荒れる。
「おーまーえーらーなー!!」
俺は声を震わせ三人に炎を纏わせる。
するとダルスとフォンを包む結界が、ガラスの如くパリンと砕け散った。
「「「ひっ!」」」
震え上がる三人へ、俺は静かに語り掛ける。
「ちょ、ちょっと! あたし何もしてないわよ!」
「メルダ……魔法、使ったよな?」
「うっ……」
「オ、オイラ被害者っす!」
「ダルス……フォンを、煽ったよな?」
「うっ……」
「ア、アタシ、その……」
「フォン……」
「うっ……」
三人は異議を唱えるが、全て却下した。
「この炎、チクチクするっす……」
「少し熱いんだわさ……」
「ちょ、ちょっと落ち着きましょうよ……」
おそらく無意識に若干の怒りが炎に込められているのだろう。
「お前ら、暫くそこで反省してろ!」
「「「は、はい……」」」
俺は気分を落ち着かせる為にコーヒーを啜った。
※ ※ ※
暫くして三人を体内から吐き出し人型に戻ると、三人はしょんぼりとした様子でテーブルに着いた。
「さて、もう一つお前らに説明しないといけないことがある」
「「「はーい……」」」
「世界が違えば貨幣も変わる。この世界では金貨は使えないからな」
「えー! 金貨が使えないっす?」
「そうだ。その代わりにコレがこの世界の貨幣となる」
俺は無造作に置かれた段ボールの中から貯金箱を掘り出すと、中から紙幣や硬貨を取り出してテーブルに並べた。
「銅貨や銀貨が色々あるんだわさ!」
「金貨が二種類あるっす!」
「穴が空いているものもあるのね。あとこの紙は何かしら?」
三人はまじまじと貨幣を眺めている。
「端から1円、5円、10円、50円、100円、500円。そして、この紙が1000円、5000円、10000円だ。これが基本的にはこの国の貨幣になる。価値はだいたい銀貨1枚が100円くらいだな」
「|前(2話)にトール様が言ってた“ひゃくまんえん”ってこの事だわさ?」
「ああ。そういえばフォンには少し話したな」
「ほえー、なかなか細かいっす!」
「そうだな。だが最近はカードで払えるから、この金はあまり使わないな」
「ちょっと、カードって何よ?」
「まぁそれはそのうち教えてやるよ」
三人はふむふむと頷き納得している。
どうやら貨幣については問題なさそうだ。
「でも、数字の周りに書かれている文字が読めないわ」
メルダが紙幣の周りの漢字に指をさして首を傾げた。
フォンとダルスもメルダに続き頷いている。
どうやら数字は読めるが、文字は読めないようだ。
俺は異世界の文字が読めるが、それはおそらく転生したからだろう。
生まれも育ちも異世界の三人は、知らなくても無理はない。
「まぁ文字はそのうち覚えればいいさ。何か質問はあるか?」
三人は首を横に振る。
ふと時計を見ると、時刻は19時を回っていた。
(そろそろ前世の俺が帰ってきてもおかしくない時間だが……)
そんな事を考えていると、ガチャッと扉の開く音が聞こえる。
どうやら帰ってきたようだ。
「お兄ちゃん! 頼まれてたアレ、持ってきたよー!」
だが、予想は外れた。
「七海! いつも言ってるだろ! インター……」
「はいはい。インターホン鳴らして入れ、でしょ!」
現れたのは妹の七海だった。
七海はひょっこりと顔を覗かせると、笑顔で手提げ袋を顔の横に出した。
その姿はまるで招き猫のようだ。
「わかってるなら鳴らして入れよな……」
「あっ、向こうのお兄ちゃん!……って、あー!!」
俺は諦念の表情で七海を叱るが、そんな俺を余所に七海の目が光り輝く。
「すっごーい! ケモミミだー! しっぽも付いてるし、魔女っぽい子も居る〜!」
七海は舐めるように三人を見回している。
「ま、まずいんだわさ……」
「バレたっす……」
「ちょっと……どうするのよ……」
三人は青い顔で互いに視線を交錯させた後、俺に視線が集中する。
七海は、なおも三人を興味深々に見つめている。
「七海……これはだな、その……」
「向こうの世界の子でしょ? 大丈夫! 誰にも言わないよ!」
七海は真剣な顔で俺に宣言すると胸を張った。
ここは七海を信用するしかなさそうだ。
「わかった。よろしく頼むぞ!」
「まっかせてよ! それよりコレ! 頼まれてた調理服、直しておいたよ!」
七海は紙袋を差し出してきた。
中には調理服と白い箱が入っている。
「おっ、サンキュー! ところでこの箱は何だ?」
「あっ、それはケーキだよ! 3つ買ってきたんだ〜!」
箱の中には3つのショートケーキが入っていた。
俺はケーキの箱をテーブルに置く。
すると、テーブルからゴクリという音が聞こえてきた。
音の元へ視線を向けると、フォンとダルスが口元の唾を拭いながら箱を見つめている。
「す、凄く良い匂いがするんだわさ……」
「甘くて美味そうな匂いっす……」
おそらく人間よりも鼻がいいのだろう。
二人は俺の顔と箱を交互に見遣っている。
それはまるで、待てを受けた犬のようだ。
「七海……すまないが、ケーキを全部貰っていいか?」
「いいよ! みんなで食べて!」
七海は事情を察したのか快諾してくれた。
俺は皿とフォークをテーブルに並べると、ケーキを三人に取り分ける。
「ありがとな、冷蔵庫にプリンがあるから食って良いぞ!」
「プリン? やったね! お兄ちゃんありがとう!」
七海は冷蔵庫からプリンを取り出すと、テーブルに着いた。
そして三人へ自己紹介を始める。
「あたしは妹の七海! よろしくね!」
「オイラ、犬の獣人のダルスっす!」
「アタシは狐の獣人のフォンだわさ!」
「あたしは魔女のメルダよ」
三人は早くも七海と打ち解けたようだ。
なかなかコミュ力の高い妹だと感心する。
「こいつらは異世界で俺と共に旅をしている仲間だ。こっちには旅行に来たんだよ」
「へぇ〜そうなんだ! やっぱり異世界とは色々と違うの? あっ、ケーキ食べてね!」
三人は同時にフォークでセロファンを巻き取ると、口の中へと運んだ。
「あっ、それは食べ物じゃないよ……」
「「「まっず〜」」」
「あはははは! セロファン食べる人初めて見たよ! やっぱり異世界の人なんだね!」
「その薄いのは飾りだよ。剥がしてから食うんだ」
三人は気まずそうにセロファンを吐き出すと、苺を突き刺し口へと運んだ。
「「「ん!!」」」
すると三人の目が涙目に変わる。
「こ、こんなに美味しいもの、食べた事無いんだわさ!」
「オイラ、幸せっす〜!」
「ちょっと何よこの食べ物! 異世界凄いわ!」
そして泣きながらケーキを頬張っている。
俺と七海はそんな三人を細目で眺めていた。
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