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49話 護りたいもの

 

 演出や料理が成功した事に胸を撫で下ろし、俺達は各々の席へと戻った。

 そして、俺は人型に戻ると取り分けておいたオムライスを口に入れる。


(うん。シンプルだが美味いな。卵がいい感じにフワトロになっていて、我ながら絶妙な火加減だ!)


 オムライスに自画自賛していると、ドラムが大声を上げる。


「いやー、目出度いのである! メルダは受賞し、トール様は魔王へと進化し・・・・・・、良い事尽くめで……」


『『カラン……』』

「あ……る?」


 ドラムの言葉に店内の空気が一瞬で冷めた。

 幾つものスプーンが床に落下し、俺達のテーブルに客達の熱い視線が集まる。

 そして、狼の獣人グレインがドラムへと駆け寄る。


「ぬぬっ?……我輩、何かおかしな事をしたのであるか?……」

「あんた今、魔王へ進化したって言ってたよな……」


 するとドラムは目を丸くして顔を青褪める。


「ももももしかして、言ってはならなかったのであるか?……」

「ならないも何も、それが本当なら世界がひっくり返るぞ! だいたい他の魔王達が黙っちゃいねぇだろうが! 下手したらあんたら殺されるぞ!……」


 客達が固唾を飲んで俺達の動向を伺っている。

 だが、客達の心配は杞憂だ。

 俺はその説明の為に立ち上がる。


「あー。悪い、混乱させちまったな。説明させてくれ。まず、俺が魔王種へ進化したのは本当だ。色々とあって、気が付いたら進化の条件を満たしていたんだよ」


 客達や店員達が騒めき始める。

 中にはガタガタと震え出す客も居た。

 そして、思い出したように客の一人が呟く。


「そういえば、おれサルマトランの空が真っ赤に燃えるのを観たぞ。あと、空に浮かぶ緑色の玉を視たんだ……」

「ああ、その緑の玉は俺だ……進化の時にちょーっと暴走してしまってな……」


『『……』』


 俺の言葉に客達の騒めきは静寂に変わった。

 ぽっかりと口を開け、放心状態の獣人も居る。


「だが、心配しないで欲しい。魔王達や各国の王は俺が魔王種へ進化した事を把握している。何しろ王達の前で進化したからな。だから俺達が狙われる事は恐らく無い。そして、俺達が何処かの国に攻め込むということもない。俺達は平和的に物事が進めばいいと思っている」

「しかしよぉ、イフリートの兄ちゃんが魔王になったって事は、世界の力の均衡が崩れることになるんだぜ? 兄ちゃん達にその気が無くても、周りの奴らがどう思っているかわからねぇよ……」


「ああそうだな。だから俺達は、俺の仲間や護りたいものを汚す奴には容赦するつもりはない。襲い掛かる敵は全力で潰す。それだけだ! 仮に今、此処を攻撃されたとしたら俺は全力でこの店を護る。仮に一国の軍を灰にしてもだ。それだけは信じて欲しい!」

「そうか……」


 グレインは俺を睨み、暫し閉口する。

 客達が固唾を呑んでその表情を見守る中、ようやくグレインの口が開く。


「……俺は兄ちゃん達の事を信じるぜ! なぁみんな、こんなに美味ぇ料理を作る奴が、悪い奴な訳ねぇよなぁ?」


 この言葉に客達が追従する。


「おう! どっかの知らねぇ奴が魔王になるよりよっぽど良いや!」

「おれは前に兄ちゃんが転生者だって聞いてたからな。何かでけぇ事をすると思ってたぜ!」


 グレイン達の言葉を皮切りに、客達は次第に落ち着きを取り戻していく。

 そして、俺は店を騒がせてしまった事を謝罪する為にカウンターへと向かった。

 カウンターには兎系の獣人の店員が立っている。


「すまないな、いつも混乱させてしまって……」

「いやぁ、良いさ。魔王御用達の店って事で宣伝になるからさ! もちろんまた来てくれるんだろう?」


「そうだな。また、寄らせてもらうよ!」

「いつでも来るといいさ! アタイ達はいつでも歓迎するからさ!」


「ありがとう……」


 そう言って席へ戻ろうとした時、グレインが声を上げる。


「ちっ、湿っぽい空気になっちまったな……仕方ねぇ、おいラビ! 今日は俺の奢りだ!」

「はいよ! グレイン、アンタに全部ツケとくよ!」


 ラビと呼ばれた店員の声が店内に木霊する。

 そして数瞬の後、客達の歓声が響く。


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』


「あんた、ラビって言うのか?」

「そうさ。アタイは兎の獣人のラビさ。アンタは、えーと……」


「俺はイフリートのトールだ!」

「トールかい。良い名前じゃないか。こんな騒がしい店だけどさ、アタイにとっちゃぁ客はみんな家族みたいなもんさ。アンタは魔王になったようだけどさ、呼び捨てにさせてもらうよ?」


「ああ、構わない。好きに呼んでくれ」

「それじゃ、遠慮なく呼ばせてもらうさ! トール、アンタもこの店の“家族“さ!」


 俺は静かに頷き店内を見回す。


「グレイン、おめぇはいーっつも嘘ばっかだよなぁ〜」

「おおん? 俺は嘘なんていーっかいも吐いたことねぇぞ?」


「……という理論だニ!」

「なるほどねぇ。あたしも柔軟な考えを持たないとダメね〜」


「あンのバカ! ほんと呑気なんだわさ! 悪い虫が来たらブッ飛ばしてやるんだわさ……そう、ブッ飛ばしてやればいいんだわさ!……」


「我輩、ほんっとドジである……」

「まあそんなに落ち込むな。何事も無かったじゃないか」


 仲間達は腕を組み、語り合い、呟き、励まし合う。

 楽しみ方は違うが、各々がこの空気を満喫している。

 その光景に店内が輝いて見えた。

 そして、俺はまた一つ護りたいものが増えたことを実感するのだった。










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