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25話 死して得るもの

 

 ――何も無い闇の中で、ダルスは辺りを見回している。


(ここはどこっす?……)


 すると、ダルスの前に複数の獣人が現れる。


(お、お前らは……)


 獣人達は、嘗て己の爪で葬った者達だった。

 そして、一人の獣人が口を開く。


(よう。お前もやっとこっちに来たんだな!)


(こっち?…… そうか、オイラ死んだのか。オイラの人生、最期は呆気なかったな……)


(ふっ。まったく拍子抜けだぜ。あの時、攻撃を受けたのはわざとだろ?)


 ダルスに語り掛けたのは、嘗てダルスの右耳に傷を付けた獣人だった。


(ああ。わざと攻撃を受けたっす……)


(……やはりそうか。試合では全く隙がなかったお前が、あんなくだらない死に方をするなんてな!)


(くだらない死に方…… そうか、あの高さから落ちた“だけ”で死んだのか。仲間達あいつらには嫌な思いをさせちまったっす。きっとフォンはアタシの所為だって自分を責めてるだろうな……)


(……ふっ。試合では無類の強さを誇るダルスが、こうも簡単にくたばっちまうとはなぁ。ダルス、なんでお前は死んだと思う?)


(なんでって…… 高いところから落ちて、打ち所が悪く……)


(違うな! お前は能力を過信したんだ。だから能力の限界に気付けなかった。さっき、あの高さから落ちた“だけ”と言ったな。お前の死因は落下じゃない。自身の驕りによるものだ!)


(能力の過信…… なるほど、オイラは自分が一番強いと思っていたっす。無茶をしてもオイラなら大丈夫だと。それが死因だったのか……)


(はっ! 今更気付いたか。だが遅いな。お前は死んだ。そろそろ肉体の腐敗が始まるだろう。そうなればもう、お前の戻る所は無い)


 ダルスは目を瞑ると、一つ大きな溜息を吐く。


(そうか…… オイラはバカだからよ、今になってやっとわかったんだ。オイラには守りたい仲間が居る。戻りたい場所がある。力に呑まれて大事なことが見えてなかったな……)


(はっ。ったく仕方ねぇなぁ。お前にもう一度だけチャンスをやる。次にここへ戻ってきた時は、お前が本当に死ぬ時だ!)


 ――獣人の手から放たれた白銀の光がダルスを包み込むと、ダルスは闇の中へと吸い込まれていった。


 ※ ※ ※


「アタシがっ! アタシがもっとしっかり計画を立てていればっ! ダルスは死ぬことなんてなかったのにっ! アタシの所為よ! アタシがダルスを殺したんだわさ!!……」


 フォンは己の無計画によりダルスが死亡したことを悔やみ泣き崩れる。

 彼女の心は絶望の一色に染まっていた。


「いや。我輩がもっとよくダルスを見ていればっ…… 落下するダルスを捕まえられたのであるっ。我輩の所為でダルスはっ……」


 ドラムも己の不注意によりダルスが死亡したことを悔やみ泣き崩れる。

 泣き崩れる二人を横目にオルガは思考を巡らすが、掛ける言葉が見つからない。

 オルガは只々二人を眺めることしか出来なかった。


 ――ダルスの体がうっすらと、白く輝く。


「あーあ。やっぱり自分を責めてるっす。そんなに責めんなって。フォンだけの所為じゃないんだからよ! ドラムも泣くなよな!」


「「「!?」」」


 ダルスの声に三人は驚愕し顔を上げる。

 そしてフォンは安堵の表情でダルスに抱きついた。


「あぁぁ! ダルス! 良かった! 戻ってきて本当に良かったんだわさ! もう、あんな無茶はしないんだわさ! 本当に、アンタにはなんて言えばいいか……」

「おっ、おい、離してくれよ、もういいって……」


 ダルスは赤面の表情でフォンを宥めた。

 そして、鋭い眼差しで口を開く。


「オイラも能力を過信して失敗したんだ。お互い様だろ? 他人ひとよりちょっと強いだけで、死なないなんて思ってた。オイラ達は能力に呑まれてたんだよ。それに気付けただけでも修行は成功だろ?」


 ダルスの言葉に三人は口を噤む。

 暫しの沈黙の後、フォンが口を開く。


「アタシは大事なことが見えてなかったんだわさ。能力を使い熟すことが一番じゃない。大事なものを守るのが一番なんだわさ!」

「そうっす。トール様が守りたいものを全力で守ることが、オイラ達に出来ることっす!」


「我輩は、周りをよく見ないといけないのである……」

「……そうっす。でも、一人で抱え込んじゃダメっす。 オイラ達は仲間っす! 無理だと思ったら、仲間を頼る事も大事っす!」


 フォンとドラムは強く頷き、ダルスもそれに応えて頷く。

 こうして三人は強い志を持ち、覚悟を決める。

 しかしこの時、オルガは何かを思い一点を見つめていたが、仲間達はそれに気付くことはなかった。


「ねぇダルス。もう一度、修行に付き合って欲しいんだわさ」

「……何か考えがあるんだな?」


 フォンは小さく頷いた。

 そしてフォンは再び九尾きゅうび化する。


(アタシは力を維持する事しか考えてなかったんだわさ! 本当に大事なのは自分の限界を知ることなんだわさ!)


「ダルス、行くんだわさ!」

「了解っす!」


 フォンの目が金色に輝くと、ダルスがゆっくりと浮き上がる。

 普段は力を込めて焦るフォンだが、今回は冷静だった。


(あんな悲しい思いはしたくない。もう同じ失敗はしないんだわさ!)


 決して慌てず、己の限界を悟り、無理をしない。

 慎重に力を制御し、心を落ち着かせる。


 《もう少しっす! あと少しでスカイラインに着くっす!》

 《……》


 ダルスが天空都市スカイラインに到達するまでおよそ20メートルに迫った頃、フォンの額に汗が流れる。


(ダメよ! ここで力を使い果したら前へは進めない! もう、あんな思いはしたくないんだわさ!!)


 その時、フォンの頬に涙が伝うと、額から汗が引く。


(なるほど…… これが正解だったんだわさ!)


 そして、ダルスは天空都市スカイラインへ上陸する。


 《フォン! やったっす! 成功っす!!》

 《やったわさ。今そっちに行くんだわさ》


 ダルスの言葉にフォンは安堵し、フォンは天空都市スカイラインへと浮かび上がる。

 その表情はとても冷たく、そして強い眼差しを放っていた。


 ※ ※ ※


 天空都市スカイラインのワイバーンタクシー乗り場で、フォンは修行の成果を三人に語る。


「アタシの能力は、感情に左右されるんだわさ。さっきまでのアタシはとにかく力を維持しようと頑張ってたんだわさ。でも、それは間違いだったんだわさ」

「間違い…… であるか?」


「そうだわさ。悲しい、怖い、失いたくないって感情が、能力の維持に必要だったんだわさ!」

「なるほど。だからすぐに限界が来たのか。頑張ろうと焦って空回りしたってことっす!」


 フォン、ダルス、ドラムは修行の成果に満足し、大きく頷いた。

 しかし、オルガの表情は優れなかった。


「オルガ、何かあったのであるか?」

「い、いや。なんでもない。能力を使い熟せて良かったな!」


 ドラムはオルガの異変に首を傾げながらも、その原因が解けなかった。

 そして四人は宿屋へ入ると、泥のように眠るのだった……


お読み頂きありがとうございます。

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