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24話 能力の限界

前回の“ニチー”での金額は、ある数字を参考にしています。

ちなみに、196点は19年6月現在の数字という意味です。

お時間がありましたら、何の数字か探してみてください。

 

 前世の俺の部屋に帰ってきた。


「なんだ。何も買わなかったのか」

「いや、買ったぞ」


 俺は全身炎イフリート化すると腹に手を突っ込み、6つのビニール袋を取り出した。


「こ、こんなに買ったのか…… いくらしたんだ?」

「あっ、ああ。20000円くらい……」


「20000!? おまっ……」

「す、すまないな……」


 うん、こういう反応になると思ってたよ。

 俺の考えることは俺が一番わかっている。

 逆の立場なら同じ反応をしただろう。


「買いすぎだろ!」

「ああ、すまない……」


 《ったく…… オレの給料が安いの知ってるだろ……》

(思念通話だと!? 前世の俺も能力を持ってるじゃないか!)

 《すまないと思ってるって……》


 《……お前、オレの心の声が聞こえるのか!?》

 《いや、これは思念通話という能力だ。相手のことを思い浮かべながら言葉を並べると伝わる。まさかお前が使えるとは思わなかったが……》


 前世の俺は能力を何も獲得していないと思っていたが、どうやら思念通話を獲得していたようだ。

 この能力は血呑みの儀式で獲得したものだが、前世の俺は蘇生した時に獲得したのかもしれない。


 《こんな能力も持っているのか…… 本当にお前はなんでもありだな…… うっ!》

 《だが、この能力はあまり使わない方がいい。極端に疲れるからな。日常会話を思念通話のみで行うのは無理だぞ》


「もっと早く言ってくれよ。全力で走った時の様にいきなり疲れたぞ…… 便利なだけじゃないのか」

「便利なだけの能力なんて無いさ。必ず何かしらのリスクはある。リスクと向き合ってこそ、能力が使い熟せるんだよ」


「そんなもんか……」

「ああ、そんなもんだ……」


 俺は説教まがいの事を言ったが、これは俺自身も向き合わなければならない。

 絶大な力を持つということは、多くのものを失う危険が伴う。

 もしも魔王に成るのなら、改めて己の力と向き合わなければならないと考えさせられた。


「まっ、仕方ないな。オレがお前にしてやれることなんてこんな事しかないからな」

「すまないな。じゃあ俺はそろそろ帰るよ」


「また来いよ、ここはオレの部屋だが、お前の部屋でもあるんだからな!」

「……ああ。色々と助かったよ。次は異世界のお土産を持ってきてやるからな!」


「ああ、楽しみにしてるよ!」

「じゃあな!」


 こうして、前世の俺の部屋を後にした俺は、中華料理店の裏口に入ると全身炎イフリート化し飛翔した。

 大気圏を突破し、星々の間を駆け抜けながら異世界を目指して飛ぶ。


(俺は絶対に力には呑み込まれない!)


 俺は覚悟を決め、いつ訪れるかもわからない魔王種への進化を待ち構えるのだった。


 ※ ※ ※


 時はトールが異世界を立つ前に遡る。

 フォンはダルスを引き摺りながら、天空都市スカイラインのワイバーンタクシー乗り場へと来ていた。

 ここは断崖絶壁であり、眼下には青々とした森が広がっている。

 上空約1000メートルに位置し、眺めこそ素晴らしいが、翼の無い者が足を踏み外せば死への片道切符となる。


「着いたんだわさ!」

「ん? こんな所で修行するのか? 落ちたら怪我するんじゃないか……」


「修行場が使えないから仕方ないんだわさ! もうここしか修行出来そうな場所が無いんだわさ!」


 以前、トール達は血呑みの儀式で獲得した能力を、城内の修行場で確認していたところ、強大な能力に修行場が耐えきれず崩壊した。

 以降、修行場の使用を禁止されている。


「大丈夫だわさ! 落ちたらドラムが引き揚げてくれるんだわさ! だからダルス! アンタは遠慮なく落ちなさい!」

「おいおいおい! 落ちる事前提かよ! 死なないとしても、オイラは無駄に怪我するなんて嫌だぞ!」


「うっ……。じゃあどうすればいいんだわさ! アンタ、いい考えあるんでしょうね?」

「おっ、オイラに振るなよ! お前の修行だろ? 考え無しに動いてんのかよ!」


「なっ、生意気なのよ! ダルスの癖に!」


「なんだと!」

「なによ!」


「「ふんっ!」」


 フォンとダルスは顔を背けた。

 二人の喧嘩は日常茶飯事だが、トールの魔王種への進化の可能性を前に、トールが暴君と化した際にはフォンの能力が必要不可欠だろう。

 魔王種に成らなければ問題は無いが、準備を怠り最悪の事態を迎えるわけにはいかない。

 今回は事情が事情なだけに、見兼ねたドラムは二人の仲裁に入る。


「まぁまぁまぁ、そのくらいにするのである。フォンが能力を使い熟せなければ、トール様は大事なものを失うかもしれないのである……」

「うっ…………。 わかったわさ! ドラムがそう言うなら仕方ないんだわさ。ダルス、始めるんだわさ!」

「トール様の為ならしょうがないっす……」


 ダルスは渋々納得すると、フォンの前に立つ。

 フォンは目を瞑ると九尾きゅうび化した。

 全身が黄金色に輝き、9本の尻尾が顕現する。

 そして、目が金色に光りダルスが浮き上がる。


 《良い眺めっす! やっぱり空中は気持ち良いっす! どんどん高くするっす!》


 《わかったわさ! ぐんぐん上げるんだわさ!》

 《おおー! スカイラインが小さくなって行くっす!》


「くっ……」


 暫くすると、フォンは歯を食いしばり、額からは汗が流れ出す。

 そしてダルスの笑顔とは裏腹に、金色の瞳からは徐々に光が失われていく。


 《ダルスー!》

 《んん?》


 《ごめーん、やっぱり無理だわさ!》


 フォンの瞳からは完全に光が無くなり、ダルスは地上へ向けて急降下していく。


「やっぱりこうなるのかよぉぉぉー!」


 ダルスは涙目で叫ぶが、その声は仲間達に届くことはなかった。

 上空で待機していたドラムは、あまりの急展開にダルスを見失い、おろおろとしている。


「んん? 何があったのであるか? ダルスはどこに?……」


 落雷のような轟音と地響きの後、森に大の字の大穴があく。

 ドラムはフォンとオルガをぶら下げると、大穴の元へ降り立った。


「おーい、ダルス! 大丈夫だわさ?」

「いやー、すまなかった。見失ってしまったのである!」


 二人はダルスに呼び掛けるが、ダルスの返答はない。

 そして、オルガが神妙な面持ちで口を開く。


「し、死んでる……」

「「!?」」


 オルガの言葉に二人は驚愕し硬直する。

 そしてオルガは穴の中からダルスを引き上げると、仰向けに寝かせた。

 ダルスは目を瞑り動く様子はない。


「くっ…… 心臓の音が聞こえない。やはり死んでいる……」

「うっ、嘘でしょ!? ダルス、ちょっとダルス! 起きてよダルス!!」

「こっ、こんなことが…… 我輩がもっとしっかり見ていれば……」


 それは驕りによるものだった。

 己の能力を過信した故の事故。

 対人戦では無敵の強さを誇る彼等も、重力という自然の力の前では無力だった。

 己の限界を見誤った結果、ダルスは死亡した。


お読み頂きありがとうございます。

よろしければ、ブックマークもお願いします。


こちらに裏話や設定を描かせて頂いております。

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執筆中に43件目のブックマークを頂きました。

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