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23話 俺達の妹

 

 玄関の扉が勢いよく開けられる音がした。


「お兄ちゃん! 頼まれてたアレ、持ってきたよ!!」


 入ってきた人物を俺達はよく知っていた。

 俺達は同時に後ろを振り向き、口を開く。


「「七海ななみ! 何時も言ってるだろ、インターホン押してから入れよ!!」」


 俺達の息はぴったりだった。

 入ってきた人物は、妹の七海だ。

 歳は18歳だが、精神年齢はまだまだ幼稚だ。

 そんな七海は俺達を見て目を丸くする。


「おっ、お兄ちゃんが二人居る…… ど、どういう事!?」

「「あっ!……」」


 これは、色々とまずいことになった。

 異世界に転生した俺が地球に戻ってきましたなんて話、誰が信じる?

 いくら七海の精神年齢が幼いといっても、現実との区別はつくはずだ。

 七海になんと言い訳をしようか……

 俺達は顔を見合わせると、額から大量の汗を流していた。


「いっ、いやぁ、コイツはオレの友達なんだよ! よ、よく似てるだろう? 兄弟みたいだってよく言われるんだよ……」

「そっ、そうなんだ。とおるに料理を教わりに来ててさぁ…… 妹さん? かわいいなぁ…… あはははは……」


 俺達の目は泳いでいた。

 金魚掬いの金魚の如く、左右にスイスイと。


「お兄ちゃん、それ誤魔化してるつもり? さっき二人でインターホンを押して入れって言ってたじゃないの……」

「「うっ!」」


 まずい、藪蛇だった。

 俺達は再度顔を見合わせると、俯いて何も言えなくなってしまった。


「お兄ちゃん! どういうことか、あたしに説明してよね!」

「「じ、実は……」」


 俺は覚悟を決め、七海に説明を始める。

 俺が異世界にイフリートとして転生し、トールと呼ばれていること。

 前世の俺は隕石が刺さり死亡し、俺が蘇生させたこと。

 俺は地球と異世界を行き来出来るということを。


「こんな話、信じられないだろ?……」

「う〜ん、あたしは信じるよ! だって、話がこの前読んだ小説にそっくりだもん」


「小説って、お前なぁ……」

「それに、実際にあたしの前には二人のお兄ちゃんが居るじゃない。異世界から来た向こうのお兄ちゃんと、この世界に居るこっちのお兄ちゃん。お兄ちゃんが増えて、あたし嬉しいよ!」


「「七海……」」


 七海は俺達の事を理解してくれたようだ。

 俺達はひとまず胸を撫で下ろし、朝食の準備を再開する。

 フライパンを再度温めようとしたが、ふと俺は思いついた。


「なぁ、記憶だけだと俺の能力がイマイチよくわからないだろ? 今から見せてやるよ。七海も、観ててくれ!」

「まさか、ここでアレをやるのか?」

「なになに? 何か面白いことしてくれるの?」


 二人の視線が俺に集まると、俺は全身炎イフリート化した。

 すると、俺の姿に二人の目は丸くなる。


「すっごーい! 向こうのお兄ちゃんが燃えた!!」

「これが…… イフリート化ってやつなのか……」

「そうだ。俺は炎をどんな形にも操ることが出来る。そうだな、例えば……」


 俺は、まな板にあるウインナーに手を翳し、『空間収納』に飲み込むと、中火程度の敵意を込めて焼く。

 次に『空間収納』に仕舞ってある木皿へ体内で盛り付けると、腹に手を突っ込み取り出す。

 そして木皿をテーブルに置くと、人型に戻った。


「まぁ、こんなところだな……」

「えっ? ええっ? どうなってるの? なんで向こうのお兄ちゃんのお腹からお皿が出てくるの??」

「実際に見てみると凄い光景だな…… 何でもありなのか、その身体は……」


 二人は驚愕の表情で、俺の腹を凝視しながら首を傾げていた。


 ※ ※ ※


 俺達は朝食を食べ終わると、七海へ視線を向けた。


「「そうだ七海、アレ出来たんだろ?」」


 俺達は同時に同じ言葉を発した。

 合唱の如く寸分の狂いもなく。

 その様子に七海はけらけらと笑い出す。


「あはははは! やっぱり二人ともお兄ちゃんだね! 息ぴったりだよ! アレね。出来てるよ! はい!」


 七海は紙袋から白い服を取り出した。

 これは俺の調理服だ。

 穴が開いてしまった為に、七海に縫ってもらっていた。

 こう見えて七海は裁縫が上手い。

 この程度の穴は直ぐに塞いでしまうのである。


「おっ、よく出来てるじゃねぇか! 流石オレの妹! 七海は天才だな!」

「えへへ。そう言われると照れちゃうよ〜」


 七海は褒められると断れない性格だ。

 俺はいつも、服を直してもらった時はここぞとばかりに七海を褒めちぎり、機嫌を良くさせている。

 そうしないと、俺は裁縫が出来ないので調理服がすぐボロボロになってしまい、みっともないのだ!

 次回も七海に押し付け…… いや、お願いする為にも、この時だけは全力で褒めるのである。


 前世の俺は、笑顔で七海から調理服を受け取るとクローゼットに仕舞い、代わりの調理服を取り出した。


「七海、悪い! こっちも頼む!」

「え〜、また? しょうがないなぁ〜」


「サンキュー! ほら、プリンあるから食ってけよ!」

「うわぁ! やったね! お兄ちゃんありがと!」


 ふっ、単純な妹だ。

 プリン一つで釣れるなら安いものだ。

 プリンを頬張る七海を、俺達は笑顔で眺めていた。


 ※ ※ ※


「そろそろあたし帰るね! お兄ちゃん達、またね!」

「おう、オレの服頼んだぞ!」

「俺のこと、他の奴に言うなよな……」


「わかってるって! じゃ、バイバイ!」


 暫くすると、七海は帰っていった。

 七海はここから電車で一駅のところにある実家に住んでいる。

 七海の背中を見届けると、俺達は再びテーブルに着いた。


「なぁ、悪いんだけど、ニャオン貸してくれないか。俺はその…… 異世界の通貨しか持ってないからさ……」

「ん? あ、ああ。ほら」


 ニャオンとは、近所のスーパー“ニチー”で使える電子マネーだ。

 俺は転生した身だ。

 日本円なんて持っているわけがない。

 ここは前世の俺に頼ることにした。

 まぁ、次に来る時に異世界のお土産を持ってくれば良いだろう。

 ぶよぶよでも持ってきてやろうか。


「すまないな。ちょっと借りるよ」


 ※ ※ ※


 そして俺はニチーに来た。

 流石に異世界の服装で出歩くのは少々違和感があったので、前世の俺から服も借りている。

 ここでの目的は、主に調味料の調達だ。

 今までは、異世界産の“ようなもの”が名前に付く偽物が多かったからな。

 本場地球の美味いものを、仲間達に食わせてやりたかったのだ。


 俺は両手のカゴ一杯に食品や雑貨を詰め込むと、レジへ向かった。

 昔の俺なら重くて持てなかった量だが、今の俺なら小指でも余裕だ。

 改めて己の力の規格外さに呆れる。


「……はい、196点で21996円でーす」

「ニャオンで」


「ニャオンヲ タッチシテクダサイ」

「ニャオン!」


 猫の鳴き声と共に決済が終了した。

 そしてトイレの個室に入ると、荷物を『空間収納』へ入れる為に全身炎イフリート化する。

 両手一杯の買い物袋は無事、体内へ飲み込まれていったのだが……


「火事です! 火事です! 火災が発生しました! 落ち着いて避難してください!」

「うおっ!?」


 炎に敵意は込めていないのだが、どうやら火災報知器は誤魔化せなかったようだ。

 この辺りは火災報知器や防犯カメラなどが至る所に設置されている。

 俺の能力が世間にバレたら大混乱になるだろう。

 地球ではもっと慎重に行動しようと心に誓った。


 俺は慌てて人型に戻ると、逃げるようにニチーを後にし、前世の俺の部屋へ避難した。


 ※ ※ ※


 部屋の前に立つと不思議な気分になった。

 ここは俺の部屋だが、今は前世の俺が住んでいる。

 部屋に入る時、どんな気持ちで入るべきだろうか?

 不安に思いながらもドアノブを回す。

 すると、玄関には前世の俺が立っていた。


「不思議だな。そろそろ帰ってくると思ったんだよ…… おかえり!」

「あっ、ああ…… ただいま!」


 俺はこの瞬間、この部屋に受け入れられた。

 そんな気がしたんだ……


お読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローファタジーのキーワードが設定されていたのは、こういう事だったんですね。 火災報知器に引っかかるイフリート(笑)
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