21話 炎を纏うシャボン玉
首を切断した人間の死亡を確認した。
そして、プルトニーの知識を手繰り寄せ、首と頭部の接合を試みる。
炎に意識を集中すると、『視点変更』によって顕微鏡を覗くように、細胞レベルまで詳細に把握出来た。
体外よりも細かく正確に炎を操ることができ、接合はすぐに完了する。
暫くすると心臓の鼓動が再開し……
「ううっ、ここは……?」
首を刎ねた人間が生き返った。
どうやら成功したようだ。
蘇生した人間は不思議そうにキョロキョロと辺りを見渡すと、自身が浮いていることに気付き驚愕する。
「なんだここは! なんで私は浮いてるんだ!」
「ここは俺の体内だ。お前は思考誘導されていた」
空間全体から響く俺の声に、蘇生した人間は訝しげに重い口を開く。
「し、思考誘導?…… あっ、あなたは?……」
「俺はイフリートのトールだ。自我が戻ったようだな」
「イフリート!? あの、伝説の魔人イフリートですか!? わ、私は…… 長い夢を見ていた気分です……」
「お前、名前は何という? どうして思考誘導されたのか覚えているか?」
「私の名前はトランです。どうしてと言われても…… 謎の男が入ってきて、体が黄色く光ってからの記憶が朦朧として、覚えてないんです……」
謎の男はおそらくプルトニーのことだろう。
黄色く光ったということは…… 放射線か?
放射線で思考誘導も出来るのか。
これは今度試す必要がありそうだ。
蘇生したトランという名の人間は、周囲を見渡すと整列された生気のない人間に驚愕し、無言で肩を落としていた。
「私達は今まで思考誘導されていたのか……」
「ああ。全員の思考誘導を解いたら出してやる。ちょっと待ってろ!」
さて、ここからは流れ作業だ。
炎で長いロープを作成し、一直線に張る。
そして、残りの一万九十九人の首を一瞬で刎ねた。
切断した頭部は回転しながら空間を漂う。
まるで炎を纏うシャボン玉のようだ。
そして、ケーキにイチゴを乗せるように、炎で首を繋ぎ合わせる。
全員の頭部を繋ぎ、心臓の鼓動を確認すると作業は終了した。
次に『複製修理』で瓦礫を組み替え、元の建物に戻すと『空間収納』から吐き出す。
そして、建物の前に5メートル程の火柱を出現させ、火柱の中心から蘇生した人間を吐き出す。
まるで稚魚の放流の如く人間達が放たれていく。
やがて一万百人全員が吐き出され、建物の前は人混みで溢れた。
《終わったぞ、もう大丈夫だ!》
四人が俺の元に駆け寄ると、人間達は困惑した表情で俺達を見つめている。
そしてトランが、人間達の代表の如く口を開く。
「トールさん…… あなた達は一体?……」
「こいつらは俺の仲間だ。お前達の思考誘導を解くためにここへ来た」
俺は蘇生した人間達を見渡すと、どうやら全員の首に傷跡が残ってしまったようだ。
「悪いな、首に傷跡が残っちまって…… 思考誘導を解く為には殺すしか方法が無かったんだ」
人間達は各々の首を触り、傷を確認する。
どうやら痛みを訴えている奴は居ないようだ。
そして、殺すという言葉にざわめく。
「トールさん、詳しく話を聞かせてもらえますか?」
「ああ、話してやる……」
人間達の視線が俺達へ集中した。
そして俺達はトランに会議室へ案内される。
※ ※ ※
俺は椅子に座ると、トランにこれまでの経緯を説明した。
「なんということを……」
俺の説明にトランは驚愕する。
そして、何かを決意した様子で俺の目を見る。
「トールさん、私達はあなたに助けられた。協力できることがあれば何でも言ってください!」
「わかった。困ったときは相談させてもらおう」
こうしてトランを中心に、世界保守連盟の本部は俺達に協力してくれることになった。
ちなみに、支部の人間は思考誘導されているのか確認することが出来なかった。
これは各支部に行き、確認するしかなさそうだ。
しかし、トランの見解では指揮系統は本部に集中しているので、支部の人間を思考誘導する利点は薄いのだという。
ここでふと、建物を飲み込んだ時に余計な物を隔離し、保管していたことを思い出す。
「そうだ、建物を飲み込んだ時に書類を隔離していたんだ。悪いが受け取って貰えるか?」
「わかりました。書類は何処にあるんですか?」
俺は腹から書類の山を吐き出した。
札束が舞うかの如く、書類の嵐が室内に吹き荒れる。
嵐が落ち着いた頃にトランへ視線を向けると、顔が引き攣っていた。
「これ…… 全部処理するんですか?……」
「あぁ…… 頼む」
トランは溜息を吐くと涙目で俺を見つめていた。
※ ※ ※
俺は人型に戻ると、書類の山の整理を手伝っていた。
トラン一人では無理だと泣き付かれたからだ。
俺達が整理を進めていると、トランが訝しげに質問する。
「トールさんは人間なんですか? イフリートなんですか?」
「ん? 俺もよくわからないんだが、“元”人間…… かな? 転生したらイフリートになってたんだよ」
「て、転生者なんですか……」
トランは目を丸くすると、手が震えていた。
そんな他愛の無い会話を交わしていると、一枚の書類に目が止まる。
《なぁ、これ見てくれ》
《報告書っす》
《これは酷いな……》
《二次被害である……》
《気を引き締めるんだわさ!》
強化スライムの被害が発生して以降、各人間国王と魔王シェリーとの関係が徐々に悪化しているという報告書だった。
2日後の臨時虹会は険悪な空気になることが予想できる。
俺達は気を引き締めて臨む必要がありそうだ。
※ ※ ※
書類の山が片付き、トランへの挨拶もそこそこに俺達は世界保守連盟を立とうとしていた。
トランの背後には世界保守連盟の職員達が見送りに来てくれている。
「トールさん、いろいろとありがとうございました!」
「おう。また来るよ」
俺は全身炎化すると、フォンとダルスをぶら下げて飛翔する。
俺達は手を振りながら世界保守連盟を後にした。
(やっぱり皆でのんびり飛んだ方が気楽でいいや)
そんなことを思いながら、音速の空中散歩を楽しみつつ、魔王シェリーへ報告する為に天空都市スカイラインへ向かう……
※ ※ ※
俺達は再度、魔王シェリーへ謁見を申し込む。
そして、魔王シェリーに世界保守連盟で俺が行った事を報告した。
ちなみに、世界保守連盟で発見した報告書の内容は話していない。
「なるほどのぅ…… 人間達を生き返らせたか。本当にお主は非常識だのぅ……」
「まぁ、思考誘導は無事に解けたから良いじゃないですか。今回の件は助かりました。ありがとうございます」
呆れながらも頷く魔王シェリーに苦笑しながら、俺達は席を立つ。
すると、魔王シェリーは俺に鋭い視線を向けた。
「待て。お主、本当に“一万人”殺したのだな?」
「はい。蘇生させた人数は一万百人でした」
そして、深刻な表情で重い口を開く。
「お主は“魔王種の資格”を知っておるか?」
「魔王種の資格? 確か魔王になるには一万人を殺し…… まさか!」
俺はやっと事の重大さに気が付いた。
この世界の魔王は、一万人の人間を殺した末に成れるものだ。
つまり俺は一万人を殺した時点で魔王種の資格を得たということになる。
しかし、人間を蘇生させたわけだし、殺したことにはならないだろう……
仲間達は衝撃を受け、目を丸くしている。
「うむ。お主は魔王となる可能性がある」
「しかし、殺した人間は蘇生させました。そんなに都合良く魔王に成れるなんて……」
「いや、解らぬ。そもそも人間を蘇生させる事自体が非常識なのじゃ。何が起きるか解らぬ」
「そんな……」
魔王シェリーの言葉に俺の頭は真っ白になった。
俺は魔王に成りたいわけじゃない。
仲間達と楽しくやれればそれで良かったのだが……
「トールよ。万が一の為にお主に魔王種への進化の説明をしておく。心して聞け!」
「はっ、はい……」
魔王シェリーの説明によると、数日掛けて一万人の魂が体内で消化されるらしい。
それが終わると身体が魔王種に作り変えられるのだという。
「妾もそうじゃったが、身体が作り変えられる時は理性が無くなるのじゃ。全てを破壊したいという衝動に駆られ、周囲が原型を留めぬ程に力を全て放出し、暴君と化すのじゃ……」
「そんな……」
俺は絶句した。
この世界にも慣れ、仲間達とも楽しくやっているのに、俺の所為で大切な仲間を失ってしまったら……
「まぁ…… 魂の消化には最低でも2日は掛かる。それまでに仲間達とよく話しておくのが良かろう。それに、暴君と化すのは数分じゃ。その時に妾が居ればなんとかしてやろう。気にするでない」
「わかりました……」
俺は自身に起きる事態に困惑しつつ、決して仲間達を失わないようにしたいと願った。
そして、俺達は城を出る……
今回もお読み頂きありがとうございます。
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こちらに裏話を描かせて頂いております。
よろしければご覧ください。
https://book1.adouzi.eu.org/n1248fm/
※本来、放射線は目に見えないので色はありませんが、拙作では黄色と表現しております。
今回は能力部分以外の余計な説明や掛け合いを全て省く描き方をしてみましたが、如何でしょうか。
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