20話 仲間を飲み込み光の速さで
翌朝、俺達は宿屋の前でメルダに別れの挨拶をしていた。
「じゃ、研究頑張れよ!」
「絶対遊びに行くんだわさ!」
「オイラを忘れんなよ!」
「達者でな!」
「寂しくなるのである……」
「みんな…… ありがとね! でも、また2日後に会うから……」
そう、プルトニーを討伐した俺達は2日後に鉱山都市サルマトランで行われる臨時虹会に召集されているのだ。
当日の集合について打ち合わせをした後、メルダは詠唱をする。
「??????」
詠唱が終わると体が浮き上がり飛んでいく。
小さくなるメルダを眺めながら、俺達は暫しメルダとの思い出に浸った。
メルダとは当日の朝に、鉱山都市サルマトランの会場で待ち合わせることになった。
落ち着いたところで唐突に一つの疑問が湧く。
「なぁ、世界保守連盟の奴らって、もしかして思考誘導されてたんじゃないか? 確かガイルが出入りしていたと聞いたが……」
プルトニーの部下だったガーゴイルのガイルが、観光都市アスラン王国の外れにある世界保守連盟に出入りしていたという情報を思い出す。
世界保守連盟の職員は生気がなかった。
おそらくプルトニーの奴に思考誘導されていたのではないか?
「確かに気になるんだわさ……」
「あそこの空気は異質だったからな……」
フォンとオルガが頷くと、俺達の行き先が決まった。
今日は青空にちらほらと雲が掛かり、暑くもなく寒くもないような陽気だ。
まぁ、俺達に暑さは感じないんだけどな。
俺はダルスとフォンをぶら下げると、上空へ飛翔した。
眼下には天空都市スカイラインの街並みが広がり、その下には深緑の大地が見え隠れする。
(あの島ってどうやって浮いてるんだろうなぁ?……)
俺はそんな事を考えながら、小さくなっていく天空都市スカイラインを背に、観光都市アスラン王国へ向けて飛翔する。
途中には、小さな村や畑、森などが流れるように過ぎていく。
暫し音速の空中散歩を楽しんだ後、観光都市アスラン王国の外れにある、世界保守連盟本部の上空に到着した。
周囲を森に囲まれた団地のような建物が複数あり、小さな街のようになっている。
ここには約一万人の職員が在籍しているそうだ。
俺は全身炎化を解除すると、建物の入り口に降り立つ。
そして、中へ入ると衝撃の光景が広がっていた。
『『ううううううううう……』』
職員達が呻き声を上げながらも、平然と作業を進めている。
紙をめくる音や物を運ぶ音は呻き声に掻き消され、無表情な顔も相まって、まるで異世界のようだった。
《気持ち悪いんだわさ……》
《異質な空間である……》
ノイズの入ったスピーカーの如く、奇声を発し続けている。
俺は恐る恐る受付の人間に話し掛けた。
「な、なぁ……」
「うううう……」
受付の人間は静かに顔を上げると俺の目を見つめる。
あまりに異質な雰囲気に背筋が凍り、身震いし恐怖心が湧き上がった。
「やっ、やっぱりいいや。じゃっ!……」
俺達は逃げるように建物を抜け出すと、互いに顔を見合わせる。
そして、俺の疑問は確信へと変わった。
《間違いない、思考誘導とは違う何かが起きている……》
《前はあんな奇声など上げてなかったぞ……》
《これは、魔王シェリーに相談するべきなんだわさ!》
フォンの提案で魔王シェリーの意見を聞くことにした。
困った時に何かと力になってくれる魔王だ。
きっと今回も知恵を貸してくれることだろう。
《事態は深刻だ。ちょっと急ぐからみんな俺の中に入ってくれ!》
俺は全身炎化すると、四人の足元に炎を広げる。
そして、穴へ落とすように『空間収納』に飲み込んだ。
普段の移動で『空間収納』を使わずに空を飛んでいるのには理由がある。
例えるなら…… 飴だ。
俺は飴を食べる時、最後まで舐め切る前に噛み砕いてしまう。
『空間収納』は口の中のようなもので、動く物には違和感を覚えるのだ。
うっかり焼いてしまったら……
そんな事を考えてしまい、迂闊に仲間を体内へ入れたくなかった。
仲間達を『空間収納』へ飲み込むと、俺は光の速さで天空都市スカイラインへ飛翔する。
数秒後、上空で人型に戻り、城の前へ降り立つ。
兵士に緊急の旨を伝え、魔王シェリーへの謁見を申し込んだ。
するとすぐに城の中へ案内される。
「なんじゃ、また来たのか? 今回はお主一人か?」
「いや、俺の体内に居ます」
全身炎化すると、腹を掻き混ぜながら『空間収納』からオルガ、ドラム、ダルス、フォンを吐き出した。
「うおっ!」
「ごわっ!」
「ぐへっ!」
「ぎゃっ!」
魔王シェリーは、俺の腹から勢いよく吐き出され、積み上がった仲間達を眺め肩を竦める。
「お主、便利な体をしておるのぅ……」
(まぁ、この身体はチートだよなぁ……)
俺は苦笑しながら己の能力の非常識さを改めて噛み締めた。
※ ※ ※
俺達は魔王シェリーへ世界保守連盟の状況を説明した。
「う〜む、これは不味いのぅ…… 思考誘導を強制的に切断した為に不具合が起きているようじゃ。殺す以外に止める方法は無いかもしれぬのぅ……」
魔王シェリーは腕を組みながら悩ましい顔をしている。
しかし、俺は一筋の光を見出した。
「殺すだけ…… で良いんですか?」
魔王シェリーは困惑した様子で俺を見つめる。
「あっ、ああ。殺せば精神との接続が切れるからのぅ…… しかし、そう簡単に殺す訳にもいかぬだろう……」
「いや、俺に考えがあります。参考になりました。ありがとうございます」
俺の言葉に魔王シェリーは目を丸くすると、腑に落ちない表情で俺の背中を眺めていた。
そして、再び全身炎化すると、仲間達を『空間収納』へ飲み込み城を後にする。
数秒後、俺は再び世界保守連盟の入り口へ降り立つと、仲間達を『空間収納』から勢いよく吐き出す。
仲間達が起き上がるのを見計らい、俺は思念通話を飛ばした。
《魔王シェリーから聞いた通り、思考誘導された人間は殺さない限り治らないらしい。だから俺は、今から此処の人間を全員殺す》
《《《《えっ!?》》》》
《まぁ、大丈夫だ。殺すと言っても本当に殺すわけじゃない。俺に任せろ! お前達は無関係な人間が紛れ込まれないように見張っていてほしい》
《わかった。トール様なら何とかなるだろう》
《了解である! しかし、何をするのか……》
《わかったわさ! トール様ならきっと大丈夫だわさ!》
《よくわからないけど、了解っす!》
戸惑いながらも四人は納得し、世界保守連盟の四隅へと散っていった。
その姿を確認した俺は、炎で全ての建物を包み込む。
そして意識を集中させ、『空間収納』へ飲み込んでいく……
「ギギギギギギ…… ガガガガガガ……」
コンクリートが軋むような音が響き、建物が揺れ始める。
やがて壁にヒビが入ると、音を立てて崩れ落ち、体内へ飲み込まれていく。
中の人間は炎で包み込んでいる為に怪我はない。
どうやら人間は一万百人居たようだ。
体内で瓦礫と人間を選別し、飲み込んだ一万百人を四角形に並べた。
『ううううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
『うううううううううう』
上空から眺めると人間の頭が蟻のように蠢いている。
都会の喧騒の如く、体内に一万百人の呻き声が響き渡る。
(待ってろ、今助けてやるからな……)
まずは先頭の一人の首に炎を飛ばして焼き切る。
並行して切断面を炎で包み込み出血を抑えた。
ころりと転がる頭はゆっくりと空間を漂っている。
そして数秒後、首を切断した人間の死亡を確認した。
今回もお読み頂きありがとうございます。
よろしければ、ブックマークもお願いします。
こちらに裏話を描かせて頂いております。
よろしければご覧ください。
https://book1.adouzi.eu.org/n1248fm/
土日更新に変更してから、推敲回数を増やしました。
読みやすさは如何でしょうか?
「う」の数にへぇと言う程度の小さな意味を持たせました。
執筆中に20件目のブックマークを頂きました。
ありがとうございます!
広告の下に
【小説家になろう 勝手にランキング】
というリンクがあります。
投票頂けると嬉しいです。




