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19話 メルダの送別会

 

 俺はメルダに礼を言うと、作業に取り掛かる。

 今回のメニューはシンプルなナゾのステーキだ。

 しかし、俺にしか作れない料理になるだろう。

 ポイントはもちろん製氷皿だ。


 さて、材料を確認しよう。

 パスタ、玉ねぎ、バター、薄力粉、鳥ガラ、ソース、ケチャップ、醤油、砂糖、水、酒、塩コショウ、そしてナゾ肉。


 まず、全身炎イフリート化し、鳥ガラを鍋に入れて腹の中で煮込む。

 その間に別の鍋に薄力粉を入れ、弱火程度の敵意を込めて乾煎からいりする。

 次に、玉ねぎをみじん切りにし、別の鍋でバターと一緒に炒めると、乾煎りした薄力粉を加え混ぜ合わせる。

 腹の中で煮込んでいた鳥ガラを取り出し、ソース、ケチャップなどの調味料と酒を全て混ぜ合わせると、デミグラスソースが完成した。

 これを製氷皿に流し込み、氷1つにつき4本ずつパスタを茶柱のように立てていく。


「メルダ、魔法を頼む!」

「これを凍らせればいいのね? いくわよ! ??????」


 メルダが詠唱をするとデミグラスソースはすぐに凍り、4つの棒が付いたアイスキャンデーのような形状になった。


「ありがとう、助かったよ!」


 メルダは不思議そうな顔をしながら、席へと戻っていった。

 勘のいいメルダも、俺の創作料理には勝てなかったようだ。

 俺は心の中でドヤ顔をしながら作業を進める。


 少し深めの皿にコメを平らに均しながらよそい、皿より一回り大きな網を、コメから5mm程度浮かせるように置く。

 網の上に塩コショウで味付けをした一枚の大きなナゾ生肉を盛り付ける。

 そして、凍らせたソースをナゾ肉の中央へ建てるように置いたら完成だ。


 料理を配り終えると、客達が首を傾げている。


「おい、これは生肉じゃないか!」

「生でも食えなくはないが、何だこの盛り付けは? まるでナゾのような物が乗っかっているぞ?」

「こんな料理見たことないのである!」


 反応は予想通りだが、勘の良い客も居るようだ。

 ソースにパスタを埋め込んだそれは、まさにナゾを模している。

 割り箸のような細い足は、パスタで代用するのに持ってこいだった。

 俺は皿と同じ数の火の玉を手から放つと、意識を集中させ、各皿のナゾ肉へと纏わらせた。


「皿が燃えた!?」

「なるほど、こうやって火を通すのか!」

「きっと凄い料理になるっす!」


 客達が驚愕や納得をしている。

 更に、炎に弱火程度の敵意を込めて、ナゾ肉をじっくりと焼き上げる。

 その間に俺は客席を見渡すと、二回手を叩く。


「みんな、聞いてくれ! 明日は俺達の仲間、メルダが旅立つんだ。だからみんなにはメルダの旅の無事を祈って欲しい。よろしく頼む!」


 俺が店の中央で声を張ると、店内から歓声が響き渡る。

 そして、メルダが恥ずかしそうに俺に駆け寄り、小声で訴えかけた。


「ちょっと! あたしはただ家に帰るだけよ? 旅立つなんて大袈裟じゃないの!」

「大丈夫だって! こういうのは雰囲気が大事なんだよ。俺達と別れるのは間違いないんだから、細かいことは気にすんなっ!」


 俺の言葉にメルダは戸惑いながらも、納得した様子で席へと戻っていった。

 そして片手を挙げると、ナゾ肉を纏っている炎を手に吸い寄せるように回収する。

 こんな事をしなくても炎は消せるのだが、そこはまぁ、演出ってやつだ。


『『おおっ!』』


 客席からざわめきが起こる。

 どうやら演出は成功したようだ。

 しかし、仕掛けはこれだけではない。

 凍ったデミグラスソースにパスタを立てたのには理由がある。


「見ろ! ナゾが溶けていくぞ!」

「なるほど、このナゾはソースだったのか」

「やっぱりあんた非常識よ……」


 ナゾ肉を焼き上げた炎で凍っているソースを溶かし、尚且つソースがパスタを伝う事で茹で上がるのである。

 更に網の下にコメを盛り、肉汁とソースがコメへと滴り落ち、旨味が無駄にならないようにした。


 これは俺の能力が無ければ作る事が出来ない料理だ。

 演出も込みで、我ながら完璧な作品に仕上がった。

 俺は心の中で今年一番のドヤ顔をキメる。


 ステーキを口にした客からは啜り泣く声も聞こえる。

 やがて店内が落ち着くと、狼の獣人のグレインが立ち上がった。


「なぁみんな! 明日はイフリートの兄ちゃん達の門出だ! こんな目出度い日は飲むしかねぇよな? だからよ、今日は俺の奢りだ! 好きなだけ飲んでくれ!」

『『うおおおおお!!』』


 なんと、グレインは今回も奢ってくれるようだ。

 グレインの粋な計らいに店内は沸き立ち、盛り上がりは最高潮に達する。


 ※ ※ ※


 30分後、各々が食事を終えた頃、矢張りというか、またかというか……

 テーブルにはあの光景が広がっていた。


「メルダぁ!! 他の魔女に見下されたらアタシに言いなさいよぉ! メルダを舐めるヤツは…… 『ブッ』飛ばしてやるんだわさ!」

「うっ、うん、わかったわ…… あと口抑えて……」


「メルダああぁ! 研究、頑張れよおおぉ! オレは応援してるぞおおぉ!!」

「あっ、ありがとう。というかあんた泣き上戸だったのね……」


 フォンとオルガは暴走していた。

 二人の勢いに負けて、メルダはやや引いている。

 そしてダルスとグレインは酒を片手に肩を組みながらメルダに声を掛けた。


「よぉ姉ちゃん、飲んでるか? 旅に出るんだろ? 頑張れよ!」

「うん、ありがとう。あと、ご馳走様」


「メルダ! オイラ達はずーっと仲間っす! 『ゲエェップ』と仲間っす!」

「うんっ、ありがとう。あと口抑えてっ……」


 メルダは苦笑しながら軽く礼を言うと、テーブルを見つめ涙を浮かべていた。


 ※ ※ ※


 更に30分後、客達に挨拶を済ませると俺達は店を出た。

 ダルスはフォンを背負っている。


「悪いなダルス」

「大丈夫っす、いつもの事っす!」


 そしてオルガはメルダに泣きついている。


「うおおぉ! メルダぁ! 俺は応援してるぞおおぉ!」

「はいはい。もうわかったわよ……」

「うんうん、美しい友情である……」


 メルダは呆れながらオルガの話を聞き流し、ドラムは腕を組んで頷きながら変な解釈をしている。


 そして俺達は宿屋へと入ると、泥のように眠りについた。


 ※ ※ ※


 丑三つ時、俺はふと目が醒め顔を上げる。

 すると、メルダが夜空を見上げ溜息を吐いていた。


「どうした? 眠れないのか?」

「うん、ちょっとね……」


 俺が声を掛けるとメルダが寂しそうに口を開く。


「ねぇトール。あんた異世界から来たんでしょ?」

「あぁ、そうだな。この空の彼方に俺が居た星がある」


 そして、俺の目を羨望の眼差しで優しく見つめながら呟く。


「あたしもトールの居た世界に行ってみたいなぁ……」

「あぁ、また今度な……」


 俺達は再び空を見上げると、満点の星が輝いていた。

 体が吸い込まれるような広大な空を見つめ、幾許かの時が流れる……


「ブッ飛ばしてやるんだわさ!……」


 フォンの寝言で俺達は我に返ると、メルダが寂しそうに微笑んだ。


「ふふふ。もうこの光景も見納めね……」

「いや。もう会えなくなるわけじゃないさ。また会いに行くよ」


 暫しの時が流れ、俺は呟く。


「もう寝るか」

「そうね……」


 俺達は眠りに就き、メルダとの旅に幕を下ろした。


「アタシに任せなさいよ〜……」


 そして部屋にはフォンの寝言が静かに響く。


お読み頂きありがとうございます。

「この話が面白かった」などの感想をお待ちしております。

一言でも結構ですので、お気軽に書き込みください。

よろしければ、ブックマークもお願いします。


こちらに裏話を描かせて頂いております。

よろしければご覧ください。

https://book1.adouzi.eu.org/n1248fm/


今回は創作料理に挑戦してみました。

お楽しみいただけましたでしょうか?

執筆中に19件目のブックマークを頂きました。

ありがとうございます!


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