18話 魔王に報告
雲ひとつない青空の下、そよ風を感じながら俺達は天空都市スカイライン上空から、ワイバーンタクシー乗り場へ着陸しようとしていた。
《あそこに着陸するぞ!》
《了解である!》
上空およそ20メートルから三人は手を離すと、強風を物ともせず難なく地上へと降り立つ。
それを見届けると、俺は上空で全身炎化を解除し、三人に続いた。
ドラムとメルダは俺の後ろを歩いている。
着陸の手順も大分手馴れて来たもので、全身炎化も、手足を動かすかの如く自在に操れるようになった。
「やっぱりここは眺めが良いっす!」
「空気が美味いな……」
「スカイラインなんて久しぶりに来たわ!」
各々が感想を口にする。
前回来た時は不敬罪で捕まって死刑宣告を受けたりと散々だったが、今回はプルトニー討伐という成果を上げ、堂々の凱旋だ。
心なしか風景が以前よりも壮観に思える。
街中を様々な獣人とすれ違いながら城を目指し進んでいく。
天空都市だけあり、翼のある獣人の割合が多い。
強化スライムの被害が無くなったおかげか、街は以前よりも活気があるように見えた。
そして城へ到着すると、城門の兵士に魔王シェリーへの謁見を申し込む。
暫くすると城内へと案内され、長い廊下を抜けた先の部屋に、窓の外を眺める魔王シェリーが現れた。
「久しぶりじゃのぅ。魔王グラハムは力になってくれたか?」
「あー。溶岩池に落とされましたが、力にはなってくれましたよ」
俺は身勝手な魔王を思い出し、苦笑しながら地下都市アルキメデスで起きたことを話した。
「妾が紹介状を書いた者に対して、まだそんなくだらんことをしているのか! あの蝙蝠め、もう一度街を吹き飛ばされたいのか?」
学習しない魔王グラハムに対し、苦虫を噛み潰したように不快感を露わにしている。
幻術を取り入れた戦闘をしていることを考えれば学習はしているのだろうが、あの性格が災いして評価が上がらないのだろう。
なんとも不憫な魔王である。
「ところで、お主らが此処に来たという事は、例の件は何か進展があったのか?」
俺はこれまでの経緯を説明する。
プルトニーの討伐や、強化スライムを放った目的、そして強化スライムの材料は魔物や獣人であることなどを……
「プルトニーはなんと残酷なことを……」
報告の内容に、魔王シェリーは絶句していた。
この世界に於ける魔王とは、自国の獣人を護り纏め上げる存在だ。
敵と見做し散々斃してきた強化スライムが、元は護るべき者達の成れの果てだと判明したことは、間接的とはいえ自国の獣人を殺めている可能性がある。
強化スライムを獣人に戻せるかは不明だが、斃してしまったら方法が見つかっても獣人に戻す事は出来ないのだから。
「トールよ、この報告は極めて重要な内容じゃ。“臨時虹会”を開催せねばならぬ。各国の王へ連絡をしてくるから、暫し寛いでおれ」
魔王シェリーは兵士に目配せすると、険しい表情で足早に部屋を出ていった。
《なぁフォン、臨時虹会って何だ?》
《臨時虹会っていうのは……》
フォンの説明によると……
青:天空都市スカイライン
紫:地下都市アルキメデス
藍:海上都市サッティンバーグ
緑:観光都市アスラン
黄:工業都市カシミア
橙:鉱山都市サルマトラン
赤:漁業都市タナトス
の7つの国の王が集結する会議だという。
各国に色が振り分けられ、7色が集まると虹色となることに由来するらしい。
元々虹会は定期的に開催されているそうだが、臨時ということはそれだけ報告の内容が重大だということだ。
暫くフォンとそんな思念通話をしていると、魔王シェリーが戻ってきた。
「待たせたのぅ。臨時虹会の日程が決まったのじゃ。3日後に鉱山都市サルマトランで開催されることになった。お主らはプルトニー討伐の張本人。当然参加してもらうぞ?」
「えっ? ああ、わかりました」
こうして俺達は半ば強引に臨時虹会に参加する事になった。
※ ※ ※
俺達は城を後にすると、食材などを買い揃える為に街を歩いていた。
各々が好きなものを見て回る中、メルダの顔色が優れない。
「メルダ、浮かない顔してどうしたんだ?」
「あたし、そろそろ帰らないといけないの」
メルダの言葉に、街を眺めていた一同の視線がメルダに集まる。
「「「「「え〜? もう帰っちゃうの〜?」」」」」
そもそもメルダはプルトニー討伐の為に俺達と行動していた。
プルトニーを斃した今、メルダが俺達と行動を共にする理由はない。
困惑した様子でメルダは口を開く。
「あたしだって本当は帰りたくないのよ。あんた達と一緒に居ると楽しいし、飽きないもの」
そして、寂しそうな表情で言葉を続ける。
「でも、あたしは魔女なの。魔女っていうのは【研究し続ける事が命題】とされているのよ。研究を放っておいて旅を続ける事は許されないの……」
メルダは魔王も認める優秀な魔女だ。
思い返すと、メルダの家は研究の材料や資料で溢れていた。
その光景だけで、並の努力で得た評価ではない事は容易に想像できる。
そんな彼女が命題を放置するのは、魔女としてのプライドが許さないのだろう。
俺達に引き止められる程の理由は無かった。
「わかった。いつ帰るんだ?」
「ちょっと早いけど、明日の朝ここを出ようと思っているわ」
寂しそうにメルダを見つめる俺達を、笑顔で見渡しながら言葉を続ける。
「ちょっと、そんな顔しないで! 3日後の臨時虹会にはあたしも参加するし、サッティンバーグへ寄った時はいつでも訪ねて来なさいよ!」
俺達は強く頷くと、メルダの顔に明るさが戻る。
「よーし! 今日はメルダの送別会だ! 」
「トール…… ありがとう……」
俺の声にメルダは涙目になり、他の四人はそんなメルダを笑顔で見守っていた。
※ ※ ※
というわけで、俺達は居酒屋の前にやってきた。
店頭には“人間お断り”の紙が貼られている。
この店は前回俺達が天空都市スカイラインを訪れた時に立ち寄った店だ。
前回来た時は最高の気分で店を出ることができたという実績がある。
今回はメルダの送別会だ。
メルダには最後に最高の思い出を作って欲しいという想いでこの店を選んだのである。
そして、俺は店の扉を開けると……
「いらっしゃ…… あー、ごめんニ。ウチは人間お断りなんだニ……」
新人だろうか? 猫のような獣人が俺をお断りしてきた。
「ああっ、そのお客さんは良いのよ! ごめんなさいね、この子新人で…… イフリートさん、どうぞ中へ!」
店員の言葉に、店内に居る十人程の客が一斉に俺へと視線を向けた。
「おおっ! この前のイフリートの兄ちゃんじゃねぇか! よく来たな!」
前回、全員に酒を奢ってくれた獣人が俺を歓迎してくれた。
他の客も手招きをして俺達を歓迎してくれている。
俺達は誘われるままに店内へと入っていく。
しかし……
「あれ? お客さん、ちょっと待って……」
何かと思い振り返ると、店員は冷たい視線をメルダへと向けていた。
「お客さん、人間よね? お連れさんでも人間はちょっと……」
「あたしのこと? あたし、これでも魔女なんだけど…… ??????」
如何にも魔女ですという服装のメルダでも人間チェックに引っかかってしまった。
それは、この辺りの獣人差別の酷さを暗に示唆していた。
事態を察したメルダは詠唱をすると、左手に光の玉を出現させる。
「あっ、魔女さんなのね。ごめんなさい、見た目だけだとわからなくて……」
「いいのよ、気にしないで。真下がタナトスだと神経質になるのも仕方ないわ」
「ありがとう。魔女さんは理解が早くて助かるわ。あの国さえ無ければ、人間お断りなんて張り紙は必要ないのだけど……」
どうやら和解したようである。
この世界の魔女とは、人間の域を出た者が成れるものだ。
両親を強化スライムに殺されたメルダは復讐の為に魔女となった。
俺もそうだが、元人間が人間お断りの店に堂々と入れるというのは少し不思議な感じがする……
そして、タナトスは良い話を全く聞かないな。
モヤっとした感情を抱きながらも、俺達は六人掛けのテーブルへと着席した。
「さっきは悪かったね。メニューは決まったかい?」
「いや、良いんだ。取り敢えず酒を6つ、あとは何か摘めるものを頼む。しかし、そんなにタナトスって国は酷いのか? 良い話を全く聞かないんだが……」
「はいよっ! えーと、タナトスねぇ…… あそこは良いところを探す方が難しい国だよ。昔は漁業で栄えてたんだけど、現王になってから何もかもが悪い方向へ進んでいるよ……」
昔は漁業で栄えていた、か。
先日海上で出会った海賊を思い出す。
魚が取れないのに税は上がると嘆いていた。
きっと無計画な奴が仕切っているのだろう。
タナトスという国に興味が湧きつつも、国王に対して侮蔑の念を抱いた。
「はい、お待たせ!」
そんな事を考えていると、テーブルに酒やツマミが運ばれて来た。
俺はグラスを片手に仲間達を見渡すと、声を上げる。
「それじゃあ、メルダの今後の活躍を祈って、乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
「みんな、ありがとう……」
メルダは涙目になりながらも、嬉しそうに酒を口にしている。
そして、乾杯を待っていたかの如く、前回酒を奢ってくれた獣人がダルスへと声を掛けた。
「よう、犬の兄ちゃん! この前名前を聞き忘れちまったな! 俺は狼の獣人、グレインだ! 兄ちゃん、あんた名前はなんて言うんだ?」
「オイラはダルスってんだ。誇り高き犬の獣人、ダルスっす!」
「ダルスか。自信を持った良い顔をしてんじゃねーか! よろしくな!」
「おう! よろしくっす!」
どうやらグレインと名乗る狼の獣人はダルスと意気投合したようだ。
肩を組みながら酒を酌み交わしている。
ふと視線を他のテーブルの方へ向けると、客の一人がそわそわしながら俺をちらちらと見てくる。
前回、俺が転生者だと暴露したからだろうか? ちょっと気になってきた……
そして俺と目が合うと、相手が申し訳無さそうに俺の方へと近づいてきた。
「あっ、あの〜」
「ん? どうした?」
「今日は、その…… 料理は作らないんですか?」
あっ、そういうこと?
……そうだ、思い出した。
この客は前回の俺の料理を食って泣きながら感謝してきた奴だ。
まぁ、今日はメルダの送別会だ。
良いものを食わせてやりたいしな。
「わかった。ちょっと待っててくれ」
俺は厨房へ向かうと、店員に交渉する。
「なぁ、悪いんだけど、また厨房貸してくれないかな?」
「ん? イフリートさんなら大歓迎さ! 好きに使って良いよ!」
思わぬ反応に戸惑いつつも、店員の好意に感謝し厨房へと入った。
今回はメルダの送別会という事もあり、サプライズ料理に挑戦しようと思う。
最高の思い出を作ってやりたいからな!
しかし、それにはメルダの協力が必要だ。
「メルダ、聞きたい事があるんだが……」
「ちょっと何よ? また変なこと思いついたの?」
流石はメルダ、勘が鋭いな。
俺は空の製氷皿を見せると、質問する。
「なぁ、魔法でこの製氷皿の中身を一瞬で凍らせることって出来るのか?」
「出来るわよ! 基本的に液体なら余程特殊なものでなければ凍らせられるわ!」
よし、これで創作料理が作れそうだ。
「そうか。準備が出来たら魔法を頼めるか?」
「良いわよ。どんな料理が出てくるか楽しみにしているわ」
俺はメルダに礼を言うと、作業に取り掛かる。
お読み頂きありがとうございます。
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こちらのエッセイに裏話を描かせて頂いております。
もしかしたらネタバレも含んでしまうかもしれませんが
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今回のお話は長くなってしまったので2話に分割致しました。
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