17話 フォンの覚醒と最高のピザ
俺達はプルトニー討伐の報告の為に、天空都市スカイラインへ向けて、辺境の研究所上空を飛んでいた。
俺はいつも通り左右の足にダルスとフォンをぶら下げている。
どうやらフォンは怪我の後遺症が無さそうだ。
辺りはすっかり暗くなり、空には満点の星が輝いている。
ダルスが空を見上げると首を傾げながら俺を見る。
「トール様が居た星はどこっす?」
「俺の居た星は恒星じゃないからここからじゃ見えないな。俺が光の速度で飛んで10分くらいのところだな」
恒星なんて単語、昔の俺なら知る事も無かっただろう。
プルトニーの知識が地味に役立った。
「ダルスはアホだから恒星なんて言ってもわかんないわさ!」
「なんだと〜! お前もよくわかんないんだろ!」
「なによ!」
「なんだよ!」
あー、また始まったよ。
こいつら本当は仲が良いのに、どうしてこうもコンコンワンワンと喧嘩するかねぇ。
オルガとドラムは二人同時に溜息を吐き、こいつらはこいつらで息が合っている。
俺達はジト目になりながら、五月蝿い二人を横目に飛行を続けていた。
俺は飛びながら『重複世界』について考えている。
もう一人の俺は、俺が見ている世界を観られるのだろうか?
そして、繋がっているのは左目だけなのだろうか?
もう一度地球に戻り、もう一人の俺に会って検証をしたいと思った。
そんな事を考えていると、フォンとダルスの戯れ合いがヒートアップしている。
「もー! アタシだって少しは理解してるつもりなんだわさ!」
フォンはダルスに小突きながら反論している。
「理解しているつもり、だろ? お前だってよくわかってないじゃないかよ! 村一番の物知りは飾りか〜?」
ダルスも負けじと足でフォンを小突く。
俺の足は二人の小競り合いに付き合わされ、ぶらぶらと揺れている。
「あっ、アタシだって知らない事はあるんだわさ! 知ったかぶりだって笑ったら良いんだわさ!」
拗ねるフォンに気を遣ったのか、ダルスは顔を背けてぼそぼそと呟いた。
「まっ、お前のそういうムキになるところ、嫌いじゃないけどよっ……」
「えっ?」
フォンはダルスの言葉に顔を赤くし、目を丸くする。
そして次の瞬間、フォンは手が滑り、俺の足から落下した。
「「「「「えっ?」」」」」
俺達は音速に近い速度で飛んでいる。
落下しながらだんだんと小さくなっていくフォンに、俺達も目を丸くした。
「おいおいおい、あのバカ! 何で手を離すかなぁ〜!」
俺は頭を掻きながらフォンを追う。
地面に叩きつけられたとしても、今のフォンなら軽傷で済むだろう。
しかしフォンを見失って探し回るのは勘弁してほしい。
そんな事を考えながらフォンを追っていると、フォンの体に変化が起こる。
「フォン、お前……」
地上に立つフォンは、尻尾が9本に分かれ、周囲の木々を照らすように黄金色に輝いていた。
「アタシ…… きっとこの力はフィンがくれたものだわさ……」
フォンのあまりの神々しさに、俺達は暫し言葉を失った。
「九尾化…… か」
「九尾化…… ?」
「9本の尻尾を持つ伝説の狐。フォンの姿はまさしくそれだよ」
「うーん、よくわかんないけど、この力は九尾化って呼ぶんだわさ! なんか色々出来そうな気がするんだわさ!」
フォンは呟くと、上空へと浮かび上がる。
「すげぇ! フォン、お前も飛べるようになったんだな……」
ダルスが目を細めながら、フォンの進化を嬉しそうに、そして羨ましそうに見つめている。
そんなダルスにフォンは微笑み、手を翳した。
フォンの目が金色に輝くと、ダルスの体が浮上する。
「こっ、これは……」
「アタシ、物を持ち上げる力を貰ったみたいだわさ。浮いて! って思ったらダルスが浮いたんだわさ!」
どうやらフォンの獲得した新たな能力は、物を任意で浮かび上がらせる力のようだ。
「う、浮いてるっす! オイラ、浮いてるっす! トール様が小さく見えるっす!」
ダルスは嬉しそうに地上を見下ろしている。
すると、フォンの顔色が曇ってきた。
《ダルス!》
《ん〜? どうしたっす?》
《ごめ〜ん、もう無理だわさ!》
《んん?》
フォンが苦笑しながら思念通話でダルスに告げた直後、目の輝きが無くなり、フォンとダルスは地上へと落下していく。
「ふぎゃ!」
「ぐへぇ!」
そして顔面から地上に叩きつけられた。
地面はフォンとダルスによって二つの大の字に陥没している。
程なくして二人が陥没した穴から出てきた。
「お、おいフォン! 落とす前に降ろせよ!」
「だ、だって仕方ないじゃない! 初めてで加減がわからないんだから!」
ダルスが抗議している。
今回はお前が正しいと思うよ。
「フォン、その力は要練習だな!」
「わ、わかったわさ…… 絶対に使い熟してやるんだわさ!」
俺の言葉にフォンは照れながらも強い眼差しで力を制御すると宣言した。
こうしてフォンは、九尾化により新たな能力『重力操作』を獲得したのだが、使い熟すのはまた別のお話である。
※ ※ ※
「オイラ、なんか腹減ってきたっす……」
ダルスが寂しそうに呟いた。
確かに夕飯時だ。
そして、ここは森の中である。
満点の星空の下、キャンプファイヤーなんて乙じゃないか。
「そうだな。丁度良いからここで夕飯にするか!」
一同が頷いた。
しかし、メルダの顔色が優れない。
「メルダ、どうした?」
「ちょっと! こんな所で料理なんて、食材はどうするのよ? まさかこんな真っ暗な中から探してくるなんて言わないでしょうね?」
なんだそんなことか。
俺は『空間収納』からストックしてある食材を取り出す。
ついでに、辺境の研究所から回収したテーブルと椅子を並べた。
「食材ならあるぞ。サッティンバーグで買っておいたからな! テーブルもこの通り、問題ない。」
「や、やるじゃない! でも、食器が無いじゃないの! まさか、それも準備してあるの?」
「もちろんあるぞ! ほらこの通り……」
テーブルの上に人数分の食器を……
「食器が足りないじゃない! どうすんのよ?」
まずい、食器が五人分しかない。
俺は暫し考えると、目の前に生える10メートルほどの巨木に目が行った。
(これを使うか……)
俺は片手で木を引き抜くと、炎の中に飲み込む。
そして『複製修理』で食器や調理器具を作製した。
「ほら、準備出来ただろう?」
「……ちょっと、この食器って今作ったんじゃないの?」
「あっ、バレた?」
「なんて非常識なの……」
こうして、一応の体裁は整った。
だが、メルダはまだご不満な様子だ。
そんなメルダを四人は鼻で笑っていた。
《メルダはトール様の凄さを知らないんだわさ!》
《トール様の料理を食ったら、多分あいつ倒れるっす!》
《トール様の料理に外れはないからな!》
《我輩、メルダが可哀想に見えてきたのである……》
「ちょっと! みんなして何よその顔! アンタ達、今失礼な思念通話してなかった?」
メルダの鋭い指摘に、四人は同時に首を横に振る。
不満気に腕を組みながら顔を背けるメルダに、俺は声を掛けた。
「まぁ、座って見てろって! 美味いもん食わしてやるから!」
そう言って俺は調理を開始する。
辺りは真っ暗だが、俺には関係ない。
俺自身が照明のように周囲を照らし、作業には何ら問題無いからだ。
さて、今日のメニューだが……
ピザだ。
腹の中を探りながら『空間収納』から、強力粉、イーストのようなもの、サラダ油、ナゾ肉ソーセージ、にんにく、チーズ、香草、トマト、ナゾ挽肉、玉ねぎ、にんじん、調味料を取り出した。
水は近くに流れていた川から汲み取り、体内で水蒸気にしてから水に戻す事で煮沸消毒とした。
まず、ボールに強力粉、イーストのようなもの、サラダ油、ぬるま湯を入れてかき混ぜ、暫く置いて発酵させる。
次に、トマトと玉ねぎとにんじんを刻み、ナゾ挽肉や調味料と一緒に先程作製した木製のフライパンに入れて炒める。
本来なら木製のフライパンなんて有り得ないだろ? でも、そこは俺の能力だ。
食材に炎を纏わせ、弱火程度の敵意を込めて混ぜ合わせる。
しばらくすると、ミートソースが完成した。
発酵した生地を伸ばし、木版の上に置く。
生地の上に、ミートソースや香草、切ったナゾ肉ソーセージ、チーズ、トマトなどを乗せる。
テーブルの上へピザ釜を模った炎を作製し、その中に生地を入れ、『選択炎上』で程よく焼き上げる。
釜の側面の炎は敵意を抑え、上面の炎は中火程度の敵意を込めるのがポイントだ!
暫くして炎を回収すると、美味そうな焦げ目の付いた、巨大なピザが現れた。
そして、テーブルを囲うように、周囲の木々を十数本ほど『選択炎上』で盛大に燃やした。
勿論敵意は込めていない。
飽くまで照明として燃やしている。
「出来たぞ! 食え!」
メルダは目を丸くし、他の四人は目が輝いていた。
最初にメルダが切り分けたピザに齧り付く。
「んんっ!!……」
メルダの動きが止まった。
(勝ったな……)
俺は久々にドヤ顔をした。
見た目や味は最高の逸品に仕上がっているが、さらにテーブルの周囲を燃やす演出まで用意したのだ。
どんなレストランでもここまでの演出を用意することは不可能だろう。
ただの森の中で、味と雰囲気の両方とも最高の物を作り上げたのだ。
これを超える物を作れる奴は居るだろうか。
「ま、負けたわ…… トール、やっぱりアンタは非常識よ……」
メルダは俯きながら呟いた。
その声を聞き、四人は歓声を上げる。
「やっぱりトール様の料理は凄いんだわさ!」
「オイラ、幾らでも食えるっす!」
「俺は、幸せを噛み締めているっ!」
「我輩、こんな美味い物を食べたのは初めてだと、何度言ったであろうか……」
各々が感想を口にしながらピザを頬張っている。
俺はそれを満足気に見ながら、ピザに齧り付いた。
※ ※ ※
食事も終わり、俺達は片付けをしている。
各自が川で食器を洗い、俺はテーブルを『空間収納』へ仕舞う。
全ての作業が終わり、十数本の木々を燃やしている炎を回収すると、森は元の静寂へと戻る。
そして俺達は、天空都市スカイラインを目指して再度飛翔するのだった。
お読み頂きありがとうございます。
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こちらのエッセイに本作の裏話を描かせて頂いております。
もしかしたらネタバレも含んでしまうかもしれませんが
よろしければご覧ください。
https://book1.adouzi.eu.org/n1248fm/
能力の描写を、旅編では敢えて「トールが燃やした」などの『カッコ』を使わない表現を極力しておりましたが、今編では『選択炎上』などの描き方に変更致します。
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