第38話 遭遇
宿場町からデリバールまでの道中、特に魔物も盗賊も出ないこともあり、俺は何気なくカイナに悪魔族と戦っていた理由を尋ねた。
「あいつは、仇なのよ」
カイナはそう静かに語り始めた。
「私、ダルソール公国出身なんだけど」
ダルソール公国、それは俺とカイナが出会ったあの三叉路から、南に向かった位置にある国で、ナンバル勇者王国と南側で隣接し、俺の故郷アーバイト王国とは東で隣接する国でもある。
公国というだけあり、この国で政治を行っているのは大公、つまり貴族だ。
その歴史は古く、正確にはわからないが間違いなくアーバイト王国より古い、カイナのいた場所からナンバル人ではないとは思っていたし、だからといってアーバイトって雰囲気でもなかったことから、俺としてもそうだろうと予測は立てていた。
「そこの国境の街ナラックから、南に少し行ったところにある、カイエルって街を拠点にしてDランクを目指していたの。それで、その時は私故郷の街で知り合ってFランクからずっとパーティーを組んでいた仲間がいたの」
ここで俺は思った。
俺が出会ったときカイナは1人だった。
つまり、おそらく……
「女の子ばかりで4人、みんないい子で、強くてまぁ、確かに私が一番強かったのは確かだけど、みんなそんなに変わらなかったのよ」
カイナは懐かしんでいるようだ。
「でね。ある時、依頼を受けた。その依頼は増え過ぎたゴブリンを狩ってほしいというものだった。私たちは、ゴブリンが何匹居ようが全く問題なく倒せる自信があったわ。だから引き受けたんだけど、ギルド側としても不測の事態を考えてもう1つパーティーを募集したの。それで、次の日そのパーティーが現れた」
このような話はよくあることだ。俺はEランクからパーティーを組んでいないからそうなったことがないが別に珍しいことではない。
「そいつらは男2で女1というパーティーだったけど、私たちはすぐに打ち解けることができたの」
これも重要なことだ。打ち解けなければいざという時に困るのは自分たちでもある。
「それはよかったじゃないか」
「ええ、まぁね。でも、それが良くなかったのかもしれない」
ここでカイナの表情が暗くなった。どうやら何かあったようだ。
「そうして、私たちはゴブリンが巣くっているという洞窟にたどり着いて、いざ攻略開始したってわけ、最初は出てくるゴブリンを次々に退治していって、私たちの連携と、彼らの連携でうまく討伐できた……そう思った、まさにその時だった」
ゴブリンを討伐し終わった瞬間だったようだ。
「突然、あらぬ方向から攻撃されたわ。私はとっさにそれをよけることができたけど、ソーニャがそれを受けてしまって……」
ソーニャというのは、カイナの仲間の1人の名前だ。
「私はすぐにソーニャをかばいながら攻撃が来た方を見たわ。そこにいたのは、私たちと一緒に入ったパーティーの1人だった」
「えっ、なんでだ」
俺は思わずそう聞き返してしまった。それほどにありえないことだったからだが、考えてみたら俺よりもカイナたちがそれを知りたいことだろう。
「わからないわ。私も聞いたのよ。どうしてって、そうしたら、やつらは必要なことだといって突然黒づくめのローブを身に付け始めて、さらに攻撃をしてきた」
それからカイナたちは意味も分からずそいつらと戦ったそうだ。
「ディノシス教団」
俺はカイナの説明を聞いてそのパーティがディノシス教団ではないかと思った。
それだったら、突然カイナたちを攻撃してきたのもわかる、何せ、やつらは人間の敵だからな。
そんな俺のつぶやきを聞いていたのかどうかはわからないがカイナは話をつづけた。
それによると、さすがカイナとその仲間、何とかそいつらを撃退し身動きできないようにしたそうだ。
「でも、その時よ。そこにはあの悪魔族がいたの」
どうやら、カイナたちは誘導されていたようだ。
そして、これで確信した。
「それで、気が付くと、私以外、みんなあっという間に……」
ここで、カイナの言葉が止まってしまったが、おそらく殺されてしまったんだろう。
「私が、あの依頼を受けようっていわなければあんなことにはならなかった」
カイナは後悔で押しつぶされそうになっている。
「そうか。でも、その状況は予測できることじゃない、それに相手は悪魔族、そう簡単に戦える相手じゃないだろ」
「そうかもしれないけど、でも……」
カイナの気持ちはわかる。俺だって、もしあの時、グロウとゴラス、ケイトの3人が殺されていたらと思うと、たぶんカイナと同じように後悔したと思う。
「そうだな。俺もある程度はわかるよ。でも、カイナはよく無事だったな」
「ノーラン? うん、何とかしのげたから、でも持っていた槍が壊されて危なかったわ」
だがその時、偶然高位冒険者が近くを通り助けてくれたそうだ。
カイナは思っただろうな、もっと早く来てくれればよかったって、まぁ、本人は決して口にはしないけどな。
そのおかげでカイナは助かり悪魔族は逃げた。
そして、カイナたちを攻撃してきた冒険者はその高位冒険者たちにつかまり連行されていったそうだ。
多分時期的に考えて、俺がディノシス教団の情報を持ち帰った後だろう。
「それから、街に戻って私だけDランクになれて、あの悪魔族を追ったのよ」
そして、あの三叉路でついに見つけ戦っていたということだった。
「なるほどな、そういうことか」
俺はすべてを納得した。
「そう、でも、ノーラン、あなたもどうしてあの時私に加勢してくれたの、確かにあなたにはレーヴェがいるし、強いから問題ないと思うけど」
「ああ、そのことか、まぁ、俺もカイナと似たようなものだよ。といっても、俺が戦った悪魔族は弱かったのかみんな命は無事だったけどな」
「どういうこと」
俺はここでミルダンジョンでのことを話した。
「……そう、あなたも」
「まぁな、でも、俺の場合は本当に運がよかったよ」
あの時隣の部屋にレーヴェがなかったら、そして俺がその使い手ではなかったら、Dランク冒険者がいなかったら、何よりあの悪魔族が弱くなかったら。どれか1つでもかけていたらおそらく俺もカイナと同じ運命、いや、間違いなく全滅していただろう。そう思う。
「そっか、それじゃ、その人たちは、今は?」
「あの兄妹は今頃、故郷で宿屋をやっているだろうさ」
「そう、けがとかも大丈夫だったんだ」
「いや、グロウとゴラスは部位欠損、ケイトは重傷だったよ」
「えっ、そうなの」
カイナは心配そうな顔をした。
「ああ、でも、俺にはハイヒールがあるからな、何度かかけてケイトは問題なく治っているよ。といっても、俺のハイヒールでは部位欠損は無理だからな。グロウとゴラスは部位欠損のままだ」
「ちょ、ちょっと待って、ハイヒールを何度もって、あなたいったいどんだけ魔力があるのよ」
カイナが驚いているが、ああ、そういえばまだ話していなかった。




