第33話 槍遣いの少女
三叉路に差し掛かったところで、突如剣戟の音が聞こえてきた。
俺もただ戦っているだけの音だったら特に気にしない。
しかし、その一方の気配が俺にはどうしても無視できないものだった。
そこで、俺は気づかれないように静かにその場所に向かった。
『おいおい、これはまた、珍しいな』
『そうね。私もそう聞いているわ』
俺の目に飛び込んできたのは2人の女。1人は人族で、俺とたぶん同じぐらいの年齢の少女。しかし、その容姿を見ると、俺の知る限りとびぬけての美少女だった。
その少女は槍遣いのようで、しかも、その腕はかなりのものだ。俺の知る限り最強の槍遣いは父さんだ。といってもその父さんはスキルレベル4。そして、この少女間違いなくそんな父さんよりも上に見える。つまりスキルレベルは5以上であるといえる。
でも、今はそれより重要なことがある。それはその少女が戦っている相手。
俺とレーヴェが無視できない存在、そう悪魔族だった。
なぜ、こんなところにいるのか、どうして、この少女は戦っているのか、わからないことだらけだ。
しかも、この悪魔族、先にも言ったように女性型の悪魔族だ。
俺もレーヴェも言ったようにこれは非常に珍しい。
その理由は簡単だ。悪魔族というのは、俺たち人間や動物のように繁殖によって増えるわけではない。悪魔族は通常邪神によって生み出される。
しかし、邪神も一々悪魔族を生み出してはいられない、そこでその代わりに悪魔王が悪魔族を生み出していたのだった。
だから、実は現在悪魔王がいない状況なので悪魔族は増えていない。
ということからもわかるように悪魔族というのは、特に男女という性別の必要が全くないということだ。それなのにどうして女性型がいるのかというと、そもそも悪魔族は人間に対抗して作られた存在。そして、男というのは女性に対して攻撃が緩んでしまう点がある。
そこを突くために生み出されたのが女性型だ。だが、最初こそ効果があったが、人間側も女性冒険者などが出てきたため、剣が鈍ることもなくなった。
それに、女性型はどうしても力が男性型より弱くなる。
それを知った悪魔王が女性型をあまり作らなかったことや、多くが討伐されたことにより現在では結構その数は少ないとされている。
というわけで、珍しいのだ。
『どうする、手助けする』
『そうだな、確かに、あまり必要なさそうに見えるけどな』
一見するとその戦いは少女の優勢でそれほど時間をかけずに悪魔族は討伐されるだろう。そう思える。しかし、ここで1つ心配事がある。
それは、何より少女が持つ槍だ。
少女が持つ槍は、どう見ても普通の槍。
あんな武器でよくここまで戦ったと褒めたいほど普通だ。
本来なら、たぶんとっくに粉砕されているだろう。
それでも戦えている。それだけでも少女の技量が分かるというものだ。
『あら、あの子……』
レーヴェが何かを言いそうだった時、俺はふとやばいと思った。
そして、俺がそう思った瞬間。
バキッ
少女の槍が根元から割けてしまった。
「くっ、もう少しで……」
「あらあら、もう終わりかしら」
悪魔族がそういいながら自身が持った剣を振り下ろした。
ガキーン
タイミングよく俺がレーヴェでその攻撃を受け止めることに成功した。
「ふぅ、アブね。こいつを使え」
そういって、あらかじめ異空間収納から取り出しておいた先祖伝来の槍を少女に手渡した。
「えっ」
「なに」
突然現れた俺に少女も悪魔族も驚いている。
俺はそんなことには構わずレーヴェを振り回す。
「ありがと」
少女もすぐに取り戻して俺から槍を受け取った。
その時、わずかだが槍から光が出たことを俺は見逃さなかった。
なんだ、あれは……もしかして……。
俺には、ある記憶が呼び起こされた。
だが、今はそれどころではない。
「さっさと、片付けるぞ」
「オッケー」
「くっ、2人となったところで、何が変わるというの」
悪魔族はそういつつも相当焦っていた。
その証拠に、下手な突きを繰り出してきたので、俺はすぐにそれに対応してレーヴェの柄尻で悪魔族の腹部を攻撃、その後、剣を返して、横に薙ぎ払った。
そして、そのすきを見逃す少女ではないようで、俺から渡されたばかりの槍をまるで長年愛用してきたもののように素早く悪魔族の心臓あたりに突き刺した。
「まさか、この私が……」
こうして、2人が狩りとなったことであっさりと女性型の悪魔族は塵となって消えた。
「ふぅ、終わったか」
「そうみたいね。ありがと、助かったわ」
そういって少女は槍を俺に返そうとしてきた。
「いや、いいって、別に気にしなくて、……それと、それは持っていてくれ」
この言葉には少女はもちろん俺自身も驚いた。
あれ、そういえば、俺、なんであの槍をこの子に、それに、あの光は一体。
『ノーラン、たぶんだけど、この子、お姉さまの……』
レーヴェが突然そんなことを言い出した。
いや、実は、俺もそうじゃないかと思った。
『レーヴェ、もしかして』
『ええ、この子、槍だけじゃなく、さまざまな武技スキルを持っているわ。それもすべてレベルは5よ。それと、槍を持った時の反応。そして、あの槍、すでに所有者があなたからあの子の名前になっているわ』
『まじかよ』
とんでもない偶然だ。
どうやら、俺は、レーヴェの姉たる剣より先にその使い手たる人物を見つけてしまったらしい。
そして、その人物を意味するところは、俺にとってはそれだけではない。
「どうしたの、それに、ほんとにいいの、これ、ものすごくいい物よね」
俺がレーヴェと驚愕している間に少女は、少し警戒しながらそう言ってきた。
「ああ、いいよ、というか、どちらかというと、本来の持ち主に返したようなものだし」
「はっ?」
少女の頭には疑問符が浮かんでいた。
それはそうだろうな。
俺は、そんなことを考えながら、少女を見つめていた。




