第32話 ナンバル勇者王国へ入国
国境検問を抜けて、ついにナンバル勇者王国に入ることができた。
『国境を越えても、あまり変わらないのね』
確かにレーヴェの言う通り、国境を越えたからといって、街並みや人々が変わるわけではない。それもそのはず、そもそもこの街の歴史は結構古く、アーバイト王国やナンバル勇者王国の前身であるナンバル王国の建国よりも以前から存在する街だ。
どういうことかというと、この辺りにはかつてバイエナンという小さな国があり、ベルザーラはその首都として長年栄えていた。
そして、アーバイト王国が建国され、それから約100年後にナンバル王国が建国されたことでバイエナンの運命が大きく変わった。
なにせ、アーバイト王国は建国後すぐにバイエナンとは別の方向に版図を広げ始め、次々に飲み込んでいった。
そして、建国から約100年がたった時、ついにバイエナン方面へと進軍したのだった。
一方、同時期にナンバル王国が建国し、よりにもよってまず手始めといわんばかりにバイエナンへと進軍を開始してしまった。
バイエナンとしても驚天動地だったに違いない事態となった。
そんな混乱する中バイエナンの兵士たちは必死に戦った。しかし、さすがに同時に2国から挟撃される形となったことで、兵士たちの士気も徐々に下がっていき、ついには首都であるベイラザーラへと迫られた。
ここまでくると、どうしようもなくなったバイエナン首脳陣は長時間の会議の結果、降伏を選んだ。それによりバイエナンは約1000年という長い歴史に幕を下ろした。
その後、偶然同時に同じ国を滅ぼしたアーバイト王国とナンバル王国は、どちらがベルザーラを手に入れるかで当然もめ、一触即発となりかけた。
しかし、この時すでに建国から100年が過ぎていたアーバイト王国と、新興国家であるナンバル王国では兵数も兵士たちの練度も忠誠心もその差は明らかだった。
ナンバル王国としては、アーバイトと戦争しても勝つ見込みはなかった。
そこで、ナンバル国王は交渉によりこの場を乗り切ろうとした。
一方、アーバイト王国としても、この短時間で自分たちと同じ進軍スピードを出したナンバル王国を警戒し、今戦えば相当な被害を受けると判断していた。
そのため、ナンバル王国との交渉はありがたい申し出だった。
こうして、交渉の場が設けられ、その結果、バイエナンの国土は東西で2分、首都であったベルザーラも測量をしたうえで2分することとなった。
そして、アーバイト王国とナンバル王国は友好国として、お互いに支援しながら現在に至る。
というわけだ。
『まぁ、違う国といっても、街自体は同じだからな。でも、雰囲気は少し違うだろ』
『そうね。まぁ、確かに少し違うわね』
そのあと、俺たちはこちら側の街も少し歩いてから街を出ることにした。
ちなみに、アーバイト王国とナンバル勇者王国との行き来はこのベルザーラでしかできない。
しかし、実は行き来するだけなら別にこの街を通る必要はない。何せ、ベルザーラの周辺を見ても、特に国境に高い壁がそびえているわけでもないし、難攻不落の山があるわけでも、巨大な川があるわけでもない。つまり、自由に行き来が可能だ。
では、なぜ、ベルザーラしか行き来ができないかというとこれは、身分証の問題が出てくる。
俺も冒険者カードとして身分証を持っているが、これはほかの身分証と基本的な部分は同じで、古代魔法を用いた魔道具となっている。
その機能は、“情報の保存”つまり所有者がどこの街を出て、どの街に入ったか。また、どの国を行き来したかなど、渡航の記録が事細かく記載される。
そのため、たとえベルザーラを経由しないで、アーバイト王国の人間がナンバル勇者王国の街に入ろうとしてもすぐにばれ、密入国がばれてしまうというわけだ。
また、この身分証は不思議な機能があり、紛失して再発行しても保存された情報が記載される。
それにより、たとえ紛失したとうそをついて密入国をしようとしても、再発行すればもろバレだ。
さらに、他人ではこの情報にアクセスすることもできないというセキュリティもしっかりとしているという代物だ。
だからこそ、他人の身分証を拾ったからといってなりすますこともできない。
ほんと、訳が分かないものだと思う。
とまぁ、余談はここまでにして、適当にベルザーラを見たところで、いよいよベルザーラを後にすることにした。
『そろそろ、行くか』
『そうね。大体、見て回ったから、早くお姉さまのところに行きましょう』
街を出て数時間、国境の街近郊だけあって、道中は平和そのものだった。特に魔物や盗賊、山賊の類は出ないのは助かる。その理由は、やはり、国境警備兵たちが頻繁にこの街道を通るからだろう。
今だって、まさに前方から国境警備兵たちがぞろぞろとやって来た。
「冒険者か?」
通り過ぎようとしたところで突然声をかけられた。
「ん、そうだけど」
「そうか、この先ゴブリンの目撃情報がある。気を付けて進め」
どうやら、俺を低ランク冒険者と思ったようで、ゴブリンに対して警告をしてくれたようだ。
「わかった、気を付けるよ」
俺はそう言いつつ、見つけ次第適当に狩っておこうと思った。
その後、警告通り数匹のゴブリンと遭遇したが、レーヴェを持つ俺の敵ではなくあっさりと倒し、問題なく宿場町にたどり着いた。
「さてと、まずは、ここの饅頭だな」
俺は忘れてはいなかった、各村、各町で独自の饅頭を出しているという、当然この宿場町でもベルザーラとは違った饅頭があるはずだ。
そして、その饅頭の店はすぐに見つかり、俺は夕飯代わりとしてさっそくそれらを買った。
「へぇ、見た目はほとんど同じだな」
そうして1口、そこで違いが分かった。
「ここは鶏肉か」
鶏を甘辛く煮たものを具としていた。
「これも、うまいな」
それからも数個平らげてから宿に泊まり、次の日宿場町を後にした。
宿場町を出てから、3時間ほどが経った。
俺はその時、三叉路に差し掛かったところだった。
「!?」
突如剣戟の音が聞こえてきた。
『レーヴェ、これって』
同時に厄介な気配。
俺はすぐにその場所に向かったわけだが、そこで見たことに驚愕した。
そこにいたのは、2人の女、1人は槍遣いで美少女としか言いようのない人物。
しかし、今はその相手の方が問題だった。




