第22話 大きな街ではよくあることらしい
グルベイズの冒険者ギルドに拠点移動の報告をしたところで、ここのギルドマスターの娘であり冒険者受付担当のサニマから、はぐれオークの討伐依頼を出された。
はぐれオークとは、以前グロウたちとともに討伐したある意味懐かしい魔物だ。
当時、俺はFランクであったがグロウたちとパーティーを組んで討伐した。
しかし、サニマが俺に出した依頼表はソロ討伐の物だった。
このソロ討伐は、文字通りパーティーを組まず1人で討伐するというものだが、問題がある。それは、本来このはぐれオークのソロ討伐は、群れを討伐できるDランクに出る依頼だ。
でも、俺はEランクになったばかり、ほとんどFランクと変わらない。
そんな俺に出すっていうのはどういうことだろうか。
「これ、ほんとに俺か?」
俺は思わずサニマにそう尋ねた。
「はい、間違いありませんよ。ギルドマスターは悪魔族を討伐されたノーランさんなら問題ないだろうと言っていましたから」
サニマによると、ギルドマスターがその冒険者なら上位ランクの依頼を受けても問題ないと判断すれば、適正ランク以下のランクでもその依頼を特別に受けることができるということだ。
「……というわけですので、Eランクのノーランさんでも受けることは可能です」
「おい、ちょっと待て」
俺がサニマと依頼の話をしていると突如後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
なんだと思い振り返ってみると、そこには、見上げるほどの大男が立っていた。
『……大きい』
レーヴェにとってもでかく見えるようだ。
「はぁ、どうしました。ブロスさん」
この男の名はブロスというらしいが、サニマはため息をついていた。
「どうしたものこうしたもあるか、そいつは、俺の依頼だ」
「そうなのか?」
普通に考えて、誰かが受けた依頼をまた別の誰かに受けさせることはありえない、それが分かったうえで、サニマにそう尋ねた。
「いえ、違いますよ。ブロスさん、あなたはこの依頼を受けることができないと何度も言ったはずです」
どうやら、この男は、この依頼を受けたいが、ギルドに断られていたようだ。
それなら俺が受けても全く問題はない。
「ふざけるな。今、お前は言っただろう、下位のランクで受けることはできるとな、俺はちゃんと聞いたぞ」
確かに、サニマはそう俺に説明した。
「ええ、確かに、規則ではそれが可能です。ですが、それはEランク以上の話です。ブロスさんはFランクですからそれは適用されません」
このFランクというのは、冒険者としては見習いという意味合いがある。そのために、Fランクは登録した街以外で仕事をすることができないという規則がある。その理由は簡単で信用がないからだ。それはギルドをはじめ、依頼人となる人々からでもある。
そういった理由から、FランクからEランクに上がるには試験が必要になり、その試験を受けるタイミングも、その地のギルドマスターがこの冒険者はほかの街に出しても大丈夫だろうと判断して、ようやく受けることができるというものだ。
まぁ、そのため、どう考えても信用できないような奴はいつまでたってもFランクから上がれないというわけだろう。
「それは、お前らがEランクに上げないからだろう。規則だがなんだかしらねぇが、俺はこれまで数多くの戦場で生き抜いてきた元とはいえ傭兵だぞ、その俺が、いつまでもゴブリンなんかの相手をしていろというのか」
この大男がいつから冒険者なのかは知らないが、なかなかEランク昇進試験を受けることができないらしい。
「それは、ギルドマスターが判断するものですので、私にはお答えできません」
サニマはそういっているが、当然サニマ自身はわかっている。
おそらく、いや、間違いなく素行の問題だろう。このブロス、さっきから態度が悪すぎる。ある程度なら仕方ないとしても、これではトラブルをまき散らすだけだろう。
「だったら、そのギルドマスターを出しやがれ」
このまま放置すると面倒なことになりそうだった。
「ずいぶんとうるせねぇな、一体なんだ」
その時不意に声がした。
「お父……じゃなかった、ギルドマスター」
「サニマ、いい加減ここではちゃんとギルドマスターと呼べ。まぁ、いい、それで、ブロス、お前俺に何か用か」
現れたのは、サニマの父親にして、ここのギルドマスターだった。
「用もくそもあるか、さっさと俺をEランクに上げやがれ。それと、こいつに渡したはぐれオークは、俺が目をつけていた依頼だ。そいつもよこせ」
ずいぶんわがままな奴だ。
「はぁ、しゃぁねぇなぁ」
ギルドマスターはブロスを見てため息を1つ、ついてから俺を見た。
「お前が、ノーランだろ、噂は聞いているぜ。といっても、俺も、その噂をすべて信じているわけじゃねぇ、だからこそのこの依頼なんだが、まぁ、こうなっちまった以上、ちょいとこいつの相手をしてやってくれねぇか」
どういうことだろう、俺がそう考えているとギルドマスターはブロスの方を見てこういった。
「ブロス、お前、ノーランと模擬戦をしろ、それで、お前が勝てたらこの依頼お前にやらせてやる」
「ちょ、お父さん」
サニマが驚きすぎて、思いっきりお父さんと呼んでいる。
「おいおい、いいのかよ、そんな簡単なことでよぉ」
なんだか、ブロスは俺をなめているようだ。
というわけで、なぜか俺はこの目の前の大男ブロスと、模擬戦をすることになった。
そして、模擬戦をするために移動したわけだが、その場所はギルドの敷地内にある別の建物、訓練場だった。
ここでは、ギルドに所属する冒険者ならだれでも使うことができる場所だそうだ。
「いいか、ルールは簡単だ、得物は自由、降参するか、戦闘不能となった時点で終了だ」
実に簡単だった。
「殺しちまってもいいってことかよ」
ブロスの中では俺の死が決定したかのような発言をしている。
「ああ、いいぜ、できるものならな。といってもこの訓練場じゃ死ぬことはない」
その理由は、訓練場中央に設置されている魔法陣によるものだそうだ。この魔法陣どういう仕組みかは知らないが、この中で死んだ場合、時間魔法が発動し即座にその前の時間に巻き戻される。つまり、死んだことがなかったことにされるということだ。
俺も時間魔法は使えるけど、こんな高度な魔法は使えない。
そんなことを考えていると、レーヴェが教えてくれた。
『これは、古代魔法ね』
レーヴェによると、今俺たちが普通に使っている魔法とは系統や使い方が全く異なる、はるか遠い過去に滅んだ魔法の一種だそうだ。
「……古代魔法」
レーヴェから聞いたことをそのまま口に出していた。
「ほぉ、よく知っているな、そうだこいつは古代魔法だ。昔どっかの誰かが発見して、ここに設置したものだ」
実にあいまいなことだが、実際に本当にわからないらしい、ただ、その効果は絶大で信頼できるものだそうだ。
というわけで、俺とブロスの突如始まった模擬戦が始まろうとしていた。




