第21話 新しい拠点
カルツの店でレーヴェの鞘と俺の新しい鎧を手に入れた俺は、その足でカルガンの冒険者ギルドに足を運び、次の街グルベイスに向かうことを告げた。
そして、グルベイズへ向け、街道を歩き始めたのだった。
といっても、グルベイズの街はこの地域の領都でもある。そのため街道はしっかりと警備されており、盗賊の類はほとんど出なかった。この辺はミルダルタと大いに違う点だろう。
というわけで、カルガンを出て数日、何事もなくグルベイズにたどり着いた。
「ここがグルベイズか、でかいな」
『ほんとね、ミルダルタやカルガンとはずいぶんと違うわね』
俺の故郷カルム村が属しているのは、ミルダルタを領都としたマルコーダ男爵が収めるマルコーダ領となる。実は、マルコーダ領はミルダルタを中心にした村々を含めた領地しかない。それに対して、ここグルベイズは、テルミント伯爵が収めるテルミント領の領都であり、カルガンを含めた4つほどの街とその道中にある宿場町、周辺の村々を有しており、アーバイト王国においても比較的大きな領地だ。
そんな領の領都なわけだから当然の大きさというわけだ。
そして、なぜ俺がこの街に来たかというと、ここにはグルベイズだけではなく、カルガンなどほかの街の依頼なども多く出される。しかも、その依頼は基本Eランク以上のものが多い、それもそのはずなにせそれらの街にはFランク冒険者が圧倒的に多く、Eランクに上がるとたいていが俺のようにその街を出てしまう。とはいえ、それぞれの街でも当然Eランク以上の仕事は山のようにある。そこで領都に出ているEランク以上の冒険者に対して、依頼が出されるというわけだ。
ということで、俺たちは冒険者カードを出してグルベイズに入った。
「中に入ると一層、でかさがわかるよなぁ」
俺は感嘆の声を出した。
「おや、お前さんこの街は初めてかい」
すると、突如声をかけられたので、そちらを振り向くと、そこには、1人の人の好さそうな爺さんだった。
「まぁね、ちょっと、北の方から出てきたんだ」
「北? ということはカルガンかね」
ここから北の街といえばカルガンだ。
「いや、その先のミルダルタだよ」
「ああ、ミルダルタかね。それじゃ、この街とはだいぶ違うだろう」
爺さんはそう言いながら、少し懐かしそうにしていた。
「そりゃぁ、比べようがないと思うけど、爺さんミルダルタを知っているのか」
「うむ、出身地だよ。私も若いころ、お前さんのように出てきた口だ」
どうやら、この爺さん元冒険者だったらしい。
確かに、身のこなしはそれなりに実力を持っているようなものだった。
「といっても、私の場合はけがですぐに引退する羽目になったがな」
こういった冒険者は腐るほどいる。
実際、グロウたちがそうだった。
俺もその仲間入りをしないように、気を付けていきたいものだ。
「まぁ、というわけだから、お前さんも気を付けな。ああ、それと、ミルダルタから来たんなら知らないだろうが、この街にはスラムがあってなぁ」
「スラム?」
「スラムっていうのは、いわゆる貧民街のことさ、荒れ果てた旧市街なんかに家のないものや宿代も払えない連中が行きついて、勝手に住み着いたところさ」
そして、その連中は生活の困窮故に犯罪に手を染めるものが後を絶たない。その結果、治安は最悪なところらしい。
『へぇ、そういうところがあるのね。ちょっと見てみたいかも』
レーヴェが何か言っているが、今は爺さんがいるために一旦放置することにする。
「領主は何か対策をしないのか」
俺は当然の疑問を投げかけた。
「もちろん領主にとっては悩みの種だからな、対処はする。しかし、ああいう連中は駆逐してもまたすぐに現れる。鼬ごっこみたいなことになるんだ」
だから、対策の取りようがないそうだ。
「というわけで俺たちのような田舎者にはアブねぇ場所だ。くれぐれも近づくんじゃないぞ」
という、警告を受けることになった。
「わかった、俺も面倒なトラブルは避けたいから、近づかないようにするよ」
「それがいい」
それから、俺はギルドの位置や、おすすめの宿などを聞いて爺さんと別れた。
「いらっしゃいませ。グルベイズ冒険者ギルドへようこそ」
ギルドに入るなり、正面に立った人からいきなり歓迎の声をかけられた。
「えっ、ああ、お、おう」
おかげでしどろもどろになってしまった。
「本日はいかがなさいました」
「別の街から今この街に移ったからその報告に……」
「そうですか、どちらからですか?」
「カルガンから」
「カルガンからですか、わかりました。では、こちらへどうぞ」
そういって、案内されたのはギルドの冒険者受付だった。
そして、その人物はそのままその受付に座り俺の対応をし始めた。
「はじめまして、私は、グルベイズ冒険者ギルド受付を担当している。サニマといいます」
席に着くなり丁寧にあいさつをしてくれたが、まさか、受付担当だったとは思わなかった。
「ああ、よろしく」
そういって、俺はギルドカードを提示した。
「拝見します。えっと、あら、もしかして、ノーランさんですか」
なんか急に親しげな表情をしてきた。
「えっと、そうだけど、なんで知っているんだ」
「やっぱり、あっ、ごめんなさい、父……じゃなかった、ギルドマスターから、噂として聞いていまして、確か、悪魔族を討伐されたとか」
今、この受付サニマだっけ、ギルマスターを父って言わなかったか。
『言ってたわね。親子かしら』
レーヴェもそう思ったようだ。
「まぁ、一応な、偶然みたいなものだよ」
俺はそういったが、これはほとんど事実だった。何せ、あの時隣にレーヴェがあって、そこに俺が吹き飛ばされた。そして、俺の前世が偶然そのレーヴェの持ち主として選ばれていた。まさに運命のような出来事だが、レーヴェにとってはこれはタダの偶然が重なっただけ、運命なんてものは存在しないということだった。
『確かに偶然よね。まさかあんなところに悪魔族が住み着くなんてお母さまやお父様たちも気が付かなかったでしょうね』
レーヴェの言うお母さまやお父様たちというのは言うまでもなくレーヴェを生み出した神々のことだ。
「そんな、謙遜しなくてもいいですのに」
サニマは俺の発言を謙遜と思ったようだ。
ほんとに偶然なんだけどな。
「謙遜じゃないんだけどな」
「またまたー」
サニマは信じてくれないようだ。
「それで、手続きはこれで終わりでいいのか」
このままじゃ終わらないやり取りとなりそうだったので、俺はサニマにそう尋ねた。
「え、えっと、はい、大丈夫です。それからノーランさん、ギルドマスターから、ノーランさんに、この依頼を受けるように言伝を受けています。お受けになりますか」
サニマが差し出してきた依頼の内容を見て俺は驚愕した。
「えっ、これをか?!」
「はい、間違いありません」
その依頼はある意味で懐かしい依頼だった。
何せ、俺がミルダルタで組んでいたカプレスの兄妹たちと初めて討伐した魔物。
そう、それははぐれオークの討伐依頼だった。




