第02話 ミルダルタ
生まれ育ったカルム村を出発した俺だけど、その道中は、数匹のゴブリンと遭遇しただけでそれ以外は特に問題なかった。もちろんゴブリンは魔法で片付けた。
そうこうしているうちに目の前に大きな門が見えてきた。
「あれが、街か、確か名前は、えっと、ああ、そうそう、ミルダルタだった」
ミルダルタは、俺の村カルム村から一番近い街であり、アーバイト王国最北端の街でもある。この街のことは村にいるときからいくらか情報は聞いていた。それによると、街の規模としてはアーバイト王国では小さい方でありながら比較的新しい街だ。領主はマルコーダ男爵で、現在で9代目だそうだ。初代領主は未開の地であったこの地を開拓した英傑で、実はカルム村を開拓した槍遣いとはかつては冒険仲間であったという。
そんな男爵が作った街は、中央に領主が住む屋敷があり、その中で領地運営の執務をしているそうだ。また、その隣には兵舎が隣接しており、街を守る警備兵や騎士たちが所属している。まぁ、といっても俺が用あるのはさらにその隣にある冒険者ギルド、その場所で今日俺は冒険者登録をするつもりだ。
てなわけで、俺はミルダルタの門に向かって歩いて行った。
門の前までくるとそこには門を挟んで左右に2人の警備兵が立っていた。
「んっ、見ない顔だなどこから来たんだ」
「カルム村から、冒険者になろうと思って来たんだ」
「カルム村、どこだっけ?」
兵士は俺の村を知らないようだ。まぁ、辺境の辺境いくらミルダルタでも知らない人がいてもおかしくはないだろう。
「ほら、東にある小さな村だよ」
「ああ、あの村か、確か槍遣いしかいないっていう」
どうやら、村の名前は知らなくても槍遣いの村というのは知られているようだ。
「そう、その村」
「そうか、まぁ、歓迎するぞ、ところで、身分証はあるか」
身分証、こういった街に入るためには必要なものだ。当然、小さな村の出身の俺はその身分証を持っていなかった。
「いや、持っていない」
「そうか、まぁ、冒険者になればギルドカードが身分証になるからな。それまでもたないものも多いしな、それじゃ、通行料を払ってくれ、料金は200バルトだ。払えるか」
そういわれた俺は手持ちの財布を探ってみた。
「これでいいか」
この通行料のことは事前に聞いていたことからあらかじめ用意していた俺は、すぐに払うことができた。
「確かに、改めて歓迎する。ミルダルタへようこそ」
こうして、俺は無事に街の中に入ることができた。
ちなみにだが、身分証があれば通行料は無料になる。
街に入ったが、俺はまっすぐに冒険者ギルドへと向かった。
理由は簡単だ、途中にある店や屋台に行こうにも金がない。まずはギルドに行って登録して、道中などで集めた素材を売って金を作る必要があった。
といっても、周囲は気になる、例えば、あの屋台では串焼きだろうか、串に刺した何かの肉がとてもうまそうだし、その隣で売っている団子もうまそうだ。
そんな風に周囲を田舎者のようにきょろきょろして歩ていると不意に声がかけられた。
「おい、そこの田舎者」
俺としても田舎者の自覚があったから振り返った。
するとそこにはなんだかいかつい感じの男たち、金属と革でできた鎧を身にまとい、ところどころ汚れているし、いくつかの傷がついていた。ガラの悪さを見ても街の警備兵や騎士ではないのは確かだ。ということは冒険者だろうか、それにしてもイメージと違うな。
俺がそんなことを考えていると男たちがさらに言葉を続けてきた。
「お前だよお前」
やはり俺のことだったようで思いっきり俺を見ている。
「えっと、何か用か?」
とりあえず用件を聞いてみることにした。
「いい槍を持っているじゃないか、お前みたいな田舎者には必要ないだろう、俺たちによこしな」
そういってきた。どうやら、俺が背負っている槍が目当てらしい。
確かに、この槍は、俺が冒険者になるといったときに父さんが持たせてくれたもので、昔俺の先祖が愛用していたものだった。
実はその先祖というのが、カルム村を開拓した冒険者カルムだったりする。
そう、この槍はそのカルムが使っていたものでうちの家に代々伝わるものだ。
カルムもまさか自分が愛用していた槍を槍の才能がない俺が受け継ぐとは思ってもみなかっただろうな。
そういう歴史もそうだが、実はこれはかなりの名槍売れば相当な値打ちものだろう。
だからといって、売る気もないし、何よりこいつらに渡す道理はない。
「えっと、断る」
「なんだとぉ」
俺が断ると男たちが一斉にいきり立った。
「どうやら、痛い目に会わないとわからないようだな」
ずいぶんと展開が早い、さすがに剣は抜かないまでもいきなり殴りかかってきた。
「うぉっと」
俺には槍の才能がなかった、だからといって戦いの才能がなかったわけではない、というかそれもなかったら冒険者になろうと思わなかったし、何より幼馴染も両親も許してはくれなかっただろう。
「てめぇ」
「くそっ」
「あたらねぇ」
それから数回男たちが殴り掛かってきたが俺はすべてをよけて行った。
「こらぁ、貴様等、何をしている」
そこに騒ぎを聞きつけた警備兵がやってきた。
「やべぇ、逃げるぞ」
それを見た男たちはすかさず逃げ出したが、そのうちの1人を俺は捕まえていた。
「は、離しやがれぇ」
俺につかまった男は暴れそうになったが俺がしっかりとホールドしているために動けない。
と、そこに警備兵たちがやってきた。
「お前は、はぁ、また、お前たちか、いい加減にしろよな」
警備兵が男を見てため息をつきながらそういった。どうやら、こいつらしょっちゅうこんなことをしているようだ。
「それで、君は?」
警備兵がひとしきりため息を吐いた後俺を見て尋ねてきた。
「俺は、今さっきこの街についたばかりなんだけど」
俺はそういってから一通り話した。
「なるほど、それは災難だったな。だが、悪いが、詰所までいったん来てもらえるか」
「まぁ、特に急ぐわけでもないし別に構わない」
「そうか、すまないな」
それから俺は警備兵に男を渡してからそのあとについて行った。
ほんとに、災難だ。
その後、小一時間ほど警備兵から事情を説明させられてから、ようやくの解放となった。
「まさか、街について早々にトラブルに巻き込まれるなんてな、ほんとついてない。でも、まぁ、これでようやく冒険者ギルドにやってこれたな」
俺が連れていかれたのは兵舎、つまり冒険者ギルドとは隣同士というわけで解放されて隣に行けば目的に付けるというわけだった。
「さて、さっさと済ませるか」
俺はそうつぶやいてからギルドの扉を開けた。




