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幼女ミーツ幼女

「よっし。追いついたな」


 馬上の俺と流琉である。

 流琉を膝の上に乗せ、愛馬烈風を急がせる。


 流琉の借金を肩代わりするのに一悶着あったり、途中盗賊に襲われてる隊商を助けたりとそれなりにいろいろあった。

 立ち回りもそれなりにあったのだ。そして確信した。うん、流琉って俺より素で強いわ。ガチで。

 流石は悪来典韋である。悪来の異名は伊達じゃない!

 史実で曹操のメイン盾は格が違ったです。マジで。膂力があれば人は空を飛べるのだと知った俺でした。えへへ、と笑う流琉に戦慄したのは一度や二度ではない。

 まあ、その笑顔が可愛いからよしとした俺なのである。

 うむ。やはり幼子おさなごはこうでないと。


◆◆◆


 そんなこんなもあったけど……概ね順調に旅は進み、袁家ご一行に追いついたのだ。

 うん、想定より早く追いついたなあ。

 流石は白蓮だ。とある伝手を頼って譲ってもらったらガチの名馬だったでござる。汗血馬と白蓮秘蔵の駿馬との間に生まれた最高傑作、とのこと。

 あと、特筆すべきなのは、気質が人懐っこく乗り手を選ばないことだ。

 うむ。俺にぴったりだな!乗り手を選ぶ悍馬とか乗りこなせないし!乗りこなせなかったし!それに、毎日お世話とかできるわけじゃないしね、器でもないしね。

 動物に無駄に好かれるとかそういう特性とかはなかったし。まあ、しゃあないしゃあない。

 烈風、頼りにしとるからねー。


 警備兵が近づいてくるが、流石俺だ、顔パスである。流琉を見て数瞬訝しげな顔をするが概ねスルーされる。

 うむ、任務ご苦労。お偉いさんムーブも慣れたものである。


「うわぁ、二郎様ってほんとに偉い方だったんですね」

「何だよ、疑ってたのか?」

「いえ、そんなことはないんですけど、改めてすごいんだな、って」


 流琉があちこちきょろきょろしながら言う。可愛いのう。

 くしゃ、と頭を撫でてやると嬉しそうに目を細め、頬を俺に擦り付けてくる。

 随分と甘えんぼさんになったものだ。まあ、この年頃ならこんなもんか?

 下馬する俺たちに声がかけられる。


「あららー、その子はどうしたんですかー?」


 出迎えてくれたのは、声の主は七乃である。意外や意外。である。


「んー。……拾った」


 七乃の問いに端的に答えて流琉を前に押し出す。一から十まで説明するのもめんどくさいし、説明はシンプルな方がいいよね。


「あ、あの!典韋といいます!

 二郎様にお仕えすることになりました!」


 ぺこり、と頭を下げる流琉。

 七乃はくすり、とほほ笑んで。


「はいはーい、よろしくですね。

 てきとーに頑張ってくださいねー」


 にこにこと笑う七乃。ちら、と俺に流し目を一つ、艶っぽく。が、何か背筋に冷たいものが走った気がする。するのだが……なんで?

 それとも、これ気のせいかな?きっとそうだよね。俺に限ってそんなもんを感じる能力があるわけないし。


「それで、美羽様にも?」

「ん、この足で紹介しとこうと思ってるんだが」


 くすり、と笑みを深める七乃である。ちょっと、思わせぶりすぎて怖いんですけど。


「はいはーい、ではあちらへどうぞー」


 馬車へと七乃の誘導に従う。


「袁術様は俺がお仕えする主だ」

「えっと、二郎様のご主人様ってことですよね」

「そうだな」


 深く頷く。こういう順法意識というのはこの末法の世で貴重なものだと認識する。


「二郎様は私のご主人様だから……。

 ご主人様のご主人様はご主人様も同然!

 ってことですよね?」

「……お、おう」


 間違ってない。

 間違ってないよな?

 まあ、どっちかっていうともっとフランクに仲良くなってくれたらいいなとも思うのだ。同年代だしね。


「二郎、遅かったではないか」

「いや、これでも結構頑張ったんすよ」


 どことなく不機嫌な美羽様である。

 どうしたんだろうね。


「まあ、よい、さっさと馬車に乗るのじゃ」


 そう言って踵を返そうとする。


「あ、美羽様」

「なんじゃ?」

「新しく俺んとこに来た典韋です。

 ごあいさつを、と」


 その言葉に振り返った美羽様はこれまたお機嫌麗しくない。有体に言うとめっちゃ不機嫌オーラがあふれている。あら珍しい。

 どしたんだろね。


「典韋といいます!

 精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

「うむ、努めよ」


 そう言って馬車に歩を進める。


「ん、流琉は烈風の世話を頼むわ」

「はい!分かりました!」


 流琉が手持無沙汰にならんように指示を下して馬車に乗り込む。


「何じゃあの女は」


 そんな俺に美羽様が機嫌の悪そうな声をかけてくる。


「ん、前言った知り合いですよ。

 路頭に困ってたから引き取りました」


 俺の答えに柳眉を逆立てる美羽様である。何故だ。


「何じゃ何じゃ二郎はそんなにあの女が大事か」

「んー、まあ、大事っつうか、ほっとけないというか」

「むー」


 何でこんなに機嫌悪いの?

 七乃の方に目をやると。

 駄目だこりゃ。

 機嫌悪そうな、っつうか悪い美羽様をうっとりと見つめてる。


「まあ、義を見てせざるは勇無きなりっつうことで」

「二郎はいつだってそうじゃ。口ばかり達者じゃ」


 んー。

 なんだかいつもより美羽様ご機嫌斜めである。解せぬ。

 こういう時は一時的接触に限るのだ。

 七乃の膝の上の美羽様を抱え込む。

 七乃に縋り付くのをべり、と引きはがして抱きしめる。こっちを向かせて……こつん、と額を合わせる。


「美羽様、ただいま戻りました」

「……うう、知らん知らん。

 二郎のあほー」


 じたばたと暴れる美羽様を優しく抱きしめてやる。

 ちっちゃい子はとにかく抱きしめるに限る。

 というのは某麗羽様とか斗詩とか猪々子を相手にした上での経験則である。


 つーか七乃もちっとはフォローしてくれよ。

 そんな視線を向けると、にっこりと拒絶してきた。

 楽しそうですね。


「ほんと、二郎さんといると退屈しませんねー」


 それ、褒めてないのは流石にわかるぞ。

 ……解せぬぞ。


 実際世の中不可解なことばかりだなあと思いながら美羽様をわしゃわしゃ、といじくりまわす俺なのであった。

 なお、美羽様のご機嫌が戻るのに四半刻程度かかった模様。


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