研究大好きっ子の日常
お久しぶりです。
もう一つの連載が一段落したので、今後の予定報告や、もう一つの連載(ラジオ化しました)の宣伝を兼ねて短編を一本投稿します。
まずは『悪役令嬢の執事様』で真面目モード続きだった緋色の暴走短編をお楽しみください。
アレンを追い掛けてジェニスの町へやって来たクリスは、用事がないときはいつも研究室に籠もり、魔導具の開発研究をおこなっている。
ちなみに、魔導具というのは魔術を発動させるための道具のことだ。デバイスと呼ばれる魔術具に魔法陣を焼き付け、そこに魔石の魔力を流し込むことで魔術を発動させる。
魔術と比べると融通が利かず、効果や出力を変化させることが出来ない。そういったデメリットはあるが、魔術を使えない者にも手軽に扱えるというメリットも存在する。
ただし、デバイスを作るのには魔術師としては少し畑違いの知識が必要となり、魔法陣を焼き付けるには魔術師としての優れた才能が必要になる。
ゆえに作れる者は限られている魔導具は高価な物がほとんどだ。
ランプの代わりとなるライトの魔導具など、安価に改良されて平民の富裕層に広まった物も中には存在はするが、一般的には貴族の贅沢品とされている。
けれど、アレンは最初から平民向けの魔導具を創って欲しいと言った。
平民の暮らしを豊かにすることは領地を豊かにすることに等しく、つまりは貴族のためになる物だからなにもおかしなことはないと言ってのける。
子供の頃のクリスは、彼の考えを受け入れられないでいた。けれど、アレンの考えを実行してみると、色々な物事が上手く回り始める。
いつしか、クリスはアレンの考えに信頼をおくようになっていった。
そうして、アレンに頼まれるままに、ブラックボアを捕まえる罠を作ったり、川の水を用水路に汲み上げる魔導具を創ったり、棒をひたすらクルクル回す魔導具を創ったり。
ここ最近のクリスは、言葉だけ聞くとよく分からない物をいくつか開発していた。
けれど、彼女は本来優れた魔術師だ。
一風変わった魔導具だけではなく、複雑な理論を必要とする魔導具の開発もおこなっている。先日開発したマルチタスクが可能なデバイスがまさにそれだ。
本来、一つのデバイスに刻める魔法陣は一つだけ。
けれどクリスの開発したデバイスは二つの魔法陣を刻むことが出来る。これにより、起動か停止の二択しか存在しなかった魔導具の出力調整が可能になった。
それでなにを作りたいか、目当ての物があるわけじゃない。作れるものがあるのなら作ってみたい。それがクリスの行動原理である。
ゆえに、クリスは優れた魔術師ではあるが、研究室にはよく分からない物が増えていく。
たとえば旧称マッサージチェア。
いままでの魔導具は起動と停止を手動で切り替えることしか出来なかった。それがマルチタスクで揉むような動作を可能にしたのだが……力加減が一切出来ない。
実験の犠牲になった使用人は、全治一週間の怪我により療養中である。マッサージチェアはその名を拷問器具と代え、部屋の片隅に厳重に保管されている。
換気扇のように研究室で実用化された物もあるが、その多くは役に立たない。基本的には部屋の片隅に保管という名目で封印されている物ばかりである。
だが、そういう失敗がいつか画期的な魔導具を生み出すと信じている。クリスは今日も今日とて、魔導具の開発をおこなっていた。
今日開発しているのは自動で光る魔導具である。一つ目の魔法陣が周囲が暗くなったことを感知して、明かりの魔導具に魔力を注ぎ込む。
それによって、夜になると自動で光る魔導具が完成するはずだった。
だが――
「うぅ……目がチカチカする」
魔導具の魔石を抜き取ったクリスは、両目を押さえてうめき声を上げた。
たしかに、開発した魔導具はクリスの狙い通りに周囲が暗い状況だと光を発した。けれどその光によって魔導具は停止、再び暗くなった瞬間に光るのを繰り返したのだ。
「全然ダメね。空間的に明るさを認識させているから、魔導具の明かりを区別することは出来ないし……これも失敗作かしらねぇ」
そんな風に考えていると、そこへフィオナがやって来た。
「クリスさん、今日も魔導具の開発をしていたのですか?」
「ええ。といっても、今日のはまた失敗作だけどね」
そう言って片付けようとすると、フィオナが興味津々に覗き込んでくる。なので、どういう魔導具を創ろうとして、どんな失敗をしたか打ち明ける。
それで話は終わるはずだったのだが――
「その効果、逆に出来ませんか?」
「……逆って、どういうことかしら?」
「明るい場所に出たら光るようにするんです」
明るい場所で光らせてなんの意味があるのだろうかとクリスは首を傾げた。そんなクリスに、フィオナはお嬢様らしからぬ勢いでググッと詰め寄ってくる。
「実はわたくし、ときどきお忍びで町を出歩いているんです」
「ええ、それは知っているけど……?」
「貴族が着るドレスと違って、平民の着る服はスカートが凄く短かったりするんです。で、スカートが短いと、どうなるか分かりますか?」
「え? ええっと……足がスースーするかしら?」
「下着が見えちゃうんですよっ!」
「あぁ……なるほど」
フィオナさんってこんな性格だったかしら? と、彼女が厳重に猫を被っていることを知らないクリスは首を傾げつつも、下着云々の話を聞いて納得する。
たしかに、クリスも平民の服を見て思ったことがある。あんなに無防備な姿で町を歩いて大丈夫なのかしら――と。
だが同時に、フィオナは先日水着なる超絶無防備な服を用意して、クリスをも巻き込んでアレンに披露している。なのに、なにを気にしているのだろうかと首を傾げた。
「アレン様に自ら望んで見せるのと、その他の殿方に望まず見られるのでは、天と地ほどの違いがあるではありませんか」
「あぁ……それは、まぁ……」
先日、アレンに水着姿を見せたことを思い出し、クリスはほのかに頬を染めた。
「前置きが長くなりましたが、下着がスカートの下から覗いたら、強い光を発して見えなくするような魔導具を創っていただけませんか?」
「ええっと……まぁ、フィオナさんが欲しいと言うなら作るけど」
スカートを捲ると、その下からまばゆい光が溢れ出る。たしかに下着はまぶしくて見えないかも知れないが、それはそれでどうなのだろうかとクリスは首を傾げた。
けれど、アレンの依頼もよく分からない物が多い。
先日の、ひたすら棒をクルクル回す魔導具も、理由を聞けば画期的な道具になることが分かるが、クルクル回る棒とだけ聞いても意味が分からない。
きっと、フィオナの依頼もそう言った類いの物だろうと依頼を引き受けた。
それから数日。
クリスは研究に研究を重ね、フィオナの望むような、スカートがまくれて下着が白日の下に晒されると、まばゆい光を発する魔導具を開発した。
「クリスさん、ありがとうございます。これで下着を気にしなくてすみますわ」
フィオナはそう言って魔導具を装着。
ミニスカート姿の町娘に扮して屋敷を抜け出していった。
その後ろ姿を見送ったクリスは、そもそも町娘に扮して屋敷を抜け出すことを止めるという発想はないのかしらとちょっとだけ思った。
それはともかく……と、クリスはテスト用にと作った魔導具に視線を向ける。
「そういえば、アレンはあたしの水着姿、他の人に見せたくないって言ってたのよね」
それが姉弟における独占欲だとしても悪い気はしない。
水着に魔導具を取り付けることで、弟のささやかな独占欲を満たしてあげられるかも知れないと考えた。クリスは水着に魔導具を取り付けてみる。
それから奥の部屋で水着に着替えて、研究室へと戻ってきた。
大胆な――といっても、クリスの認識では水着はすべからく大胆なのだが、大胆なビキニ姿になったクリスは、クルリと回って自分の姿を確認する。
成長期の彼女は、その美しく開花しつつある肢体を惜しげもなく晒していた。
「これで、魔導具を起動したら水着が光に包まれるはずね」
水着に取り付けた魔導具に指を掛ける。
その瞬間――
「クリス姉さん、ちょっと作って欲しいものがあるんだ」
「――っ!?」
アレンの声に驚き、思わず息を呑んだ。
だが、声をひそめてしまったのは失敗だった。
「あれ、クリス姉さん? ……また、研究に没頭してるのか。まったく、しょうがないな。勝手に入るからな~」
クリスは集中すると周りの音が耳に入らなくなる。それを知っているアレンが返事をしていないにもかかわらず、ガチャリと扉を開けてしまったのだ。
刹那、クリスはとっさに魔導具を起動した。
魔導具は正しく起動して水着が見えなくなるほどの強い光を発する。
「なんだ、クリス姉さん。研究してたんじゃ――って、な、なんて恰好をしてるんだよ!?」
「ち、違うのよ。これはちょっと魔導具の実験をしてるだけで」
「だ、だからって、なんで裸なんだよ!?」
「え、は、裸?」
言われたクリスは姿見に映る自分の姿を見た。
まばゆい光に包まれて見えなくなったビキニ。その他はなにも身に付けていなくて、すらりとした手足を惜しげもなく晒している。
クリスは、素っ裸で光に包まれているようにしか見えなかった。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁああぁぁっ! アレンのえっちいいいいいいいっ!」
その日“も”、屋敷にクリスの悲鳴が響き渡った。
けれど、わりとよくある話だと受け流されたそうだ。
お読み頂きありがとうございます。
*9月末追記。
3章の投稿開始は10月の10~15日くらいを予定しています。
17日に一巻が発売するので、それまでに投稿を開始して、出来るだけ毎日投稿で3章を最後まで投稿する予定です。(その後の予定は不明




