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異世界姉妹と始める領地経営 婚約者が前世の妹で逃げられない  作者: 緋色の雨
第一章

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エピローグ

「フィオナ嬢、体調はどうだ?」


 ウィスタリア伯爵家にある客間。フィオナ嬢が眠る部屋に入った俺は、ベッドサイドに座ってフィオナ嬢のおでこに手を当てて熱を測る。

 まだ少し熱い……けど、最初と比べるとずいぶん顔色が良くなったように見える。


「だいぶ良くなったみたいだけど、もうしばらく安静にしてるんだぞ?」

「うん……ありがとう」


 珍しくしおらしい。……というか、ベッドに横たわっている姿が愛らしい。俺は思わずフィオナ嬢の頬にかかっている髪を指でそっと払う。


「ところで兄さん、今回の顛末はどうなったの?」

「あぁ……今回の顛末な」


 俺は溜息をついた。

 フィオナ嬢を連れ帰った後、父と顛末について色々と交渉をしたのだが、俺はハッキリ言ってあまり納得が行っていない。

 それでも聞きたければ話すけどどうすると問い掛けると、フィオナ嬢はこくりと頷いた。


「……分かった。なら教えるが、フィオナ嬢を襲った連中は厳罰に処されるが、黒幕とおぼしきロイド兄上は、自宅謹慎程度だ」


 ちなみに、襲撃犯はおそらくウォルトが手を回した連中だと思われる。ゆえに、厳罰に処すとは聞いているが、なんだかんだで減刑されるだろう。

 もっとも、ウォルトの手を回した連中であるのなら、フィオナ嬢を脅かすだけで危害を与えないように命令されていたはずなのでそれほど気にする必要はない。


 ……というか、彼らはフィオナ嬢によって、再起不能なレベルでダメージを負わされていたので、もはや無罪でも許せるレベルである。

 フィオナ嬢にはぜひ、過剰防衛という言葉を覚えてもらいたい。


 問題はロイド兄上の方だ。

 あれだけ怪しい発言をしていたのだが、実質的には無罪放免も同然だ。


「ロイド兄上は、俺が返り討ちでボコボコにしたことで、精神的な後遺症に苦しんでるみたいなんで、その行き過ぎた行為と相殺するって言われちゃったんだよな」

「兄さんは、過剰防衛って言葉を覚えた方がいいと思うよ?」

「むぅ……」


 まさかフィオナ嬢に言われるとは……心外だ。


「でも、泣き寝入りしたわけじゃないぞ。父上に抗議して、もし今度なにかあれば、たとえ証拠が不十分でも当主候補から外してもらうとの確約を得た」

「え、どうやってそんなこと了承してもらったの?」

「……まぁ、色々カードを使ってな」


 バームクーヘンの貸し、それに新商品の利権をちらつかせた。でもってダメ押しに、もし確約してくれない場合、身内が襲われたら犯人が誰であろうとロイド兄上を殺すと宣言した。


 むろん、そんなことをしたら俺も無事では済まない――が、お家騒動に加えてウィスタリア伯爵家は次期後継者候補を一度に失うことになる。

 それが嫌ならちゃんと手綱を握れと、父上に脅しを掛けたのだ。


 脅迫じみた手段を咎められる覚悟だったのだが、なぜか父上は嬉しそうで、次に一線を越えることがあれば、証拠不十分でも次期当主候補からロイド兄上を外すと約束してくれた。


 さすがに俺の自作自演でロイド兄上を失脚させることは出来ないと思うが、ロイド兄上が俺の身内に危害を及ぼすことは出来ないだろう。


「もしかして……私のために無理をした?」

「してないよ」

「でも……」

「してないって」


 まだなにか言いたそうなフィオナ嬢の唇に指先を乗せる。

 フィオナ嬢はその指先をパクッと――


「なんで咥えるんだよ!?」

「舐めて欲しいのかなって思って」

「誰がそんなこと言った、どういうプレイだよ」

「これふぁ、指ふぇ――むぐぅ」


 悪い口に指を思いっきり突っ込んでやった。おかげで指が唾液でベタベタになったので、フィオナ嬢の寝間着の脇にこすりつけて拭う。


「酷い!」

「酷いのはおまえの頭の中だ!」


 呆れる俺に対して、フィオナ嬢がしょんぼりと目を伏せた。


「……そこまで落ち込むことか?」

「だって……私のせいで、兄さんは大切なカード、使ったんだよね?」

「なんだ……まだ言ってるのかよ」


 変なことをし出したのは、後ろめたい気持ちの表れか。

 まったく……無理はしてないって言ってるのに。


「あのな、本当に無理はしてないから」

「でも、カードは使ったんだよね?」

「あぁ、使った。色々なカードを使った。でも……そうする価値があると思ったからだ。しかたなく使ったわけじゃない。それくらい分かれ」

「えっと、それって……」


 フィオナ嬢はまばたいて、期待と不安の入り交じった表情を浮かべる。


「そ、そういえばアレン兄さん。私の寝室に長居して良いの? ますます私と深い仲だってみんなに噂されちゃうよ? 取り返し、付かなくなっちゃうよ?」


 掛け布団を被って口元まで隠したフィオナ嬢が問い掛けてくるが、その顔は構わないと言って欲しいと訴えている。

 可愛いなぁ……と、不覚にも思ってしまった。


 それに、フィオナ嬢が大怪我をしたって聞いたとき、心配でたまらなくなった。いまの俺は、こいつが望まぬ相手に嫁ぐことを受け入れられない。


「おまえが自分からどこかへ行きたいって言い出さない限り、手放したりしないから心配するな。気が済むまで俺の側にいればいい」

「それは……私と結婚してくれるってこと?」

「……さぁな」


 俺はやっぱり政略結婚で妹と結婚することには抵抗がある。こいつが自由に生きるためだけなら、ほかにいくらでも方法があると思うのだ。

 でも、もしこいつが政略結婚じゃなくて、俺と結婚したいって言ったのなら……

 

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悪役令嬢の執事様
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