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【3】プロットと本文

 第一回でテーマについてとキャラクターメイキングを、

 第二回で世界観の構築と、資料集めについて、それぞれお話ししました。

 今回は、プロット(あらすじ)と、本文の書き出しについてお話しします。


5.プロットを考える


 物語の展開、プロットの作成です。いわば設計図ですね。

 テーマを伝えるために最適な順序、盛り上がる展開、誰視点の物語なのか……そういったことを考える作業です。

 プロットでも、第二回でお話したキャラクターの感情の揺れ幅設定と同じで、物語全体の起伏などを設定します。


 基本的には時系列に沿った形で並べるのがわかりやすく、伝わりやすいです。

 しかしそうすると、世界観や人物など、ジェットコースターが最初に高いところに登るまでのような退屈な部分も発生しがちです。

「そのワクワク感が楽しいんじゃん!」という通な方もおられるでしょう。ホラー作品などでは、放出前の「ためる」部分が非常に重要ですね。

 つまり作品やジャンルによるということです。


 世界観を見せる、人物を見せる部分をどう書くか? は、書き手が特に頭を悩ませるところです。

 こういった要素は物語の序盤にあることが多いので、読み手の興味をひく内容と合わせて、世界観や人物を書くケースが多いように思います。

 センセーショナルな内容やセリフを序盤に配置する手法もありますね。

 物語の序盤については、次の「6.本文と書き出し」で述べます。



 他にも、一人称・三人称、連作形式など、さまざまな見せ方があります。

 たとえば私の作品『あなたの恨み聞きます〜霊界通信で怨霊にインタビューを試みた〜』……長いので略して『怨霊インタビュー』と呼びます……は、一人称の掌編連作形式にしています。

 主人公がラジオのパーソナリティで、インタビューの形で物語が進んでいくので、一人称です。

 まるでラジオを聴いているように……というのを意識した作品ですが、一人称は、視点人物が見ていないことや聞いていないことは書けません。

 三人称はさまざまな人の視点や全体像、主人公が気づいていないことまで書けますが、その分情報の整理が難しくなります。

 とはいえ、一人称も、誰を視点人物にするかによって、三人称的なアプローチをすることが可能です。全てを見渡す神の視点ですね。

 例としてあげるなら『ちびまるこちゃん』のナレーションでしょうか。


 一人称と三人称、どちらを選ぶかによって、作品の雰囲気は大きく変わります。

 その物語で「主人公の考えを書きたい」のであれば一人称が向いていますし、「出来事を書きたい」のであれば三人称が向いているのではないかなと、個人的には考えています。

 ざっくり言うと「主観と客観」ですが、この辺りは好みにもよります。

 どの視点から、どういった形で物語を見せたいのか──で決めるといいでしょう。



『怨霊インタビュー』を連作形式にしたのは、さまざまな社会問題を書くことができるからです。

 これはテーマとの兼ね合いで決めました。大きなテーマは「共感」、小さなテーマは「社会への問題提起」です。

 この作品は台本に近い構成ですが、これは作品テーマが重いので、軽さを出してバランスをとる目的もあります。うまくいっているかは、わかりませんが(笑)。



6.本文と書き出し


 ようやく本文の作成に入ります。

 ここまでの工程の中で、資料集め以外は、頭の中で行うことも多いです。私は最近、掌編や短編を書くことが多いので、そちらの方が多くなりました。


 物語の序盤を書くのは大変難しいです。

「書き出しで釣り上げる」なんて言いますが、フックになる、気になる、物語全体のキーになる要素、結末につながる要素などが詰まっているのが序盤です。

 私も毎回悩みますし、最適な書き出しは何か? というのは、さまざまな方法論があります。


 映画がはじまるとき、全体像から人物にカメラが寄っていくことが多いですよね。

 私の書いたファンタジー戦記小説『エンドロール・サガ』の序章は、このタイプです。

 ファンタジーなど、想像上の舞台を選んだときに、よく使われる方法ではないかと思います。

 ファンタジー系のアニメなどでも、地図を表示するものがありますよね。


 一方、現代物の小説などでは、衝撃的なセリフやワンシーンからはじまることもあります。

 ミステリーやサスペンスで、まず事件が起こる──というのは、このタイプにあたります。



 小説の冒頭部分を書くときは、何を語り、何を省略するか……といったシビアな取捨選択を迫られがちです。

 以前、元新聞記者の方に文章を教わったことがあるのですが、そのときは「服装や仕草、容姿などでそれとなく性別を伝える」という省略のテクニックを教わりました。

 服装や仕草、化粧、身体つき、セリフの言葉遣い……そういった部分で、「女性」と明言しなくても伝えられる……というものです。


 しかしジェンダーの多様化した昨今では、少し難しくなってきた手法でしょう。

 ロボットやAI、一部の動植物などには、性別自体がないこともあります。

 性別を明言する、性別を伏せて一人の個人として書くなど、さまざまな対応が考えられます。他の登場人物のリアクションといった形でも書けますね。

 テーマや世界観の設定、物語の筋と合わせて、どう書くか? というのはさまざまな方法があるでしょう。


 人間の普遍的な感情を書くのであれば、性別は伏せておいても問題ありません。

 一方で、性別による悩みを書くのであれば、悩んでいる登場人物の性別を明言する必要があります。

 時代物や歴史物であれば、時代背景に合わせて周りが驚いたり、遠巻きに見たりする表現もあるでしょう。

 以前私は、大正時代風SNG『カレイド恋歌』の二次創作小説『彼岸花』の中で男装女子の描写をしましたが「毛色が違う」という表現を使いました。

 状況を表しつつ、かといって差別的な表現でもなく……となると、難易度が跳ね上がるのですが、この「毛色が違う」という表現は気に入っています。



 舞台設定に合わせた語句の選択も、気にしています。

 世界観に合わせて、使用する単語は変わります。

 扉やドアを例にしてみます。

 SF系の世界観なら、カタカナが増えます(笑)。ゲートやテレポートゾーン、トランスポートエリアといった表現になるかもしれません。

 歴史物や時代物では、襖や障子、屏風といった表現になるでしょう。横にスライドするタイプの扉もありますね。

 現代物では、ドアや扉でしょう。

 細かい部分ですが、こういった言葉の選択で、小説全体の雰囲気がまとまります。

 とはいえ、歴史物や時代物にテレポートゾーンがある、『戦国自衛隊』『犬夜叉』『アシガール』みたいなおもしろい作品もありますので、そこは「何を書くか?」によります。



 このように小説の冒頭部分というのは、作者の叡智がギュッと詰まっています。

 残念ながら、どのような名著であっても、本が嗜好品である以上、途中で読むのをやめてしまう人は一定数います。

 できるだけ間口を広くして、物語の世界に入りやすくする……序盤を書くときは、温泉旅館の女将のような気持ちです。

 それでも私はポンコツなので、色々と抜けがあるのですが(笑)。


 その後は概ねプロットに沿って書いていきますが、プロット通りにならないことも、よくあることです。

 登場人物が勝手に動く……ということがありますが、それはそれで、キャラクターが立っているのだろうと理解しています。



 コメディ作品の場合はテンションやテンポ、文章のリズムなどが重要になってきます。

 文章のリズムってどうやって作ればいいの? と思われるかもしれませんが、一文の長さで、リズムを作ることが可能です。

 長い文章の中に、スパッと短めの文章を入れる。

 これは、漫才のツッコミのようなものです。漫才でも、ツッコミは短いことが多いですよね。タカアンドトシの「欧米か!」のように。

 アクションシーンのある作品でも、緊迫感を作るために使えるテクニックです。

 このリズムは緩急によって生まれるものですから、ずっと短文ばかりでも、飽きられてしまいます。



 また、誰のセリフか、読み手にわかりづらくならないようにすることも大切です。

 どちらのセリフかを敢えてぼかす作品もありますが、基本的には誰のセリフかわかる方が、引っかかりがありません。

「にょ」などの特徴的な語尾を使用するのは、こういった問題への対策の一つでしょう。

 私の書いた昭和レトロ風ラブコメ小説『吾妻男に鏡女』では、主人公を江戸っ子、ヒロインの鏡子を神戸っ子にして、方言でセリフの書き分けを行っています。

 方言によるセリフの区別化は、ラノベなどでもよく使われる手法ですね。

 キャラクターメイキングが上手い書き手はセリフの書き分けも上手く、「誰のセリフかわからなくなる問題」をさまざまな方法で回避します。


 一方で方言使用については、セリフの意味がわからなくなってしまうと、本末転倒になってしまいます。

 ちょうどいい塩梅まで方言を一般的なセリフに寄せるか、説明を加えるか──そんな対応が考えられます。

 たとえば、坂本龍馬が近江屋で暗殺される直前のシーンを例にあげます。


<例文>

「ほたえな!」


 階段を駆け上がる暗殺者の足音に、龍馬は声を荒げた。

--


「ほたえな」は土佐弁で「騒ぐな」という意味だそうですが、これだと方言を知らない人には、意味がわかりません。


<例文>

「ほたえな!」


 階段を駆け上がる暗殺者の足音に、龍馬は騒ぐなと声を荒げた。

--


「騒ぐなと」を追加しただけですが、これだと方言がわからなくても、意味が伝わりますよね。



 同様に、時代物や歴史物だと、時代設定にあった独特の言い回しもあります。

 しかし特有の言い回しに馴染みがある人ばかりではありません。

 たとえば「重畳」「業腹」「莞爾」……ぱっと見て、意味がわからない人もいるでしょう。現代風にするなら「結構」「立腹」「にっこり」辺りでしょうか。


 知らない言葉を調べる楽しみもあるので、私はそのまま使う方が好きです。雰囲気も出ます。

 しかし方言にしても、時代設定に合わせた言い回しにしても「どの表現を選ぶのか?」「どれが読みやすく、伝わりやすいのか?」という悩みは必ず出てきます。

 細かい部分ですが、こういった点は、それぞれの作者のチョイスがよく見えるところです。



>続きは翌日に更新します

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