初陣ー1
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XX年前。
人類が繁栄を続ける一方、地球環境の破壊と汚染が深刻化し、植物や野生動物の減少、頻繁に異常気象が起き、地球が疲弊していった。
人類は、それを問題視しつつも皆が真剣に向き合うことはなく、己の欲を優先し、繁栄を求め続けた。
自身の欲望を優先するばかりの人類に罰を下す者たちが現れる。
ある日、突如として4体の巨大地球外生命体が地球上に襲来した。
彼らは、複数の異なる生物が融合した形状を持ち、まるで特撮映画などに登場する『怪獣』だ。
4体の巨大地球外生命体は、強大な力であらゆる天変地異を引き起こし、世界に厄災を齎した。
人類は、持てる全ての戦力を結集し、巨大地球外生命体に立ち向かうも敗北し、たった2日で人類の約半分が滅ぼされた。
史上最悪の被害を齎した4体の巨大地球外生命体は、人類の約半分を滅ぼしたその日に忽然と姿を消した。
悪夢は過ぎ去ったと思われた数日後、世界各地の海底に別次元世界へ通じるとされている裂け目、通称『異空間の狭間』が出現する。
異空間の狭間を通り道に幾度となく様々な個体の巨大地球外生命体が地球上に出現し、疲弊した人類を追い詰めていった。
無慈悲に人類を境地に追い込み、人類の住処を奪っていく様から人類は、彼ら巨大地球外生命体を『侵略者』と呼称した。
人類共通の天敵である侵略者に対抗するため、各国は手を取り合い、国連を再編し、人類を守護する組織『ガルディアン』が誕生する。
極東に本部を構えたガルディアンは、各地にある異空間の狭間から出現する侵略者に対応するため、各地に支部を配置し、そこを中心にガルディアン管轄の領土を開拓した。
また、度重なる侵略者の襲来から人々を守るため、領土周辺を囲むように武装搭載型防護壁を建造し、その内部に生活圏を築き上げた。
しかし、武装搭載型防護壁だけでは侵略者を完全には退けられず、対策として不十分だった。
ガルディアンは、侵略者を処刑するため、有人操縦式人型戦闘兵器『エグゼキュシオン』を開発する。
エグゼキュシオンは、人間と同等の繊細な関節可動域を持ち、パイロットの技量に左右される部分はあるが、侵略者に対抗できる戦闘力を持つ。
エグゼキュシオンを実戦投入した人類は、ようやく侵略者に勝利できた。
これで人類側が優位に立ったと思われたが、それは一時的なものでしかなかった。
何故なら、襲来する度に侵略者は学習を重ね、戦闘力を飛躍的に高めていくからだ。
人類は、エグゼキュシオンを以ってしても侵略者が襲来する度、絶滅へ近づいていく。
*
多大な犠牲の上に成り立つ現在。
昔、侵略者に滅ぼされ、朽ち果てた都市から少し離れた平地に聳え立つ錆びついた武装搭載型防護壁。
それに包囲された領土の中心にガルディアン第3支部基地がある。
基地の外観は、機械化された工場のようであり、お世辞にも立派とは言えない。
また、ガルディアン第3支部の戦力は、度重なる侵略者の襲来を受け、戦力の大半を失い、今では僅かな戦力しか残っていない。
ガルディアン第3支部基地に限らず、ガルディアン全体の戦力は、年々減少の一途を辿っている。
侵略者の成長速度が速く、地球に襲来する度に脅威が増しているからだ。
それに加え、パイロットの志願率も年々減少していることも原因として挙げられる。
自らの命を危険に晒してまで世界や他者のため、戦おうとする者たちが減少している証拠だ。
比較的安全な領土内で暮らす人々は、命をかけて侵略者と戦っている者がいることを忘れ、他人任せになっている部分があるのだろう。
ガルディアンが抱えてる問題はそれだけでなく、領土や食料不足などを巡り、ガルディアン内での衝突が絶えない。
そんな現状から人類は、自然消滅するのではないかという悲観的思考を持つ者たちまでいる。
「これで最後っと」
雑に廃棄物が詰め込まれた段ボールを両手で持ち、屋外の廃棄場へ運び終える少年。
上空から侵略者に襲撃されるのを防ぐため、特殊コーティングで耐久度を底上げした強化ガラスの天井が定期的な換気のために開く。
領土全体に僅かに冷たさが残る春風が入り込み、少年の紫色の髪を揺らす。
少年の名前は、ポストル・ペアレント。
彼は、侵略者に両親を奪われた悲惨な過去を持つ。
昔、ポストルは、両親と共にガルディアンのとある支部が管轄していた領土で貧しくも平穏な日々を送っていた。
彼が4歳の頃、異空間の狭間から侵略者が襲来し、ポストルたちが住む領土に向け、移動を開始した。
侵略者を討伐するため、ガルディアンは、エグゼキュシオンを複数機出撃させた。
この時、誰しもがいつものようにエグゼキュシオンが侵略者を倒してくれると思っていただろう。
しかし、出撃したエグゼキュシオン部隊は、侵略者に敗北した。
侵略者は、武装搭載型防護壁を破壊し、ポストルたちが住む領土へ侵入すると逃げ惑う人々を無慈悲に襲った。
侵略者に踏み潰された者や食い殺された者、倒壊した瓦礫の下敷きになった者など平穏が一瞬で崩れ去った。
血の匂いと建物の焼ける匂いが入り混じり、地獄と化した領土内で侵略者は、情け容赦なく人々を蹂躙する。
当時、幼かったポストルは、父親に抱き抱えられ、父親や母親とシェルターを目指した。
今でもポストルは、この時の息が詰まるような恐怖、それを駆り立てる地獄の光景を鮮明に覚えている。
いや、幼い子どもには衝撃的過ぎたため、印象深く脳に焼き付いてしまったと言うべきだ。
炎が燃え盛る中を全速力で走り、荒く小刻みな父親の呼吸や心拍数までも鮮明に思い出せる。
幼い我が子を力強く抱き締める父親、その後ろに続く母親の顔は、灰や砂埃で煤けていた。
それでも目の前の瓦礫や炎を避け、領土内に常備されたシェルターへ急ぐ。
シェルターに逃げ込んだとしても確実に助かる保証はないが、領土内で逃げ回るよりは安全だ。
しかし、侵略者は、それを許さなかった。
シェルターへ向かう姿を目撃した侵略者は、建物を軽々と破壊し、ポストルたち3人を狙って突き進んできたのだ。
父親の肩からその姿を覗き見ていたポストルは、恐怖で全身の筋肉が強張り、息をするのも忘れ、目を見開いたまま唖然となる。
ポストルに限らず、得体の知れない巨大な生き物が、自分を執拗に追いかけてきたら誰しも恐怖を抱くだろう。
このままでは侵略者に追いつかれると咄嗟に察した父親は、ポストルだけでも逃すため、抱きしめていたポストルをできるだけ遠くに投げ飛ばした。
投げ飛ばされたポストルは、コンクリートの地面を数回転がり、その影響で全身に鋭い痛みが走った。
痛みに顔を歪め、両親がいる方向へポストルが顔を向けた時には侵略者の巨大な手が、両親を掴んでいた。
死の恐怖から両親が悲鳴を上げ、涙や鼻水で顔を汚しても侵略者は無慈悲に巨大な口部を広げる。
そして、躊躇いなく頭から胴体にかけて噛み砕き、口の隙間から血液と侵略者の唾液が混ざり合った液体を滴り落とす。
泣き叫んでいたポストルも目の前で両親を失ったショックと恐怖で思考が停止し、瞳から光が消え失せた。
身動きできないポストルを見た侵略者は、彼を次の標的に定める。
そこに1機のエグゼキュシオンが現れ、侵略者をマニピュレーターで押さえ込んだ。
そのエグゼキュシオンは、侵略者と激しい戦闘を繰り広げ、最終的に侵略者を討伐した。
エグゼキュシオンを操縦していたのは、とある女性パイロットであり、身寄りのないポストルを自身の息子として引き取った。
その後、13歳になったポストルは、侵略者への復讐心と他の人に自分と同じ悲しみや恐怖を負わせないため、エグゼキュシオンのパイロットに志願した。
義母である女性パイロットから反対されたが、それを強引に押し切り、パイロットの試験に挑んだ。
結果、平均値よりやや低いが、パイロットの適性があると判断され、彼は訓練兵としてガルディアンに入隊。
それから2年に渡る過酷な訓練を乗り越え、1週間前に訓練兵を卒業し、新兵としてエグゼキュシオンのパイロットになった。




