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凄惨な展開など認めない

前半視点:リアナ

後半視点:ミカゲ

 わたし達は、森で薬草を見つけて一息ついていた。入り口付近で探せば見つかるだろうと思ったのに、全然なくて、結局奥の方まで探す羽目になっちゃった。


「意外と奥の方にあったね~。はぁ……もうヘトヘトだよ」

「カリンちゃんめっちゃつかれて――あ、お疲れになられていますね」

「アタシの弓を使う活躍の場がなかった……」


 クエストを達成して気が緩んだのもあってか、三人で駄弁(だべ)りながらウィンゲイトの街へと戻っていく。


 しかし、二人と楽しく話している最中、大きな音が鳴り地面が揺れた。


「な、なにこの振動」

「地面が揺れて……地震?」


 カリンちゃんとレイちゃんは、辺りを見渡しながら警戒態勢に入る。

 一方、大きな音と揺れに対してわたしはある事に気づいてしまう。


「ね、ねぇ二人とも。これ、ひょっとして足音なんじゃ……」


 わたしの言葉で二人も気づく。大きな音が鳴っているときだけ地面が揺れていることに。不安になったわたし達は全員が同じ結論を出した。


 "何かヤバいモノが来る、早く逃げないと"


 だけど、()()は既に近くまで来ていたのだ。

 後ろにあった木が凄い音と共に真っ二つに倒され、わたし達は振り返ってしまう。


 そして――()()と出会ってしまった。


 全身が真っ赤で鬼のような顔をした巨人。その口元は、何かの血で濡れていた。ソレは明らかに、わたし達の手に負えるような相手には見えなかった。


「ひっ! なんなのよあれ!?」

「ゆ、弓……弓でいまけ、け、けけ牽制するからっ!」


 カリンちゃんは恐怖を宿した顔で叫び、レイちゃんは弓を引こうとしてるけど恐怖から上手く引けず矢をポロポロと落とす。そしてわたしは、完全に硬直していた。


「グオオオオオオオオオオ!!」


 凄まじい雄たけびを上げた巨人が、こちらに向かって突進してくる。


「う、うわああああああっ!」

「ひぃいいいいいいい!」

「ふ、二人とも! 早く逃げないと!!」


 パニックとなったわたし達は、そのまま全力で逃げた。


「ふたりとも、ちょ、ちょっと待って……! この服走りにくくて」


 だけど、慣れない神官服を着ていた所為で上手く走れないわたしは――


「きゃあっ!」


 途中で転んでしまい――


「リアナッ!」

「だめ、カリン! リアナはもう間に合わない……このまま逃げよう」

「なっ!? なに言ってんのよレイ! リアナを見捨てろって言うの!?」

「このままじゃみんな死ぬ。……分かってるでしょカリン?」

「だ、だけど……」


 え……二人共……何の話をしてるの? なんの相談、してるの?


「カリンちゃん……レイちゃん……助けてよぉ!」


 うつ伏せになるような格好で転んだわたしは、二人に向かって手を伸ばした――けど。


「ごめん、リアナ……アタシ、まだ死にたくない。だから、代わりに死んで」

「……ごめんね。ウチらの事、恨んでもいいから」


 伸ばした手を掴んでくれる事は無く、そう言って二人は逃げてしまった。


 わたしを置いて。


「ま、待ってよぉ! 置いて行かないで!? 二人共まっ――」

「グオオオオオオオオ」

「ひっ!」


 至近距離から低い唸り声が響く。

 巨人はすぐ後ろに、来ていた。


 ああ、わたし……ここで死んじゃうんだ。





 ***





 『瞬歩』のスキルで森まで到着した私は、リアナちゃん達を探す。

 薬草採取なら森の入り口辺りにいるはずなのに、一向に見つからなかった。


「くっ、一体どこにいるんだ……早く見つけないとやばいってのに!」


 苛立ちからか、言葉遣いも自然と荒れてしまう。

 それほどまでに私は焦っていた。


 もしも――彼女達がもう襲われていたら。

 既に手遅れだとしたら……そんな最悪な想像が頭をよぎるも、すぐにその考えを振り払う。探しながらも焦燥感に駆られていると。


『グオオオオオオオオオオ!!』


 森の奥から、大きな雄たけびが聞えて来た。

 今の唸り声……間違いなくオーガだ!


 私は再度『瞬歩』を発動し、奥へと急いで移動する。


 高速で進んでいると、リアナちゃんと一緒に居た女の子二人が息を切らせながら正面から走ってくる姿が見えた。止まって話を聞こうとした私だったが、丁度二人とすれ違う瞬間――


「う、うう……ごめんリアナぁ」

「カリン、泣くのは後にしてよ! 奴がリアナを食べてる間にもっと距離を稼がないと」


 その会話を聞いた私は、そのまま止まらずスピードを上げ彼女達が走って来た方向へと急ぐ。


(リアナちゃん……無事でいてくれ!)


 しばらく進むと、すぐにリアナちゃんを発見した。



 ――リアナちゃんと、彼女の身体を巨大な右手で掴み締め上げているオーガの姿を。


 気絶しているのか彼女は何の反応も示さなかった。彼女を握りしめているオーガの口元には涎が流れており、顔は愉悦の表情となっている。今からジワジワと恐怖を与え食べてやると言った表情だった。


 その光景を見た私は――猛烈な怒りに襲われた。

 だから、そのままの速度でオーガの傍まで近寄り、奴の右腕目掛けて刀を一閃するのに何の躊躇もなかった。


「グガ……?」


 いきなり現れた私が不思議だったのか、リアナちゃんを握りしめたまま私の方を見て首を傾げるオーガ。だが、奴はまだ気づいていないようだ。


 ――己の右腕に切れ目が走り、二の腕から先が既に切断されている事に。


 奴の腕が落下し始めたので、私は素早く刀を仕舞いリアナちゃんを奴の手から抱きかかえて助け出す。良かった……命に別状はないようだ。


「アガ――グガアアアアアアアアアッ!!!」


 今頃、腕を斬られた痛みに襲われたのかオーガの絶叫が響き渡る。

 血走った目で私を睨むその姿は、まさに悪鬼というに相応しいと言えるだろう。


 だがな――怒っているのは何もお前だけじゃないんだ。

 私の運命の美少女をこんなにも怖がらせ、嬲った。


 許せるはずがない。


「オーガ……お前は、手を出してはいけない人に手を出した」


 そう、未来の私の彼女に――そしていずれは私の奥さんとなる予定の、こんなにも可愛い美少女を殺して喰らおうとしたこいつだけは……。


「お前だけは――絶対に許さん!」

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 凄まじい雄たけびと戦意を放ち、オーガがこちらを殺すべくその巨体を生かして突っ込んでくる。まともにぶつかれば、この小さな身体などひとたまりもないだろう。


 私は旅の際、父から譲り受けた名刀――圧切長谷部(へしきりはせべ)を再び腰から抜き、上段構えにて迎え撃つ。どっかで聞いたような名前の刀だが、別に本当の名前というわけではない。


 貰い受けたこの刀は名刀ではあるが名無しだったため、私の好きな映画に出ていた刀の名前から取らせてもらったのだ! うん、今の切迫した状況でこんな事を考えている場合ではないのは分かってるよ。




 まあ――この程度の魔物になら、負ける気はしないけどね。



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