力を示せ
視点:ミカゲ
私は今、人生でもっとも重大な話を聞かされている‼
トウヤから説明を受けたのは、聖女と勇者についての重要性だ。
2人が魔王討伐の旅に出なければ、世界は魔王の手に落ちてしまうらしい。
スケールが急にデカくなり過ぎて、正直現実味がまるでない。
それはともかく、真摯な彼の態度に危険は無いと判断した私は後ろに匿っていたリアナちゃんをトウヤに会わせた。
すると、2人はしばしお互いを見つめ合った後。
「初めまして、だね。後ろで聞いてたかも知れないけど、改めて。僕は神崎凍也と言います」
「あっ、初めまして……リアナ、です」
「リアナちゃんか。うん、良い名前だね」
ニコッとイケメンスマイルをリアナちゃんに向けたトウヤに、私は抑えきれない殺意に襲われた。いや、殺意と言うか、みっともない嫉妬というか。
(何が良い名前だね、だよ!……落とす気だな? お前やっぱり、私のリアナちゃんを落とす気なんだろ!? このクソ寝取りヤリチンクズ勇者がッ!!)
幸い、私は表情筋が殆ど動かない岩女だったので、この醜い嫉妬がトウヤとリアナちゃんにバレる心配はなかったのだが、イケメンに言い寄られて赤くなるリアナちゃんを見て気絶しそうなくらいショックを受けていた。
「あの、そんなこと、言われたの初めて……です」
「そんな畏まらなくてもいいよ。君は聖女で、僕は勇者……共に魔王を倒す使命を持った仲間なんだ。できればもっとフランクな態度で接してくれるとありがたいかな」
「だけど……わたし達、会ったばかりなので……」
「そうだね。でも、これからお互いを知っていけば良いんじゃないのかな?」
あーダメだ。2人の会話を聞いてるだけで精神がゴリゴリと削られていく。
この光景は、間男と徐々に打ち解けていく恋人の姿を見るのと何が違うというのだろうか?
「……トウヤ。あまり馴れ馴れしくリアナさんに接するな。彼女は、色々あって疲れているんだ」
トウヤが主人公の物語なら、何か無愛想なクソ女が2人の仲を邪魔してるシーンになるんだろうなと、心のどこかで思いながら私は冷たい声で2人の間に割って入った。
何だか悲しくなってきた。
これがイケメンの力なのか。これが、勇者という主人公の影響力なのか。
私がリアナちゃんと普通に会話するまで、どれだけ苦労したと思っているんだこいつは。それを、少し目を合わせただけでいともたやすく達成しやがって……。
「き、貴様! 勇者様と聖女様の愛しの会合を邪魔するなど! 恥を……」
「――黙れ」
「ひっ!」
後ろで喚いている大神官様が不穏なことを言ったので、つい殺気に満ちた目で睨みつけてしまった。ああ……嫌な奴とは言え、こんな形で八つ当たりをしてしまうなんて。
私こそ、一番嫌な奴なのではないだろうか? でも、ひとつだけ言わせてもらうが、愛しの会合ではないだろ。大体リアナちゃんは今しがた会った男に惚れてしまうような軽い女の子じゃないんだから、失礼な事は言わないで欲しいよ、全く!
「ごめん、確かに気安く接しすぎたね。許して欲しい」
「い、いえ‼ 勇者様が気を遣って仰ってくれたのは分かっています、から」
ああ、何故リアナちゃんがトウヤと会話するたびに、こんなに心が痛むのか。
というか、私越しで話さないでくれ‼
無視されてるみたいで、滅茶苦茶つらいから!!!
「……ミカゲさん」
「なんだ」
私越しにリアナちゃんに微笑んでいたトウヤが突然真剣な表情でこちらに話しかけて来たので、めちゃくちゃ素っ気なく返事してやった。
ついでに言わせてもらうと、トウヤの微笑みがリアナちゃんに届かないように全力でブロックした。
ここに来て、自分のみっともなさが頂点に達するのを感じてしまうね。
「聖女リアナは、必ず僕が護ってみせます」
なんだろう、告白かな? トウヤ君は私に喧嘩でも売っているのだろうか。
「今まで彼女を護ってきたミカゲさんが、危惧する気持は分かります。魔王討伐の旅は確かに危険だし、命を落とす可能性もあると思う……」
私が一番心配してるのはトウヤとリアナちゃんが2人きりで一緒に旅をするという部分なんだが。
危険伴う旅に、イケメン勇者と2人きり。
命の危機を救ってくれるイケメンと、それを潤んだ目で見つめる美少女。
そんな2人に、何も起こらない筈がなく……。
やがて、絆されたリアナちゃんは……トウヤと……。
…………。
「でも、僕は命を懸けて彼女を護る覚悟だ‼ そして魔王を倒し、必ずこの世界に平和を取り戻して見せます‼ だから、ミカゲさん。どうか彼女を僕に託して――」
「断る」
「なっ……」
あ、つい秒で断ってしまった。
最速で世界を救う邪魔をしてしまうなんて、参ったね。
「剣を抜け」
「……ミカゲさん、貴女は一体何を!?」
もう自分でも何をしてるのか分からないが、いつの間にか私は刀を抜いてトウヤへと向けていた。どんだけ嫉妬してんだよと、自分に突っ込みたくなるが、この感情を抑えることは出来ない。
こうなったら、なるようになれだ。
「勇者トウヤ――リアナさんを連れて行きたければ、私を倒してみせろ‼」
「――!?」
私は、半ばやけくそな気持ちで勇者に決闘を申し込んだ。




