ずっと傍に居させて
視点:リアナ
「リアナさん――私とパーティを組まないか」
……聞き間違いかと、思いました。
だってミカゲさんはA級と呼ばれる凄い冒険者なのに対し、わたしはD級の初心者に等しい存在でした。そんなわたしとパーティを組んでも、彼女には何のメリットもありません。
確かに、ミカゲさんから離れたくないと言いました。
カリンちゃんとレイちゃんから見捨てられ、村にも帰れなくなったわたしに手を差し伸べてくれた優しい人。この温もりを手放したくない余り、色々とわがままな事をしてしまったと思います。
でも、こんな風に困らせたいと思ったわけではありません。
「あの、だけどわたし……D級で、凄く弱くて」
「気にする必要はない。大丈夫だ、リアナさんは必ず私が護るから」
「そんなの! ミカゲさんに迷惑を掛けるだけじゃないですか!」
もしも、わたしの言葉が原因で彼女がこういう提案をして来たのだとしたら……わたしは、とんだ疫病神という事になってしまいます。
足手まといにもかかわらずミカゲさんに駄々をこねて付き纏い、挙句に彼女の命まで危険に晒そうとしているのですから……本当に酷い女。
孤独になり掛けていたわたしに手を差し伸べてくれた彼女に対して、恩を仇で返すような事をするくらいなら。
そんな事をしてしまう位なら、わたしは……。
「迷惑、なんかじゃないよ」
下を向きそんな風に思い詰めていると、穏やかな声が聞えて来ました。
顔を上げるとそこには――普段の鋭い目つきが消え、優しい表情となったミカゲさんがわたしを見つめていました。
「これは、私自身の望みでもあるんだ」
「ミカゲさんの、望み?」
「実は、私もなんだ。リアナさんとずっと一緒に居たいと思っていた。貴女が傍に居るだけで、心が温かく幸せになるから」
「ミ、ミカゲさん……」
「だからこそ、一緒にパーティを組んで欲しいと思った。だって、私も――リアナさんと離れたくないから! ……貴女と、片時も離れたくないんだよ‼」
いつも感情を出さないミカゲさんがそう叫んで、わたしを抱き締めたんです。最近はわたしの方から抱き付く事が多かったけど、彼女の方から抱き締めてくれたのは――酷い男の人達から助けてくれたあの時以来の事でした。
心の籠った抱擁、ミカゲさんの優しい匂いがわたしの身体中に広がります。
包み込まれている安心感からか、それとも同じ気持ちだったことを確認出来て嬉しかったのか自分でも分かりませんが、自然と涙が零れてしまいました。
止まらない程に零れる大量の涙は、きっと嬉しさと幸せの大きさ。
一緒に居たいと……わたしと居ると、幸せだと言ってくれた彼女の言葉が嬉しかった。嬉しかったんです……!
ホントは、迷惑じゃないかと心のどこかで常に思っていました。
こんな女から擦り寄られて、うんざりしているんじゃないかと不安だった。
でも、それは間違いでした。
ミカゲさんはわたしの事を、まるで家族のように大切に想ってくれていたんです。
もし、わたしにお姉ちゃんが居たら……きっとこんな感じなのでしょう。
ミカゲさん、わたしも離れたくないです。
あなたの温もりを、ずっと感じていたい。
もう、一人なんかに戻りたくない。
だから、甘える事にしたんです。
「一緒に、行きたいです」
あなたと、同じ景色を見たいから。
「何も出来ないかもしれません。役に立たないかも知れない。でも、一生懸命頑張ります! だから、ミカゲさん」
もっと同じ時間を、一緒に過ごしたいから。
「この手を、離さないで……ずっと傍に居させて下さい」
なにより――あなたが好きだから。




