迫りくる少女
視点:ミカゲ
ちょっと、この状況は不味いんじゃないだろうか。
リアナちゃんから抱き付かれながら、街中を歩いた所為で発生した変な汗を洗い流そうと思ったら付いて来たんですが……。
これじゃあ、汗を流すどころの話ではなくなってしまう。
いや、見たくないのかと聞かれれば――見たいよ?
見たいけどさ……さすがにダメだろう。
そりゃ、今の姿なら一緒に入っても問題ないとは思う。
性別じゃなくて心の問題なんだよッ‼
だって一緒に入ったら、リアナちゃんと裸のお付き合いをしたあげくに……洗いっこイベントとか発生したりするんだろう? 無理だって、今の私では到底経験が足りない。
「本当にすまないが、やはり風呂は一人で入りたい。それに、このような貧相な身体を人に見せるのはちょっと……」
「ミカゲさんって、案外恥ずかしがり屋さんなんですね。でも大丈夫です……ミカゲさんは凄く魅力的で、とっても綺麗ですから♪」
褒めてくれるのは嬉しいけど、そうじゃない。
というか、何なんだその口説き文句は。私より才能あるぞッ!
それにしても、カッコいいとか男らしいならともかく、綺麗などと言われてもどう反応すれば良いのか分からない。褒められているから喜べばいいのだろうか。
礼を言うべきかどうか私が考えていたら――――突然、リアナちゃんが自身の神官服に手をかけ、脱ごうとしてきた。
「リ、リアナさん!? 一体何を……!」
「わたしの身体を最初に見れば、ミカゲさんも自信付くかなと思いまして。ほら、わたしってミカゲさんほどスタイル良くないですから」
いやいやいや、やめてください死んでしまいます。
自分では気づいてないかも知れないけど、その胸部装甲は殺傷力充分な破壊力がありますよ。うっすら見える白い肌も、大変艶めかしく――ハッ!? 何を言ってるんだ私は!!
「そんなことはない‼ 貴女は、自分の魅力をあまりにも軽視しすぎなんだ。私なんかよりもよほど、その……」
「ふふっ、ありがとうございます。やっぱり、ミカゲさんは優しいですね」
何か良い雰囲気になったけど、服を脱ぐ手を止めてくれない。
たすけて、何か犯罪者になった気分なんですが。
「と、とにかく……服を……いや! むしろ、リアナさんの方から先に風呂に入るといい‼ 私はその間、昼食の準備でも――」
名案とばかりに、彼女に背を向け私はその場から退避しようとした。
「いっ、嫌ッ! ミカゲさん! わたしを一人にしないで下さい……!」
しかし、私の背中に抱き付くリアナちゃんの攻撃により、動きを止められてしまう。ただの抱き付きじゃない……背中に当たるこの感触は。
(こ、こいつ、違うぞ。貧乳なんかと感触もパワーも)
「何言ってんだお前」と言われるかもしれないが、本当にやばい。
服越しとはいえ、露骨に当てるのは卑怯すぎるでしょ。
『血流操作』の回数はとうに100回を超えている。
この回数は、A級冒険者パーティに居た頃に戦った最悪と呼ばれた、破滅級悪魔に匹敵するほどだ。
いや、アレよりも酷い。だって勝てる気がしないのだから。
今――この感触を受け入れてしまったら、確実に終わりだ。
「リ、アナさん」
「お願いします……心も、身体も……寂しいんです」
「どこにも行かないから、一旦離れて」
「ミカゲさん、ミカゲさん、ミカゲさん……‼」
ああああああああ! 誰か助けてくれええええええ!!
このままじゃ、出血多量で死んでしまう。




