幻想の親友
視点:リアナ
「も、もうレイちゃん! 冗談にしては笑えないよぉ」
「冗談? 今のはアタシの本心なんだけど」
「……な、なんで!? わたし、レイちゃん達に何か悪い事しちゃった? それなら謝ります! 謝るからそんな事言わないでよ! ごめっ、ごめんなさいレイちゃん、ごめんなさいカリンちゃん!」
冷たい表情で、わたしを見つめてくるレイちゃんに必死に謝ります。
小さな頃から一緒だった親友から嫌われるなんて、耐えられませんでした。
けれど、何度謝っても温かい言葉が返ってくることはありません。
一緒に居たカリンちゃんも、ただ悲しげな目でこちらを見て来るだけでした。
「そのウザい謝罪、そろそろやめてくれない? 反吐が出るんだけど」
「レイちゃん……」
「レイ、ちょっと言いすぎじゃ」
「なによ、カリン。あんただって思ってた事じゃない。コイツにアタシ達がどれだけ苦しめられてきたか忘れたの?」
「…………」
待ってよ、二人共。わたしが、何したの?
二人を苦しめたりなんてしてない。大切な親友だもん、そんな事するはずないよ。
「おねがい、理由を話してよぉ。わたし、二人に何をしたの?」
「黙ってよ」
「お願いします。レイちゃん……悪いところがあるなら直すから」
「だったら、死んでよ。アンタの存在自体が迷惑なのよ」
「そんな……なんで……? わたし達、親友だよね……?」
縋るようなわたしの言葉にも、何の反応も示してくれませんでした。
わたしの頭の中はもう、訳が分からなくなります。
オーガに襲われて別れる前までは、二人はわたしに笑いかけてくれたり、軽い冗談などを言って雑談を楽しんでいたんです。再会した途端にこんな態度を取られるなんて、想像も出来ませんでした。
いくら考えても、答えの出ないわたしに、レイちゃんは決定的な一言を投げかけます。
「アンタを、親友だなんて思った事……一度だってないわよ」
「えっ……?」
あまりの発言にショックを受けて、固まってしまいました。
わたしの様子を見たレイちゃんは溜息を付いた後に、言葉を続けます。
「村に居た頃から、アンタとアタシ達はずっと一緒に居たわよね」
「う、うん。だってわたし達は、仲良しで」
「アンタはいつも真ん中で、アタシ達二人は……まるで取り巻きのように左右にいただけ」
レイちゃんが何を言いたいのか、さっぱりわからなかった。
確かに小さな頃から、わたしは二人に挟まれるような形で一緒に居たかもしれない。
でも、それがどうしたというの?
それは仲が良かっただけで……一緒に居るのが、悪い事なの?
「アンタは昔から可愛くて、輝いていて、村中のみんなから好かれていて……誰もがアンタの事を褒めていたわ」
「レイちゃん、それはレイちゃん達も同じじゃ――」
「同じじゃないわよッ!! アンタに引っ付いてるアタシ達が、村の奴らからなんて言われてたか分かる!?」
――リアナちゃんはあんなに素敵な子なのに、傍にいる子達はいまいちよね。
――釣り合ってない子達に擦り寄られて、リアナちゃんも良い迷惑だなぁ。
――よぉ、金魚の糞! 早く主人のところに戻れよ!
レイちゃんが次々という言葉に、わたしは信じられなかった。
優しかった村の人達が、そんな陰口を言っていたなんて想像もできなかったんです。
「アンタと一緒に居る度に、比べられてた気持ちがわかる? アンタが一緒に居るだけで、アタシは一人の女の子として見られなかった‼」
「わたし、そんなの知らなくて……」
「何度も距離を取ろうとしたのに、アンタはいつまでもアタシに付き纏ってきて……! 断ろうとすると、何様だの何だの、みんなアタシの所為‼」
「レイちゃん……」
「村に、好きなッ……男の子だって、いたのに! 勇気を振り絞って、告白までしたのにッ」
――あの、アタシ……ずっとあなたの事が好きだったの!
――ごめん、俺好きなのリアナだから。リアナの付属品にはきょーみねぇわ。
「アンタと一緒に居たら、アタシは幸せになれない。だから、カリンと一緒に村を飛び出して冒険者になろうと思った。……なのに、アンタは付いてきたッ‼ 村のクソ共から、チヤホヤされてれば良かったのに付いて来たんだ‼」
「で、でも! 二人共喜んでくれて」
「喜ぶはずないでしょ? アンタみたいな疫病神、ホントは嫌で嫌で仕方なかったわよ」
心底嫌そうな顔で、レイちゃんは吐き捨てるようにわたしに言った。
その表情が物語っていた。わたしは、本当に嫌われていたのだと。
「じゃあどうして!? どうして、わたしを仲間に入れてくれたの!?」
「復讐、してやろうと思ったの。機会を得たら、アンタを殺してやるつもりだった」
「そんな……」
「今着てる、その神官服もアンタが盗賊のスキルだって話したから、動きを阻害するために着せただけ。カリンは何度も反対したけど、最後には納得してくれた」
「勘違いしないで! リ、リアナを殺すのは反対だったよ。けど、少しくらい困らせてやろうと思ったんだ」
衝撃の真実を聞かされ、呆然とするしかなかった。
これが、二人の気持ちだったの……?
わたしは、親友どころか、友達とすら思われてなかったんです。
「でも、あの化け物が出て来るのは予想外だったなぁ! さらに都合よく、マヌケなアンタが転んでくれた時は運命がアタシに味方してくれたと思ったわ」
「わたし……あの時、死にかけたんだよ……?」
「だから、言ってるじゃん。死ねば良かったって。なんで生きてんのよ?」
「…………」
「カリンは仏心だして、助けようとかしてたみたいだけど、アンタにされた事を思えば死んでほしいと思って当然でしょ? カリンだってホントはそう思ってたんじゃない?」
「違う……確かにリアナの事は恨んでたけど、あんな化け物に殺される事なんて望んでなかった」
「まっ、今更どうでもいいけど。こいつ、結局のうのうと生きてるみたいだし」
二人の会話を聞いて、言葉が出なくなっていました。
何を言えば良いのか、もう分からなかったの。
わたしには最初から、味方なんていなかったんです……。




