次なる悪意
前半視点:三人称
後半視点:リアナ
ミカゲとリアナが話をしていると、受付嬢が突然二人の方に向かってきた。
「あっ、来たのね! 実は急いで伝えたいことがあるの!」
二人の目の前に来た受付嬢は、リアナの方を見てそう言った。
「えぇと、ミカゲさんに用事があるんですよね?」
「そうだったんだけど! それより、来たのよ!」
リアナの質問に対し肯定するも、もっと大事な要件があると伝えてくる。
不思議な緊張感がリアナを襲った。
「だ、誰が来たんです……?」
「あなたが探していた二人よ! カリンちゃんと……レイちゃんだったかしら? 三十分くらい前に来て、薬草採取の報酬を貰っていったわ」
「えっ! カリンちゃんと、レイちゃんが……来たんですか!?」
受付嬢の言葉に、先ほどの彼女以上に驚き声を上げるリアナ。
薬草採取の報酬と聞き、そういえば薬草はカリンが持っていたなと、一瞬思いながらもリアナは受付嬢に詰め寄った。
「それで! どこに行ったのか聞いてないですか! 二人はどこに――」
「リ、リアナちゃん……落ち着いて。今話すから、ね?」
「あっ……ごめんなさい、わたし。二人の事、ずっと心配しててつい」
気付かない内に、尋問のように激しい態度となってしまった事にリアナは反省する。リアナが落ち着くと、受付嬢はゆっくりと話し始めた。
「二人は、今あなたが泊まっている宿屋に寄ると言っていたわ。荷物を纏めるとか言ってたから、ひょっとしたら宿を変えるのかも知れないわね」
「ありがとうございます‼ わたし、二人を追いかけます‼」
受付嬢が話終わるや否や、深くお辞儀をしたリアナは、そのままギルドから飛び出そうとした――が、そんな彼女の腕をミカゲが掴んだ。
「ミ、ミカゲさん?」
「また、誰かに襲われないとも限らない。一緒に行こう」
先日の事件があってまだ間もない。
ミカゲは、またリアナに何か起こるのではないのかと心配で仕方なかった。故に、どんな理由があろうと彼女を一人にしたくなかったのだ。
「すまないが、私はリアナさんと一緒に行く。用事は後でも良いか?」
緊張して口が回らないミカゲも、リアナの大事な要件とあれば別だ。
普段と違い、流暢に話す彼女の姿に驚いた受付嬢であったが、快く了承した。
そもそも、用事というのも『白銀の棘』事件の顛末を纏めるために少し話を聞きたかっただけであったため、何の問題も無かった。
「ミカゲさん……ありがとう」
「礼などいい。それより、早く向かおう」
「はい!」
こうして、二人はリアナの泊っている宿屋へと向かった。
***
宿に着くとミカゲさんは、「私がいると迷惑だろうから、外で待っている」と言って、ここからはわたし一人で行くようにと促されました。
そんな気にしなくても良いのに……。説明すれば、あの二人ならきっとミカゲさんが怖い人じゃないと分かってくれるはず。
そしたら、ミカゲさんと会わせよう!
そう心に決めたわたしは宿の中へと入りました。
受付のお姉さんに会釈して、そのまま二階へと上がりました。
わたし達の取っている部屋は、二階の一番奥にあります。
部屋に近づくと、聞き覚えのある声がしました。
『それで全部? なら、アタシは行くわよ』
『うん……纏め終わったよ。ねぇ、レイ……ホントに』
『しつこいよ、カリン。アタシはもう決めたの』
あ、やっぱりこの声はカリンちゃんとレイちゃんだ‼
わたしは、ずっと会いたかった二人の声を聞いて我慢できなくなり、そのまま部屋へと入りました。
「カリンちゃん‼ レイちゃん‼」
「なっ!?」
「えっ!?」
部屋に入り声を掛けると、わたしに気付いた二人は驚きの表情でこちらを見ました。えへへ、ちょっとビックリさせちゃったかな?
「リアナ……?」
「うん、その……ただいま?」
とりあえず、久しぶりに宿に戻ったので、なんとなくただいまと返しました。
レイちゃんは、まだ信じられないような様子でわたしを見ていたので、どこから説明したら良いのか迷いますね。ミカゲさんの事も話さなきゃいけないし、うーん悩ましいなぁ。
「なんで?」
どこから話そうか悩んでいると、レイちゃんがふと呟きます。
どうやって助かったのかと聞かれれば、ミカゲさんに助けてもらったからとしか言えませんよね。ここは正直に話すことにしました。
「えーとね、レイちゃん。実はわたしを助けてくれた人が――――」
「なんで死んでないのよッ!?」
え、と。よっぽどビックリしたのかな。
それとも心配してたから、こんなに怒ってたりするのでしょうか。
だとしたら、凄く悪い事したかも……。
「ごめんね、二人共……心配したよね。最初に説明するべきだったんだけど、久しぶりに二人の声を聞いたら嬉しくて、つい飛び出しちゃって!」
「…………」
「実は、わたしを助けてくれた人がいてね! すっごく強くて、優しい人なんですよ‼ 二人共きっと仲良く――」
「……ば良かったのに」
「え、レイちゃん? ごめん、今の聞こえなくて」
「あんたなんて、死ねば良かったのに」
「……えっ?」
聞き間違い、だよね。
うん、そうに違いないよ。だって、わたし達は小さな頃からずっと仲良しで。
仲良しで……親友、なんだから。




