表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/38

序幕

「うおおおっしゃ! 今日の仕事も楽勝じゃったわ!」

「ワシら四人の前では、魔物なんぞ紙屑同然よ」

「うむ、今日もみなご苦労だった」


 ここは、ウィンゲイトという町の酒場。

 席に座った四人の冒険者達は今日も一仕事を終え、酒盛りを始めていた。


 三人の屈強な男と、一人の女で構成されているここら辺でも有名なチーム。

 『頑強な決意スティーリー・リゾルブ』というA級冒険者パーティである。


 彼らは先ほどギルドからの依頼で受けた、強力な魔物の変異種と戦い見事勝利したのだ。

 全員が一級品の腕前を持つ、一流のパーティだからこそ出来た偉業である。


「この調子で行けば、ワシらがS級になるのもすぐだな!」

「おうよ! 一番を取るのはこのメンバーじゃ!」


 褐色の肌にムキムキの筋肉を持った、ガタイの良い二人の男達が酒をがぶ飲みしながらワイワイと話に花を咲かせる。仕事が終わった後はいつもこんな感じであった。


「油断大敵だぞ二人とも。自信を持つのは大いに結構だが、命のやり取りをしてると言う事は忘れぬようにな」


 そう言って二人を(たしな)める、盛り上がった筋肉に、丸太のような首を持つ威圧感ある男……このパーティのリーダーだ。


「分かってらぁ! だが、ワシらが油断したことなんぞあるか?」

「いや、ないな。我々はいつでも全力で叩き潰してきたからな」


 そう言って笑うリーダー。二人の慢心発言を(たしな)めたものの、本心では微塵も不安など無いことがうかがえる笑いだ。


「…………」


 そんな三人の男たちが熱く語り合っている中、一人だけ静かな者が居た。

 出された酒にも手を付けず、まるで瞑想してるかの如く目を瞑って座っている。


「おいミカゲ。どしたんじゃお主。さっきから酒も飲んでないだろ」

「ん? ミカゲ、どうしたんだ?」

「腹でも壊したんかい? ガハハ」


 仲間の男達が心配になり声をかけるのは、ミカゲと呼ばれた女性。

 このパーティの紅一点でもある。


 腰まで伸ばした艶やかな黒髪、白磁のような肌。

 均整のとれた美しい身体と、物静かで凛とした態度。

 それはまさに、クールビューティーを体現しているような女性だった。


 男達から話しかけられ、瞑っていた眼を開くミカゲ。

 その切れ長で鋭い目には強い意思を感じる。それが男達へと向けられた。


「相変わらず、女とは思えん眼光をしとるのお主は」


 歴戦の強者ですらたじろぐ程のミカゲの瞳。端整な顔立ちをしている割に、美しさよりも先に恐ろしさや威圧感を感じるのは、大抵この目で見つめられることが原因であろう。


「……話が、ある」


 女性にしては少し低めの、落ち着いた声でメンバーに話しかける。戦闘中でも日常生活でも、ミカゲが普段言葉を発することは殆どない。

 恵まれた容姿を使ってメンバーに媚びることも一切せず。それどころか、笑顔すら見せたことも無い。


 だが、それが逆に三人から高い評価を受けていたのだ。


 元々は三人チームで女を入れることは固く禁止していた。

 しかし、その三人が最後のメンバーに選んだのが女性であるミカゲだ。


 どこまでもストイックで、油断しない姿勢……そこに性別の事など些細過ぎる問題だった。事実、ミカゲは高い実力もあり、三か月前にメンバーに入れてから即戦力となっている。


「異国の地より来た」と一言だけ伝え、腰に差してあるカタナと呼ばれる得物……それを自在に操り、敵を瞬時に切り裂く神速の業には男達は何度も助けられたことがあった。


「お主が話とは珍しいな。改まってどうした?」


 この三か月、自分から話しかけたことなど滅多になかったミカゲが改まって話す内容に三人は興味津々だ。しかし、ミカゲが次の言葉を告げた瞬間――緊張が走った。


「このパーティを……抜ける」


 思わぬ言葉に驚きを隠せない三人の男たち。

 変異種を倒し、丁度勝利を祝っている最中だというのにミカゲは普段と変わらぬ、冷静な態度でパーティからの脱退を願い出たのだ。


「な、なんでじゃ……? 気に入らん事でもあったのか?」


 ミカゲの脱退理由がわからないメンバーの男は、ミカゲに問う。


「…………為すべき、使命がある」


 少し黙っていたミカゲが、ポツリとそう呟いた。


 それを聞いて男たちは納得した。


 やはり、この女は只者ではなかったのだと。

 何か大きな事を為すため、異国よりこの地へ来たのだと。


「……はん! そう言う事なら、しゃーねーな!」

「頑張って来い。でけぇ使命とやらを為してこいや! ガハハ!」

「パーティの席は、いつでも空いてるからな」


 見た目の割に察しが良すぎる三人は、ミカゲへと激励の言葉を掛ける。

 ミカゲは表情こそ変わらなかったが、三人へと頭を下げ。


「……世話になった」


 一言だけ告げて、そのまま酒場を出て行く。


「別れの時ですら、迷いなく進むか……ホントに、イイ女じゃありゃ」

「使命……あいつは、何を抱えとるんだろうな」

「我々には、想像も付かぬような大きな事だろう……頑張れよ、ミカゲ」


 三人の男達はミカゲが出て行った酒場の扉を見ながら、大きな使命の成功と無事を願った。一時でも、仲間として戦った人間には家族のような情を見せるのが『頑強な決意スティーリー・リゾルブ』なのだ。





 ***





 酒場を出てしばらく歩いたミカゲは、冒険者ギルドへと向かっていた。

 彼女が言っていた使命と関係あるのだろうか?


 向かっている最中、ふと足を止めたミカゲが溜息を付き、独り言を言い始める。


「やっと……やっと筋肉共から解放されたよ……」


 泣きそうな声で筋肉からの解放を喜ぶミカゲ。

 そこには先ほどの知的でクールな印象など欠片もない。


「今度こそ……美少女とパーティを組むんだ、私は!」


 残念な実態がどんどんと明らかになる。

 もう何を言ってるんだろうか、こいつは。




 ……何を隠そう、ミカゲには秘密がある。

 実は、ミカゲには異世界から転生してきた男性の魂が入っていた。

 精神が男なだけあって、ミカゲは無類の美少女好きなのである。


「でも、美少女とちゃんと話せるのだろうか……?」


 気合が入ったと思えば急に落ち込む。

 ミカゲは極度の人見知りだった。正確には前世の頃からだが。


 おっさんや同性の男ですら、親しくならないと緊張して一言喋るのがやっとだ。さっきの三人など三か月も一緒にパーティを組んで、ようやくあの程度。だがミカゲにしてみれば、あれでもかなり喋った方なのである。


 相手がおっさんでもアレなのに、女性……それも初対面の美少女を眼前にしてしまうと、言葉が一切出なくなってしまう。そんな美少女達とパーティを組むなどこの上なく困難な事だった。


 何年も一緒に過ごせば、美少女とも普通に話せるようになるのだろうが、そこまで気の長い人間などおらず、前世でも職場では無愛想で冷たい男だと思われていたのだ。


「大丈夫、なはずだ。今の私は女性なんだ! 自然な感じで話せばきっと仲良くなれる……」


 ミカゲはそう言って気合を入れ直し、再び冒険者ギルドに向けて歩き出す。

 美少女とただ話をするだけでも、これだけ覚悟を固めないとミカゲは動き出せない。緊張して強張った表情は、まるで他者を寄せ付けない孤高の存在のような印象を与える。


(仲良くなったら、おっぱいとか揉ませてくれないかな)


 その思考は、確かにある意味……孤高の存在だった。





 これは見た目がクールビューティの中身アホが、美少女を求めて時に勘違いされ、時に助け合いながら仲を深めていく物語である!

息抜きに書いていきますよー! 見切り発車でごめんね。

更新は不定期で申し訳ないけど、完結までは頑張りますぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ