下宇田5
殴られ過ぎて、外の冷気に当たっただけで体が痛み、浅田は顔を歪ませた。
宜哉がぶつぶつと愚痴を言いながら浅田に肩を貸しながら歩く。
「何で俺がこんな事まで……」
三木はさっさと車に乗り込んでいる。宜哉が浅田を抱えて車まで歩くのを二台目の車を運転してきた若い男が見ていた。手伝うでもなく、ただ車の側に立っている。
気を失ったマサトは置いてけぼりである。
「あんたあの詐欺の店の……店長だろ?」
と浅田が言った。切れた口の中が痛くて浅田はまた顔を歪めた。口の中の血を吐き出す力もない。宜哉は、
「ああ、そーだ。お前のおかげで散々だ。英美を殺ったのはまずかったな。よく稼いだんだ、あの女。佑ちゃんは絶対お前を許さないだろうよ。英美の代わりにその体で稼がされるぞ」と言った。
「あのおっさん、佑ちゃんて言うのか」
はははと浅田が笑った。
「笑ってんじゃないよ」
「よう……何とか逃げだせねえかな」
宜哉はぎょっとして浅田の顔を見た。浅田の体勢が崩れて、宜哉に酷く重くのしかかった。
「はあ? お前……」
「俺は男には興味ねえ。犯るのも犯られるのもね。あんたと違ってマゾでもねえ……知ってるぜ……あんたの事……昔ちょっとばかり、危ないビデオ屋でバイトしてたからな。ホモ野郎に犯られまくり、くわえまくりじゃん。まあ、詐欺屋の店長より似合ってるけどな」
「何だと!」
宜哉の日に焼けた顔が赤くなり、ますますどす黒くなった。そして、
「好きで……やってんじゃねえよ」
と小声で言った。
「でも、離れられねえからしょうがない……佑ちゃんは恐ろしいんだ。逃げようなんて思ったら、どんな目にあわされるか……コンクリで固めてなんて日常茶飯事さ。金さえ渡しておけば……後は結構、優しいからな……」
「奴を殺したいなら相談にのるで」
「佑ちゃんを……殺す?」
「そうや……俺は奴のおもちゃになるのはごめんや。それに俺が来たからってあんたが解放されるって思うのは浅はかってやつや。奴のお楽しみが倍になるだけやで」
宜哉はほんの少しばかり緊張した声で言った。
「だけど……殺すなんて……佑ちゃんは下宇田の中でも武闘派だ。連れてる若い衆も乱暴な奴ばかりで……」
「俺も腕に自信はないわぁ」
「だったら……」
「世の中殺したい奴ばっかりさ……佑ちゃんはあんたが奴に毎月上納してる金の半分で殺れる。鴉の兄さんに失敗はないで」
そう言って浅田はまた笑った。
「鴉って、殺し屋なのか」
「殺し屋言うんはちょっと違うなぁ……兄さんの美意識に外れるんやて」
浅田は何かを思い出したようにけっけっけと笑った。
「その鴉は助けてくれないのか? 身内なんだろう?」
「……そりゃあかんやろ。兄さんはそんな甘ぁないからな……そうやな、あんたが佑ちゃんを殺る、言うなら……ついでに助けてくれるかもな……いや、足手まとい言われるかな」
「……」
「おい! 早くしろ!」
車で待つ若い男に怒鳴られて、宜哉は足に力を入れた。




