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  作者: 猫又
20/33

下宇田2

「何や、早速か」

 高架下の歩道に数人の男が立っていた。明らかに浅田を見て笑っているし、挑発しているのは分かる。地元ならばなんとかなるが、不慣れな街では助けを求める場所もない。

 無視して行こうか、と思っているうちに、背後から急に誰かに肩を抱かれた。

「よう、浅田」

「……マサトさん」

 マサトはそのまま足を止めずに高架下の男達の所まで歩いた。勢い、浅田もつられて一緒に歩いて行く。

「なんすか?」

「いい話があるんだけどよ」

「いい話?」

 男達はにやにやと笑っている。格好からしてストリートギャングのような輩だろう。未成年だから何をしても許される、人を殺すなら未成年のうちに、と思っているような奴らだ。中学校すら満足に行ってないような顔をした若い男達だった。

「お前、狙われてんぞ」

「はあ?」

 マサトはくっくっくと笑った。

「何かやばい事やってんだろ?」

「……」

「下宇田会の若いのに的かけられてんぞ」

「俺が? なんでですか?」

「とぼけんなよ。な、浅田。金出せよ。俺が口きいてやっから」

「金?」

 浅田はマサトの顔を見た。唇をゆがめて、得意げな顔で浅田を見ている。

「何の話だか分かりませんけど」

「ざけんな!」

 マサトに胸ぐらをつかまれて、浅田の体が浮いた。

「なあ、浅田。死にたくはねえだろ? 下宇田に目ぇつけられてただですむわけねえよな。俺が中に入ってやるから、金出せって言ってんだよ」

「下宇田って……ヤクザでしょう。俺、まじに心当たりないんすけど」

「英美って名前にも心当たりないかよ?」

「英美……」

 浅田の目がきょろっと動き、マサトはそれを見逃さなかった。

「知ってんだろ? お前が殺ったのかよ?」

「さあ、知らないですよ」

 ドスッと鈍い音がして浅田は体を折った。まさとの拳が腹に入ったからだ。

 地面に膝をついた浅田の横腹をマサトが蹴った。浅田は体をかばうようにして丸まった。

 自慢ではないが腕っ節には自信がない。綺麗な顔と言葉だけで世の中を渡ってきたのだ。

 アーミーのジャケットを着た男達は服の上からでも分かるほどに筋肉が盛り上がっていて腰には鋸のような巨大なナイフをさしている。

 浅田はマサトの腕を振り切って走り出した。逃げるが勝ちだ。

「野郎!」

 奇声がして、ばたばたと追いかけてくる足音がする。浅田は振り返りもせずに走った。

 よく知らない街だったが、まだ夕暮れには間がある。人気のある方へ逃げればなんとかなるだろう、と思いながら走った。

 ガクンと衝撃が体に走った。何かに足を取られて膝が折れたのだ。浅田はそのまま地面にひっくり返った。警棒のような物が転んだ浅田の目の前に転がっている。

 起き上がろうとして、背中を踏みつけられた。

「弱らせて車の中に放り込んどけ」

 息をきらしながら走ってきたマサトの命令に、にやにやとした顔で男達が動き出した。

「ストリートに顔が利くとは知らなかったっすね」

 両脇から強引に立ち上がらせられ、シャツが乱れるじゃねえか、と思いながら浅田が言った。

「お前みたいにふらふらしてる奴とは違うさ。生き残る為にはな」

 とマサトが言った。

 情けないと浅田は思う。マサトの年齢は三十近いはずだ。

 こんな子供を連れていきがっているマサトを憐れに思えた。こんな子供にしか相手にしてもらえない。少しばかりの金をちらつかせて王様を気取っているのだろう。

 ストリートのガキどもは質が悪い。ヤクザよりも始末に負えない事がある。つまらないいざこざでも命のやりとりになるからだ。マサトにいくら貰ったかは知らないが、面白半分に浅田を殺してどこかに埋めるくらいはするだろう。

 警察に捕まった所で未成年だから刑は軽いと高をくくっている。

 三人のストリートギャングにさんざん殴られて、浅田はミニバンの後部座席に押し込まれた。後ろ手に手錠をかけられて、毛布を被せられた。

 ギャング達がこそこそと話をしている。笑い声も聞こえてくる。

 やがてミニバンが発進した。

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