また一ページ
直人からのメッセージは定期的に届いた。
数日間謎の女につきまとわれていた直人は、二度の失敗を経てようやく脱出した。
一度目は夜中にでていこうとした所を見つかり、二度目は女の勘というやつが、あちらさんに働いたのか、逃がさないという強い気持ちをもって常に直人のそばを離れようとせずに、宿のベッドまで潜りこんできてタイミングを完全に潰されたみたいだった。
何度かビデオ通話で直人と話をしたが、その度に顔色が悪くなりやつれていき、うわごとのように監視されているようで怖いと震えながら言っていた。美人と同じベッドで寝ているというのに、その様はあまりにも不憫で仕方なかった。
だが彼はついにやってのけた。
ディナーに飲む彼女のワインに睡眠薬を仕込んで、気を失ったところをベッドに運んで、そのままある程度のお金を置いて逃走した。
やってることは普通にヤバい奴と変わらない。
日本だったら確実に捕まっている。犯罪者と罵られても言い訳ができない。
まあ、それだけ直人も気が狂っていたのだろう。
同じコミュ障として、彼の前では僕も同情を禁じ得ないが、裏では七転八倒の彼の情けない活躍を心踊る気持ちで見ていたのは内緒だ。
直人が見せてくれる広い異世界の冒険譚だけが、狭い部屋の中に閉じ籠っている僕と外界を繋ぐ唯一のドア。
直人が新しい一歩を踏み出すたびに、僕自身も少しだけ前進したような気になる。
ピロンと通知音が鳴り僕はメッセージを開く。
『新しい街にやっとついた。お金がなくなりそうだから冒険者ギルドで依頼を探そうと思う』
どうやら直人は彼女にお金を渡しすぎたらしい。マヨネーズで稼いだお金も底をついたようだ。
僕はなにかあったらまた連絡がくるだろうと、メッセージ回数の節約のためにあえて返信はせずに、また新たに購入した電子書籍を読むことにした。
少しでも多くの情報に目を通しておかないと、また不足の事態に陥るかもしれない。僕は僕で自分で出来ること全力でやろうと直人から助けを求められた時に決めている。
しばらくそのまま読むことに集中してページをスクロールしていき、数冊を読み終えた頃に時計を確認すると、いつのまにか結構な時間が過ぎていた。
ここまで没頭するなんて、思った以上に作品の世界観に引きずりこまれていたらしい。
異世界系の作品には個性豊かな主人公が次々に登場するから、それを直人と比べてみると面白くて、つい熱中してしまった。
スライムに転生したサラリーマン、異世界では好青年だけど転生前は無職のおじさん、死に戻りを繰り返してヒロインを救うとする高校生。
僕が読んだ作品の主人公は誰もが活気にあふれていて、心の力強さを感じた。
それに比べて、直人はあまりにも普通の人だなと僕はクスリと笑ってしまう。
転生前も転生後も平々凡々な自分を変える事が出来なくて、いつまでも教室の隅っこにいた頃のモブキャラから抜け出せていない。
可愛い女の子に声をかけられれば緊張して喋れなくなり、共に冒険を人探そうとすればハブられる。
情けない姿は、本当に一緒に学校に通っていたあの頃のままだ。
だからこそ、僕は他の作品の主人公よりも自分に近しい直人の冒険がとても楽しみになる。
勇者でも英雄でもない普通の高校生である直人が活躍していく姿をみていると、何者にもなれない僕でも頑張ればなにか出来るんじゃないかと勇気を貰える。
僕がそんな風におもい耽っていると、また一通のメッセージがきた。
開いてみると直人からの相談が書かれていた。
『冒険者ギルドで依頼を探していたら、ダンジョン攻略のメンバー募集をしていたパーティーに声をかけられた。俺は寄生ニートだから経験値横取りしてしまうと伝えたのに、それでも構わないから荷物運びのポーターとしてきてくれないかと言っている。親切すぎてなにか裏がないかと怪しいくらいだが、この話乗っていいと思うか?』
どうやらまた直人の冒険に、新しい展開がはじまろうとしているみたいだ。




