気付いてしまった
かなり長い間放置してしまってすみません。
重いお腹を摩りながら、はしたなくもベッドに寝転ぶ。
まあ、自室だし誰が見ている訳でもないから、楽な姿勢をとらせて貰おう。
だってさ、食べるしかなかったんだもの!
夕食の席は姉の全快祝いと、最初に告げられた通り、私の婚約祝いで随分と豪華な食事が用意されていた。
勿論両親は大喜びで、そんなお祝いムード一色の中、とてもじゃないけど水を差す様な発言が出来る訳ない。
だって、理由を聞かれたとして、説明した所で信じて貰える訳ないもの。
それにしても、きちんと伝えたつもりだったのに、結局ユーエンには伝わっていなかったんだと思うと、運命は変えられないのかも?なんて暗い方へ考えてしまう。
ウチみたいな男爵家が断れる筈がないし。
頭に浮かぶのは「縁談避け」と言われた時の、あの惨めな瞬間だ。
本当は想う相手がいたのだと知らされ、打ちひしがれて庭園へ逃げた時のあの記憶が蘇る。
それから攫われて私の前世は終わりを‥
そこまで回想を振り返ると、ある違和感にガバリと起き上がった。
待って、私はどうして攫われたの?
一番初めに気付くべき所だったのに、どういう訳か攫われたのはユーエンが原因だと思い込んでいた。
よく考えたら分かる筈だわ。
だってユーエンにとっての私の価値なんて、縁談避け位にしか役に立たないんだから!
婚約だって簡単に破棄出来るし、それによって損害を被るのは私側だけ。
わざわざ私を攫って、遠方へ追いやる理由がない。
そこまで考えたら、血の気がサーッと引いて、体がブルブルと震え出した。
気付いてしまった。いや、気付くべき所に蓋をして、目を逸らしていたと言うべきか。
思ったよりも、あの、必死に走り崖から落ちたショックが強かったのだ。
あの瞬間を思い出したくなくて、"そもそもの原因はユーエンにある"と思い込む事で、自分を保っていたんだわ。
震える体に両腕を回し、自分を抱きしめ深呼吸をする。
頭にあるのは"誰かに狙われていた"という事実。
それはつまり、私の存在が邪魔だと思う誰かがいたと‥
けど、そんなの記憶を辿っても分からないわ。
婚約以来どこへ行ってもユーエンファンから嫌がらせされたし、そういった人達にとってはわざわさ誘拐するよりも、婚約破棄という醜聞の方が好まれる筈。
もしかするとかなり熱烈なファンの中には、私の存在自体が気に入らないなんて人がいたのかも!
でも、あの場で攫うとなると、限られて来るんじゃない?
なんと言っても王宮なんて入れる人は限られてるし、いかに庭園の警備が多少緩くても、簡単に忍び込める様な場所じゃない。
とすると、ある程度権力がある人か、王宮関係者に何らかのコネを持っている人か‥
そこまで考えるとすっくと立ち上がり、机に向かって歩き出す。
引き出しから紙とペンを取り出し、座ってあの時の顔触れを頭に浮かべる。
それから走り書きで出席者のリストを書き出してみたが、あまり覚えていないという事にすぐ気が付いた。
そりゃそうなるよね。
あの時他に目を配る余裕なんて無かったし、まだ学生の身というのを言い訳に、他家との交流なんてしていないもの。
なんとなく朧気に覚えている顔だって、どこの誰かは分からない。
ハア、いきなり出だしでつまづいたわ。
いいアイデアだと思ったんだけどなぁ。
やっぱりこういう事は、普段から他家との交流がある人に聞いてみないとダメよね。
うん、明日お母様にでも聞いてみよう!
暗い気持ちを引きずらないのは私のモットーで、長所でもあると思っている。
まだ事件が起こるのは二年も先なんだから、今の内に対策を練れば十分防げる筈。
その為には色々な人に協力して貰わなきゃね!
などと簡単に考えて自分を納得させてみたのだが、これが思わぬ方向へ転んで行くなんて、この時は全く思わなかった。
読んで頂いてありがとうございます。




