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言わせて貰います!  作者: 栗須まり
10/12

無自覚?いいえ自覚しています!

「俺さー、あんなに危機感を覚えたのは初めてだよ」

大袈裟な身振り手振りを交え、ハリーは昨日を振り返る。

まあ気持ちも分かるので、相槌を入れてはうんうんと同意。

で、直接の当事者ではないエイミーは、適当に相槌を打ってはお茶菓子に手を伸ばしている。

ハリーの話より、目の前のマフィンに夢中の様だ。

「ねえハリー、このマフィンってウインストンズの?」

エイミーがあまり自分の話に関心がないと感じていたのか、ハリーは茶菓子の話題にパアッと顔を輝かせ、得意げに答える。

「そう!エイミーはあそこの好きだろ?」

「フフッ‥良く分かっているじゃない」

途端に満面の笑み。

単純過ぎるだろハリーよ!

これでエイミーへの好意が、誰にもバレてないと思ってるんだから、案外鈍感なのかもしれない。


「ところで、今日ここへ来た目的を忘れてない?結果はどうだったの?」

「そうそう、忘れる所だった!ほら、学校だとこの話出来ないからさー、ついね」

そうなのだ。

2人にはユーエンとの縁談を、絶対に他言無用と頼んである。

特に学校では、ユーエンのユの字も口にしないで欲しいと、釘を刺してあった。

だって万が一ウルセラの耳にでも入ったら、面倒臭い事この上ないし。

こういう点では未来を知ってると、対策が立てられて便利だよね。

で、今日は放課後ハリーの家に来て、話しているという訳。

まあ、本当は昨日の話をしに来たのではなく、別の用事で来ているんだけど。


「さっきうちの従業員に聞いたら、3人に聞かれたって言ってたよ。やっぱ俺の目利きアンテナってスゲ〜!」

「はいはい。でも、3人が気に留めたって事は、リリアの絵には、それだけの魅力があるって証明された訳よね。これは凄い事だわ!」

「証明って‥3人だけじゃない」

「あら、素人の絵に3人もの人が目を留めたら大した物よ。ね、ハリー?」

「うん。しかも大した額に入れていた訳じゃない。いかにも高級な額縁なら、気になって絵の価値を聞くお客様はいるけど、リリアの絵は作者が誰かを尋ねられたってよ」

「えっ!?それで私の名前言っちゃったの!?」

「いいや、新人画家のリオって名前にしといた。リリアでオーサーだからさ、リオでよくない?」

よくない?って‥結構適当じゃないか?

「リオっていいわね!流石ハリー!ネーミングセンスがあるわ!」

えっ!?いいのか?

これはセンスありなのか?

エイミーに褒められたハリーは上機嫌。

まあ、特に文句もないから良しとしよう。


「それでさーリリア、相談なんだけど、リリアの絵をさ、本格的に売ってみないか?」

「ええっ!?う、売る?」

「うん。言っただろ?リリアの絵は価値があるって。折角才能があるのに、このまま埋もれさせておくのはもったいないよ!」

「いい提案ねハリー!私もその案に乗るわ!ハリーがプロデュース、私がサポートでどう?」

うわぁ‥2人の間ではもう決まっちゃってるよ。

でも、これは折角のチャンスでもある。

もしこれを受けて軌道に乗れば、将来的に道が広がって、1人でも生きていけるかもしれない。

そこではたと気付いた。

昨日ハリーを家に招いた事により、前回とは違う道が現れたのだという事に。

未来が変わって来ている‥それもかなりいい方向に。

それならこれを断る理由なんてない!


「分かったわ、2人に任せる。でも、あまり沢山は描けないから、少しずつでもいい?」

「もちろん!その方が余計価値が出るよ。あとそうだな‥贋作防止の為に、サインを特徴的なものにしようか」

「サイン?さっきのリオって名前で?」

「うん。人気が出る絵ってのは、必ず贋作が出回るんだ。だから簡単には、真似出来ないサインがいいかな。それから、リリアの絵はウチでしか販売出来ない様にして、鑑定書も付けるとして‥」

「ハリー、そういう話は私達で決めて、リリアにはサインだけ考えて貰う様にしない?ほら、リリアはアスベル卿との縁談もあるし、色々忙しいでしょ」

「ああ、そうだった!あっぶな!今度こそアスベル卿に殺される所だった!」

「ちょっと、私の絵とアスベル卿は無関係でしょ!」

「えーだってさ、ねぇエイミー?」

「うん、ハリーが危惧している事は分かるわ。リリアの周りをウロチョロしていたら、睨まれるだけじゃ済みそうにないもんね」

確かに昨日は随分と怖い顔でハリーを睨んでいたけど、それとエイミーが言っている言葉の意味が結びつかない。

「どういう意味?」

「もう!リリアったら無自覚!?あんなに独占欲むき出しだったのに無自覚!?」

「独占欲?誰が?」

「アスベル卿よ!」

「はぁ?何に対しての独占欲?」

「リリアに決まってるでしょ!」

「エイミー‥今日が何年何月何日か分かる?」

「分かってるわよ!分かってないのはリリアの方!アスベル卿は間違いなく、リリアに対して好意を抱いているわ。そうよねハリー、ハリーもそう感じたでしょ?」

うんうんと大きく頷き、ハリーはエイミーに同意している。

そりゃあエイミーの言う事に、ハリーが反対する筈ないってば!

全くエイミーもおかしな事を言うんだから。

「エイミー、誓って言うわ。アスベル卿が私に好意を抱くなんて事は、明日から私が王様になるくらいあり得ない事なの。多分だけど、天気予報で雨と出た時用の、傘くらいには私を必要としているんじゃないかしら?」

「いや、リリアは女性だから、女王様の方が表現としては正しいぜ」

「ハリー、そこは重要じゃないわ。重要なのはリリアが無自覚って所。て、いうか‥今日の所はまあいいわ。案外頑固だって知ってるし」

「頑固じゃないわ!これは絶対私の方が正しいの!」

だって私には、ユーエンとの2年間の記憶があるんだから!

なんて言いたくなったけど、その言葉は飲み込んで2人を見る。

ハリーは両手を上げてお手上げポーズをしていたし、エイミーは軽く溜息を吐いて呆れた顔をしていたけど、結局その後はこの話題には触れず、絵についての話を詰めていった。

読んで頂いてありがとうございます。

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