私にとって女神のような存在なのです
寮に戻ると、真っ先にベッドに向かう。
ベッドに座ると、アイリスが心配そうに尋ねてきた。
「学園で何かありましたか?」
「いや、違うのよ。何かはあったけど、何もないような……??」
心配かけないように言おうとしたら最後の台詞に疑問符をつけてしまった。
「何かあったんですね」
「あったといえば……あったけども」
何かはあった。それをどこからどこまで話せばいいのか分からないから口篭る。
「あっ、ソフィア様。横になると制服がシワになりますのでこちらに着替えてください」
そう言って取り出したのは私が愛用しているジャージだった。
このジャージを着てると落ち着くんだよねぇ。
本来ならドレスを着ないといけないのだが、誰も見ていなければ(デメトリアス家の住人以外)ジャージを着ても良いかも。
という思いから、令嬢らしからぬことをひっそりとしている。
バレなければいいだけの話だしね。
「ごめんね。私、今夜出かけなくちゃいけないから制服のままで」
アイリスからジャージを受け取ろうとしたが、今夜の約束を思い出して断る。
私の事だ。ジャージに着替えてのんびりしていると自分の今の姿が誰にも見せられない状況なのをすっかりと忘れて、ジャージのまま外に出るだろう。
それもアイリスの止める声を無視して。
そういう時っていつもテンパっちゃってて周りの声を聞かないし、見えないのよね。本当……反省していかないと。
反省……といえば、
「ねぇ、アイリス」
「はい?」
「……この間はごめんなさい。心配してくれてるのを知ってたのに、冷たい態度をとってしまって」
私が記憶を思い出した日、頭が混乱していてお礼も謝ることも出来ずにいた。
ギュッとベッドのシーツを握る。
きっとアイリスは許してくれる。でも、緊張して無駄に手に力が入ってしまう。
「ソフィア様」
アイリスは私の手にそっと触れる。
しゃがみこみ、私と目線を合わせて困った顔をした。
「綺麗なお顔が台無しですよ。冷たいなんて思っておりません。あなたは……私にとって女神のような存在なのです。出会っていなかったら今の私はいませんでした」
「そんな……大袈裟。女神はアイリスでしょ。こんな私にいつも優しいんだから」
「こんなって、ソフィア様は過小評価しすぎです。そんなに自分に自信ないんですか?」
「……自信」
いつだって自分に自信は無い。自信が無くて、とても不安だから目の前のことを精一杯やろうと思っていた。常に何かして、考えてないと……怖いから。
「私は、ソフィア様に命を救われました。あの日、唐突に離婚され屋敷から追い出されて実家に帰ることも出来なかった私に……あなたはパンをわけて下さいました。もう死んでもいいと絶望していた私にです」
「人違いだと思うけど?」
「いいえ、人違いではありません。私はパンを貰った時から、忘れてません。まさか、拾われた屋敷でソフィア様と再開するなんて思わなかったですが」
拾われた……? パンを貰った……?
全然覚えてないんだけど。
「覚えてないのはわかってます。それでも……、私はもう一度、生きていこうと決めたのです。ソフィア様は自分に自信がないようですけれど、ソフィア様にはソフィア様だけの魅力があり、それを知っているからこそ、ずっとお傍で仕えていたいと、……お慕えしたいと思うんです」
「アイリス」
「誰もが見て見ぬふりをしている中、声をかけてくださって……パンを恵んでくださってありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
一生忘れないと言われても……。やっぱり思い出せない。
アイリスの勘違いだとは思うんだけど……、こんなに感謝されてたら否定が出来ない。
「私には、勿体ない言葉だわ」
私の目頭が熱くなるのを感じた。気を許すと泣き出しそうになる。
泣きたいのをぐっと堪え、微笑む。
アイリスもつられて笑う。
自信はつきそうにはないけど、この縁は心から大切にしていきたい。
出会えて良かったのは私の方。……本当、アイリスには敵わないな。
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