88話目 清楚な乙女「買い」
メールでみんなにお疲れ様の送信を行いつつ、ニュースをチェックした。
「おお、載ってるわ」
ダンジョンへの入り口が256個になったってのは、すぐにマホロバニュースでも取り上げられてた。懇切丁寧に、上野をざまぁ団が封鎖してたこととセットになってる。
「あ!」
そだそだ、【魔化】の値段!
早速チェックしてみたら、スゴイ勢いで下がってた。うひゃー、今までの結構な上昇も含めて、まさにジェットコースター!
んー、早速もぐって【魔化】をゲットした人が売ってきたの? ――ううん、違うわね。むしろ、「まだまだ値上がりする」と思って【魔化】を山ほど溜め込んでた人たちが、ダンジョンが増えたことをキッカケに投げ売りしてきたのよ。「値崩れするから、いちはやく売っておこう!」ってね。
こーゆー輩は、自分さえ良ければOKだから、さっさと売却を企てたんだわ。ンでも、株と違って「買い板がない」から、成り売りでブツけることが出来ない。だから、手持ちのカードをどんどん安値で提示していって、ナイアガラになっちゃってるのよ。
ふと、オークション形式のカード売買もチェックしてみた。時間制限を1時間とかに区切ってるやつは、ロクな値段がついてない。あー、1円から始まってるのとかは、最終的にはお仲間に買わせる気でしょ?
「あ」
そうだ、エイホウさん。【魔化】の最低値段の推移とかって分かる?
『分かります』
頼もしい言葉とともに、ズラズラーっと数字が出てきた。――うぉっと、多いわね。歩み値みたいになってる。けど……うーん、多すぎて全体像が把握しづらいわね。
ねえ、エイホウさん。できれば、時間変化のグラフにしてもらうと分かりやすいんだけど、ダメ?
『変換中……完了しました』
今度は、ヨコ軸が時間、タテ軸に値段の書かれた【魔化】の分足チャートが出てきた。ウッハ~、これよコレコレ!
「ありがとう、エイホウさん!」
『どういたしまして』
その後、ものは試しと数個の指標をお願いして、さらに「流れ」を把握しやすくなった。
「フムフム……。3000円から一気に1500円を割り込んできた【魔化】だけど、その後の減りは緩やかになってるわね」
どうやら、散発的な買いが入ってるみたい。それでもジリ下げモードになってるのは、ダンジョンの独占が崩れて供給過剰になると読んでるからよね。――いえ、正確には、「そう思う人が多い」、と読んでるワケね。
はぁ~。ホンット、相場師って人種は、思惑で売り買いするわよねー。ンまぁ、「トイレットペーパーがなくなるかもー」って言われたときは、デマであっても確保したいってなりがちだモンねー。デマにつられた人が買い占めたら、なくなっちゃうから。
基本は、それと同じ連想ゲームね。「封鎖してたダンジョンが増える」→「【魔化】を入手する人が増える」→「【魔化】が値崩れする」……うん、間違いないわ。
「だ、け、ど」
あたしは知ってるのよねー。【魔化】が再び脚光を浴びる要因を。
そーっと、チョーカーに填まったルビーをなでた。――ん、【防火】と【怪力】付きの頼れるヤツ。メルティングポットのリスリスさんから頂いた、ステキな逸品。
「今までは武具オンリーだったけど、これからは、アイテムにも【魔化】できるってのが分かったものね」
つまり……、需要が爆発的に増える!(ドドーン)
あたしは、分足チャートの動きをじっと追ってた。緩やかな弧を描いて、1000円のチョイ下で落ち着きそうな気配。
「――よし!」
朝までが勝負ね。それ以降は、アイテムへの付与も知れ渡るハズ。
「1000円以下は、全部買い!」
そこで売り物が枯れたら……流れ次第! ンでも、1500円までは買い上がっていくわ!
あたしは、慎重かつ貪欲なポチ魔と化したのでした。
ふっふっふ……「買い」というのは、清楚な乙女のごとく、ゆっくりとエントリーするのですわ。焦るのは、はしたなくってよ?
「ふぅ~……満足満足」
山ほど買ってお腹いっぱいになったころ、あたしにメールが送られてきた。差出人は……げっ、ベアクローとか書いてある。
一応、ウイルスとかないことをエイホウさんに確認してもらってから開いてみた。
“サボテン、お前【魔化】買い漁ってるみたいだが、ダンジョンを解放したのにバカか? 下がりまくるぞ? まあ、売り主の中には俺たちもいたんだけどな! ハハハ、ざまぁ~っ!”
「ぶっふーっ!」
ちょ……待って!? たしかにクマはざまぁ団だから、【魔化】を持っててもおかしくなかったわ。でも、これ……。
「アイテムへの付与、やっぱり気付いてないし!」
文面は、なおも続いてた。
“そうそうサボテン、さらに絶望的なことを教えてやろう! お前が売ったダイス魔法の【パラメデス】な、あれを買ったのは……俺たちだよ! 安値で売ってくれてありがとな! ざまぁ~!!”
「ぎゃっはー!!!」
ヤ、ヤバい……! お腹が、よじれる……! う、うぷぷ……。
あんたたち……逆神すぎるわ!!
笑いすぎて涙を流したあたしは、“それは良かったです。あなたが幸せそうで、わたしも幸せです”って返信しといた。
こーゆーのに煽りはいらないわ。だって……ブーメラン刺さってるもんねー!
清楚な乙女は、素材そのままの良さをおいしくいただくのですわ。オホホ。




