85話目 【蛇の目】でおむかえ
「ありゃま」
ちょうど今の時間は誰もおらず、あたし達3人の貸し切り状態だった。
「イーちゃんもマングースさんも、知り合いだったのね」
「ホホホ……その通りじゃ」
芝の女王様は、グラスを放り投げざまインベントリに仕舞った。――おお、カッコいい。
「もっとも、大々的に猫と交流しておったわけではないがのお」
「そうだね、イシュタール」
猫少年は、女王様の向かいのソファに座った。
「君は、マホロバ・リアルにほとんど顔を出さなかったから」
「そうじゃの。妾はあくまで、ライトを繁栄させたい派じゃ」
「ふうん。僕はもちろん、リアルをメインにしたい派だよ」
え。
「イシュタール。ライトみたいなVRなら、他にもゲームはあるよ?」
「それは違うのぉ、子猫や。社長がプロデュースした『何回も殺せるゲーム』は、今やライトだけじゃ」
うぉっと、まさかの対立。お互い穏やかだから、「それはそれ」なんでしょうけど、リアルVSライトじゃないのよ。
期せずして、女王様と猫少年があたしを見上げた。えー、意見の表明しろってのー?
ま、決まってンだけどさ。
「あたしは、ライト優先派ね。少なくとも、消えるのはメチャクチャ困るわ」
女王様が小さくガッツポーズして、猫少年が軽くしょんぼりしてた。
「まあ、そうだよね。シャボンさんは、ライトで活動してるんだし」
「マングースさん、ごめんなさい」
「いいよ。英雄様はリアル派だから」
「うわー……。マングースさんってば、その方を引き合いに出しますか」
「構わないよね? だって、命を張ってるんだもの」
お説ごもっとも。――てか、もうマングース=マンクスさんって、隠す気ないでしょ。
大人びた少年は、包み込むように猫耳をかいた。
「さて、イシュタール。〖ラッキー7〗という脱法呪文が出てきたみたいだけど」
「ホホホ……妾が運営に申請したであろ? その呪文を使うが良いぞ」
「うん、ありがとう」
え、えぇっ? どういうこと?
「あ……マサカ」
あたしは、サイコロ好きな悪魔女王を見下ろした。
「ねえ、イーちゃん? ひょっとして、〖オーメン〗が出来た時点で、『ダイス関係の呪文を丸ごと封じるような対策カード』とか、申請してたでしょ?」
「ホホホ……だとしたら、どうする?」
「――ツンデレ」
あたしの呟きに、イーちゃんはガクッとした。
「な、なぜじゃ、シャボン……?」
「えー? だって、『社長を倒すぞえ、ホホホ』みたいなこと言ってたクセに、この世界はメチャクチャ好きなんじゃなーい。せっかく開発した〖オーメン〗ちゃんなのに、あっさり破れるような対策呪文を献上しちゃうとかさ~?」
「う、うむぅ……」
たじたじの女王様を見て、マングースさんはくつくつ笑ってる。
「イシュタールは、たしかにライトが合ってるみたいだね」
「フン、うるさい猫じゃのぉ。こまっしゃくれておるわ」
むくれた女王様は、インベントリからカード群を出すと、あたしに差し出してきた。
「ほれ、シャボン。対策呪文じゃ」
「さっすが女王様」
「ウイルスを作った人間は、ワクチンも持っておるわ。スロットに入れるがよい」
「ラジャッ!」
あたしは早速、いただいたカードを見てみた。
【蛇の目】。
「ぶはっ!」
「おや。ウケたかえ、シャボン?」
「だって、イーちゃん! これ、蛇相手って知ってたの!?」
「ホホホ……偶然じゃ。サイコロ2つを振ったとき、1のゾロ目をスネークアイズと呼ぶことから名付けたまでのことよの」
「う~む、オソロしき偶然」
そんな【蛇の目】の効果・その1は、「サイコロの出目を1にする」だった。――うわー、これは強烈だわ。むしろ、この対策カードなかったら、〖オーメン〗も披露してなかったでしょうね。
あたしは、今もらった【蛇の目】4枚を、スロットの【機動】4枚と入れ替えた。
「アラ? そういえばマングースさんは、【蛇の目】入れてるんですか?」
「僕には不要だよ。何より、イシュタールが始末をつけたいでしょ?」
「ホ。大した心づかいじゃの」
苦笑する女王様。なんだかんだ言って、認め合ってるみたいね。
――おっと、忘れるトコだった。重要ミッションをこなしときましょ。
あたしは、入れ替えカードを使うための30分待機中に、1000円で買った【パラメデス】をせっせこ売りさばき始めた。
「うわー、シャボンさん?」
マングースさんがヒョコッと覗いてくる。
「値崩れするからって、そういうことしちゃうんだー」
「そりゃーもう、せっかく知った情報ですから」
【蛇の目】とか、サイコロデッキにトドメ刺しちゃうものね。大暴落が目に見えてるわ。
エイホウさんもフル活用して、直近10回の【パラメデス】がいくらで売れたかもリサーチ。その値段よりも割安に提供することで、手早く全てを売却した。
「シャボンさん? あんまりやり過ぎると、睨まれるよ」
「ざまぁ団にですか?」
「いや、税務署に」
「おおぅ……そりゃー強敵ですわ」
あー、株式の利益は20%持ってかれるとか思い出したわ……。うっ、頭が。ガガガガガ。
んで。
強者2人を連れたあたしは、上野の公園へと舞い戻ってきた。
「カナヘビちゃん達ー、またまたハロー。あ、グッドイヴニングー?」
「――サボテン、と、猫と女王か」
わあい、あたし達ってばとっても有名人。サインはしないわよー。
蛇達100人が、まーたゾロゾロとあたし達を囲んでくれる。
カナヘビがイーちゃんを指差した。
「芝の女王とか言ってたな。ありがとうよ、おかげで〖ラッキー7〗って魔法を作れた。ちょっとアレンジするだけでな」
「ホホホ……左様か」
「お礼に、その魔法で葬ってやるぜ」
カナヘビは、モブに【祝福】をかけさせてから、両手を組んで〖ラッキー7〗の態勢に入った。あの手が開けば42点が確定する。
――ええ、【蛇の目】が無ければね。
「食らえ!」
カナヘビは、両手を勢いよく開いた。ダイス7つが転がり出てくる……ハズもない。
「えっ……? な、なんでだ? ドコに消えた?」
金ピカ服がオタオタ。モブ蛇もざわざわ。
うふふふふ、ズヮンネンでした。【蛇の目】の効果・その2が、オート発動よ。
「ホホホ……のお、蛇よ?」
今度は、女王様が指を差した。
「妾が、そんな芸のないサイコロ呪文を、許すと思うたかえ?」
「うぅっ……」
「『正規呪文でないカードによるサイコロは、効果を発揮しない』――妾が作った範囲呪文、【蛇の目】の常動の効果じゃ。覚えておくがよいぞ」
そう。コレこそが【蛇の目】必殺の効果。
センスのない呪文を嫌う女王様だものねえ。単に増やした〖ラッキー7〗とか、メッチャ怒ってるわ。
カナヘビは、【三連撃】を唱えた。
「じゃ、じゃあ【パラメデス】だ! お前ら3人とも、削り殺してやる!」
「ホホホ……シャボンにマングース、存分に暴れるが良いぞ」
あら、そこは女王様ご自身じゃないのね。高貴な身分は自ら動かないと。
「でもま、オッケー!」
【メリッサ】を操りながら、ブンブンと量産型レーヴァをぶん投げていく。接近戦はマングースさんが相変わらずバッタバッタと槍で切り裂いていくし、女王様は盾と【中止呪文】のサポートを入れてくれる。
「ホホホ。サイコロを振るだけなどと考える輩には、負ける気がせぬぞえ」
――うわー、安定感が違うわ。
かくして、「3対100」の変則マッチは、「3」に軍配が上がったのでした。イエーイ!
芝の女王による対策カードです。
【蛇の目/Snake Eyes】
レベル2・緑魔法/コモン
分類:フィールド
範囲:半径100m
効果:サイコロの出目を1にする。
効果:正規呪文でないカードによるサイコロは、効果を発揮しない。この効果はレベル0、常動である。
「お前ら三下にゃ、これがお似合いだよ」 ――イカサマ師
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