80話目 ラブ&ピース強化編
「ぴよー……じゃあ、安全地帯に行くでぴよん」
へろへろな飛びかたで魔法陣の対角線へと向かう蝶介さん。
「始めの1/3削りは有りでいくぴよん? でないと、ポクはイヤでぴよん」
「あー……僕も、そこは安定が欲しいかなあ」
ペガススさんがあたしを見た。
「すみません、シャボンさん。最初の削りは有りでいいですか?」
「えーっと……。ちなみに、ナシだとどうなります?」
「数人死ぬのは当たり前ですね。パターン次第では、全滅もありえます」
ひえっ。マジで?
「ペガススさん。削り有りでいきましょう」
「ありがとうございます」
「いえ、あたしの方こそ。ワガママ言っちゃって、ごめんなさい」
ペガススさんは、蝶介さんとは別の隅へ向かった。
「あのー、あたしはどうしましょう?」
「シャボンさんは、蝶介の護衛でお願いします」
「はーい……って、アレ? ヒーラーのペガススさん護衛じゃないんですね」
「普通ならそうなんですけど……ここは、本気で迎撃システムが集中しますから」
えー、そんなに。それで蝶介さんは渋ってたのね。
前衛2人は中央に待機して、防御魔法を張りまくり。
「うっしゃ! じゃあ、いくぜ!」
タイガさんが【マザージェリー】のカードを取るや、ゴゴゴゴゴ……と部屋全体が降下していった。中央に鉄クズが集まっていき、瓦礫の竜・爆誕!
「あら?」
ラブちゃんの脇には、【衛星球】みたいな球体がふわふわ浮かんでた。ただし、色は緑ね。
(ペガススさん。何です、あの緑の玉?)
(防衛システムですよ)
(お~、あれが噂の)
ペガススさん達との会話は、念話に切り替えてる。
敵の緑玉が、瓦礫の竜に【このはの盾】を使った。むむっ、盾シリーズね。
(この緑玉は、常に8点分の攻撃を防ぐ盾を張りますね)
(なるほど、そうやってライフを嵩ましする、と)
(はい)
じっと集中してたタイガさんが、両手の鉤爪で勢いよく瓦礫の竜に切りつけた。
パリィン、ズバシャー!
『ギャギャー!』
お、竜の盾を割った! さあ、戦闘開始よ!
まずは、瓦礫の竜のシッポ攻撃をかわしたタイガさんが、回り込んでガシガシ切っていった。合間に自動人形やらゴーレムやらが湧きまくるけど、それも次々スクラップにしていく。無双モード突入ね。
「ぬうん!」
対するイノさんも、近くのロボット兵を薙ぎ払ったのち、緑玉を【ヘパイストス】の刀で一閃!
「おおー、やる~!」
(ヒヒーン。もっとも、スグ復活しちゃうんで、イノは緑が出現しだい切る感じですね)
(なんかモグラ叩きみたいですね~……あら?)
竜の近くに、今度は赤玉が出現した。防衛システム2つめね。赤く光ってる魔法は……【火炎放射】?
「ハッハー! 来やがれ赤!」
構わず竜を攻撃しまくるタイガさんに、赤玉から大量の炎が襲いかかる。
シュゴォォオーッ!!!
(うひゃぁ~、怒濤の勢いでブレス食らってますけど、大丈夫ですか?)
(タイガの場合、《炎の虎》のユニークスキルで炎ダメージを1点に軽減できますから。連続で食らっても、10点ほどで収まりますよ)
(おー)
なるほど、本体を攻撃してたのがタイガさんって事にも、ちゃーんと意味があったのね。
【火炎放射】が終わるや、ペガススさんはタイガさんに向けて杖を向けた。【治癒】をマックスで撃って、ダメージがほぼ回復。
あたしはというと、隅っこの方に湧いて出た自動人形をペシペシ叩いてた。蝶介さんは、【雨傘】の魔法をメンバーに掛けてる。
「蝶介さん。なんで【雨傘】なんですか?」
「ぴよよーん、2ラウンド目の頭に効いてくるでぴよーん」
「理由はヒミツですか?」
「そうだぴよん。――ぴよ、そろそろポク達の所にも、迎撃システムが来るでぴよーん」
「何色です?」
「ここはランダムだぴよーん」
フムフム、対策が取りづらいのね。――おっと。
鉄クズの中からシュポンッと現れたのは、〈球体〉アバターのような触手を持った黒玉だった。あたしの方に触手を伸ばしつつ、黒く光り出す。
へぇ~、《石化》ですって?
「お断りよ!」
レーヴァテインで触手を叩く! アーンド、スグさま飛び掛かって黒玉本体も叩く!!
ボシュー……。
「いよっし!」
黒玉、退治! ――あ、でもスグまた湧いて出るんだっけ。ポンコツ人形も出てくるし、蝶介さんの近くに戻って警戒、ケーカイ。
「ハッハー! オラオラ、来やがれ鉄くずー!」
「タイガ殿、1/3は超えるなでござるよ」
「わーってるって!」
見ると、タイガさんとイノさんが、少しずつ瓦礫の竜を魔法陣に誘導してた。ペガススさんは【衛星球】を出して、それで2人を確認してるみたい。――うわー、近くのポンコツロボット退治しながらの回復って、めちゃくちゃメンドそうだわー。
(でもまぁ、手間は掛かっても、今のところ楽勝っぽいですね)
(ヒヒーン、まだシステム3つだけですからねー)
あー、やっぱ増えるのね。
(ぴよーん。みんな、ポクはタイガ以外に【雨傘】張ったでぴよよーん)
(おう、ピヨ介。俺は2ラウンド目の《酸性雨》をどうやって凌ぐんだ?)
(気合いで頑張るぴよよーん)
(フザけろ!)
漫才コンビのツッコミ担当が、竜を魔法陣へとしばき倒した。――なんという八つ当たり。ラブちゃんカワイソー。
シュワァァァアアアア……。
『ギャギャー!』
おっ、よしよし。
(これで1/3削りましたね)
(はい。このあと竜が弾け飛んで、中央で再構築ですね)
ペガススさんと戦場の端っこ同士でのんびりと念話。はー、荒ぶる鉄クズを必死にかわすタイガさんとイノさんを見てると、安全地帯の重要さが分かるわねー。
そして、中央の上に出てきたのが青い玉だった。――おやおや、輝き出したわね。
ファアアアア……。
青玉の光が鉄クズエリアを照らすや、激しい雨が降ってくる。
ドザァアアアアー!!
「うおおおお! 減る減る、減りやがる!!」
あ、コレが《酸性雨》なのね。あたしや蝶介さんのライフは大して減ってないけど……うわ、タイガさんはエゲツナイぐらいに減ってる。
「タイガ、【治癒】行くぞ!」
「おう! じゃんじゃん来い!」
《酸性雨》のダメージに対抗して、ペガススさんも前進、雨あられのように【治癒】を放つ。すでに5、6回撃ってるから、当然のように【悪魔の契約】4枚入れてたのね。
そして雨は上がり、2ラウンド目開始! 竜と赤玉の相手はタイガさんで、緑玉と周辺の自動人形の相手はイノさん。そこから少し離れた場所に、前に出たペガススさん。
(ここからは【衛星球】が潰されるんで、僕が直に見ます)
うひゃー。回復呪文も見なきゃダメとか、ヒーラーへの負荷もハンパないわね。
――あら? じゃあ、青の相手は?
青玉が再びまばゆく輝きだした。――げっ、もういっぺん《酸性雨》!?
「【忘却】ぴよん」
蝶介さんがロッドを向けた。紫魔法を放って青玉は沈黙。
「おー。お見事、蝶介さん」
「ぴよー……真の地獄はこれからだぴよん」
え、スッゴイ浮かない顔だけど、なんで?
理由はスグに分かった。
シュポンッ、シュポーンと、あたしの目の前に紫玉、茶玉が出てきたから。
「ん?」
黒玉ともども、すぐに光り出す。順に《石化》、【魔弾】、【地震】。
「ゲゲーッ!!」
こいつらガチで殺しにきてるわ!
えーい、まずは飛ぶ! これで【地震】を回避! 黒玉は退治して、《石化》も潰す! 【魔弾】は……!
「食らう!」
ザクザクザクザク!
「ぐはっ……!」
「ね? ヤバいでぴよん?」
「う、うふふふふ……たしかにね」
蝶介さんも飛んで回避できたのにコレってのは、本気でヤバいわ。――おっと、周りのポンコツロボットが退治されてるのは嬉しいわね。【地震】もいいトコあるじゃない。
なーんて、ちょっぴりホメたのがいけなかった。
次の呪文は、紫が【忘却】、茶が【地震】。
――これ、ゼッタイ飛行を忘れさせるヤツー!!
速攻で紫をタコ殴りして退治した。茶がグラグラ地面を揺らしてるけど、あたし達はセーフ。
「蝶介さん、ヘルプ!」
1人じゃキツいわ! 向こうの奴らを忘れさせてー!
あたしが振り返ると、蝶介さんは青玉にずっとロッドを向けてた。今までで一番真剣な表情。
「え?」
見ると、青玉がしきりに【大海嘯】とか《絶対零度》とか光ってるのを、蝶介さんがそのたびに止めてた。――うわっ、たまに青玉も【中止呪文】撃ってくるし! それをさらに蝶介さんがキャンセルしてる! うぐあ~、すでにそっちに掛かりきりだったのね~。
「――おっと!」
茶が【石つぶて】を唱えてきた! 殴り倒さなくっちゃ!
「あっ、ダメぴよ。3体全部倒すと、一度に復活するぴよ」
「え、じゃあよけ続けろってこと!? ――ギヤアー!!」
岩石みたいな【石つぶて】をスレスレでかわす。そうこうしてるうちに黒玉復活。そして《石化》!
「甘いわ!」
ボコスカ殴って黒玉を退治! レーヴァテイン(with【怪力】)をナメんじゃないわよ!
「前衛さん! 早く倒してー!」
「ウォッケー!」
タイガさんの頼もしい返事とともに、再び瓦礫の竜は魔法陣へと叩き込まれていた。
シュワァァァアアアア……。
『ギャギャー!』
やった、これで更に1/3削ったわ! もう、あとわずかなハズ!
シュポン、シュポーン。
「――え」
ウソ。この擬音……ちょっとヤダ、もう止めて。
音のした方を、おそるおそる向くと。
「イヤァー!!」
白玉と銀玉も出てきたー! しかも……!
「ぜんぶ光ってるー!」
《石化》、【忘却】、【地震】、【閃光】、【のろま】!
「うぐわー!」
一番ヤバそうな黒玉を退治して、目をつぶる! あとは祈る!!
羽が取れて地震に巻き込まれた。体が重くなったから、トロくもなってる。
「う、うぐぐ……」
立て直す間もなく、お次は【魔弾】、【地震】、《日食》、《磁石》。
茶玉を倒す……じゃない!
「銀を倒す!」
あっぶなー! 見落としてたら、そこら中にある鉄クズにツブされてたわ!
体が重いのは、投げレーヴァと戻りレーヴァでカバーして、なんとか銀玉を退治した。他は、甘んじて食らう!
「ぴよ……魔力が消えたぴよ」
「え」
あ、そういえば日食って、範囲内にいるキャラのマナが0になるんだっけ。
「――ヤバい!」
蝶介さんが青玉の魔法をキャンセルできない! うわー、また玉が光り始めたー!
「ぬうん! とどめでござる!」
ズバシャアッ!
お! これってイノさんの刀の音。
『ギャギャー……!』
中央から、瓦礫の竜の断末魔が聞こえてきた。
防衛システムと迎撃システムは、輝きを急速に失っていく。
――あ、これってもしかして。
各色の玉は、少しずつ薄れていき、やがて見えなくなった。
「はぁ~……キツかったわ~……」
「ヒヒーン、お疲れ様です、シャボンさん」
「あ、どうもペガススさん……。ラストは、本当にキツかったです」
「削り有りにしといて、良かったでしょう?」
「はい。まったくその通りでございます」
深々とおじぎした。――うわ~、ここまで苛烈とは思わなかったわ。最後は8色分の玉が全部出てきて攻撃してくるなんてね。
「ぴよん。でも、シャボンさんがガッチリガードしてくれたおかげで、ポクも青玉封じに専念できたぴよん」
「拙者も、竜に攻撃する余裕が生まれたでござる」
「ひいては、俺らが竜を速く倒せたってことだな」
タイガさんが、回収した【瓦礫の竜】のカードをひらひらしてみせた。
ペガススさんが馬ヘッドの目を指差した。
「僕も見てましたよ、シャボンさん。危なくなったらサポートしようと思ってましたが、最後以外は何とかしちゃうのがスゴいですね」
「え、途中からは前に出てましたよね? 見えてたんですか?」
「はい。人間の水平視野はおよそ200度ですが、馬は350度なんで」
「ああ~」
――そっか。そのために、人間の頭じゃなくて馬ヘッドだったのね。
「伊達や酔狂じゃなかったんですね」
「いえいえ。最大の理由は、もちろん『面白いから』ですよ!」
あっけらかんと答えるペガススさんに、笑うパーティメンバー。
「ぷっ」
強いエンジョイ勢だわー、ペガススさん達ってば。
強烈な雨を防いだ呪文です。
【雨傘/Umbrella】
レベル1・青魔法/コモン
分類:防御
効果:飛来ダメージを半分(端数切り捨て)にする。
「晴れた日には傘を差してやり、雨が降ったらスグさま取り上げる。――はてさて、こいつの正体は何でしょうねえ?」
――“ハゲタカ”のヴァルダン
319/350




