78話目 落ち着いていこう
あたしと銀ちゃんとマスターの3人は、ダンジョンの入り口まで戻ってきた。途中の道はスロープだったから戻るの大変とか思ってたら、魔法陣に乗って戻れるんだって。あー、ボス倒したら機能が変わるのね。
「気をつけるカゲよ、シャボン? カードを取り忘れたまま魔法陣に乗ったら、カードが消えるカゲ」
「あー、社長あるあるだわ」
むしろ、利点ダケだったら悪い物食べたのか疑うトコね。
んで、外に出るや。
「よおー、サボテン。出てきやがったな」
また蛇たちのお出迎え。うえー、ホンットしつこいわねぇ……って、あら?
「あんた、さっき青服だったでしょ。なんで赤服に変えたの?」
「別人だよ、ボケ」
はぁ、左様で。
あんたたちモブ敵に割く労力なんて無いケド、一応スキャンするわ。――ん、「レッド・マータ」だって。はいはい。
(ふむふむカゲ。アカマタだカゲね)
(え? マスター、何それ)
(蛇の種類だカゲよ。さっきのがアオダイショウで、今度はアカマタだカゲ。服に合わせてるカゲね)
(へぇー)
分かりやすいトコだけサンキューよ、蛇さんたち。
あたしは、アカマタを指差した。
「人が違うってことは、また懲りずに挑んでくるんでしょ?」
「おう、お前は1人だからな」
ははっ、笑っちゃうわね。影モードの銀ちゃんとマスターには、やっぱり気付いてないし。
「くたばれ、サボテン!」
んで、1対20のバトル開始。
ボコスカボコスカ。
「くそっ、覚えてろよ!」
「オッケー、忘れとく」
はー、サイコロの炎が、春の陽気に適度なぽかぽか具合だわー。
「軽口言ってられるのも今のうちだぞ! お前にずっと張り付いてやるからな!」
「へー。なら、なんか株買ったら、ストップ高に張り付いてほしいわ」
「フザけんな!」
あらあら、願望すら否定される世の中ね。とりあえず殴って退治しときましょ。ボカッとな。
(いやー、また撮影できちゃったよ)
(姿は見えないけど、超朗らかな顔が目に浮かぶわ、銀ちゃん)
(ははは。ありがとう、シャボン)
(どういたしまして。でも、正直、【瓦礫の竜】のラブちゃん戦のほうが見応えあると思うわ)
(うん、私も同感だよ。だけど、彼らの姿を余すところなく映せてるからね)
(あー)
指名手配犯みたいに使うのね。「この顔に、ピンときたら、ざまぁ団!」って感じで。
(シャボンの無双動画は視聴者が多いからね。みんなのチェックで、「この人物はざまぁ団だ」というデータを1人ずつ蓄積していけば、上野の森の封鎖はそのうち瓦解すると睨んでるよ)
(流石ですわ、お稲荷様)
(いやいや。このぐらいは片手間だよ)
桜の影にいた「2次元モード」の銀ちゃんは、片手だけ出してヒラヒラしてくれた。――うわー、マジでヨユーだわ、こりゃ。
隣の桜の影からは、うれしい【完全回復】も飛んでくる。
(はいカゲ、ボクたちはこれで引き上げるカゲよ)
(マスターもありがとう。回復能力は結構メンドいから、パーティーが必須だったわ)
(そうカゲね。戦闘中のライフ回復は、大変カゲ)
(ね~)
【完全回復】は準備30秒で、その間、あたしはダメージを負わないことが条件とかね。もっと弱い回復魔法は回復量もショッパイし、社長ってば、ゼッタイ使わせる気ないわ。
(んじゃ、銀ちゃんにマスター、お疲れさま)
(うん、それじゃあね)
(お疲れカゲ~)
あたしたちは、再びアカマタのチームが現れる前に、現地解散をしたのでした。
そしてもちろん、あたしの行き先は。
「みなさん! 退治しましたよ~!」
工房「メルティングポット」への凱旋でした。いえーい!
「はい、リスリスさん。【魔化】をお返しします」
「えっ? シャボンさん、ダンジョンで手に入れたんですか?」
「エヘヘ……。リアルラックが炸裂しました」
んでも、そのおかげで借りてた【魔化】がスグ返せたから、超ラッキーだったわ。
その後、銀ちゃんによって動画が投稿されたみたい。コメント欄に、「なんで【パラメデス】で焼かれないの!?」とか、「武具に【防火】の【魔化】はダメだったハズだが……」とか寄せられてる。
「リスリスさん。この分だと、じきにみんな気付きますね」
「はい。量産しておきます」
ウィンクがチャーミングですわ、リスリスさん。――おぉ、工房のみなさんも頼もしくうなずいてる。
ならば……コチラも、張り切っちゃうわよ?
そして、しばらくしたのち。
「ヒヒーン! シャボンさーん、僕達のパーティーを誘ってくれて、ありがとうございまーす!」
「いえいえ、ペガススさん達こそ、よくいらしてくれました」
上野駅にて、“馬ヘッド”のペガススさん、“猪武者”のイノさん、“ぴよよ~ん”の蝶介さん、“盾張り職人”のタイガさんと合流したのでした。
「あたしの動画を見て、誰か声かけてくれるかな~って、待ってたんですよ」
「お、じゃあ僕たちがサラマンダーの夜以外では1番乗りですか」
「ですです」
「ぴよよ~ん、やったでぴよーん」
フフフ……実は、動画の最後で、しばらくあたしは「ラブちゃん退治にハマりそう」って伝えてたの。
この世界、同じダンジョンは1日1回しか潜れない。
だけど、NPCは別。
「ヒヒーン、ダメ元で立候補してみて良かったです」
「こちらこそ」
や、本来なら、あたし1人でも潜れるんだけどさ。
ンでも、「誰かが潜ってる所に紛れ込んじゃう」のが問題なワケよ。現状だと、おそらく「ざまぁ団のパーティーが【魔化】目当てに入ってるダンジョン」に特攻しちゃうのね。
そいつらをチマチマ潰した所で、他のざまぁ団は山ほどいるし。あたし1人じゃ、さすがにそれ全部の相手はムリ。
そこで。
「実力がありつつ、ざまぁ団に封鎖されてても一緒に挑んでくれるパーティを期待してました。――つまり、みなさんです」
「ハッハー、照れるぜ!」
タイガさんが豪快に笑ってた。
「だが、真っ正面から行く嬢ちゃんはスゲェな。俺らもよお、ブチかましに行くかって話をしてたんだが、報復がうっとうしそうで見合わせてたんだぜ?」
「ぴよよ~ん、言い訳乙だぴよーん」
「るせぇ!」
タイガさんと蝶介さんによる、突発的追いかけっこ開始! ――んもー、仲の良さ見せつけるわねー、2人して。
「シャボン殿」
あら、イノさん。
「済まなんだでござる」
「え……えっ?」
あたしに深々と頭を下げたイノさんに、アタフタしちゃった。
「ど、どういうことですか?」
「拙者、『ざまぁ団』の悪行を知りつつ、勇気がなかったでござる。目を付けられるのが怖くて動けぬなど、武士の恥。このアバターも返上しようかと、思案していたでござる」
「あー、いや。あたしの場合、たまたま倒せるアイテムを託されたダケですし」
「されど、『倒せたあとの報復』をも乗り越えんとする気概。これがシャボン殿にはあったでござる」
イノさんは、再び頭を下げた。
「拙者、己の不明を恥じたでござる。もっとも、ここでシャボン殿と共に挑んだとて、結局は、『シャボン殿がおらねば拙者は動けなんだ』となり申すが……」
「ん~ん、全然そんなコトないです」
武士さんの中の人は、わりと重く考えちゃうタイプなのね。
「あたしってば、ケッコー考え無しに進むことありますし。あと、最近は慢心も反省してますから」
「シャボン殿……」
「単に、場面ごとの向き不向きですよ。――それと、こうやって挑んだときに、スグ手を挙げてくれたことって、スッゴク嬉しいです。1人で突っ込んでいって、後ろを見たら誰もいないとか、そーゆーのはツラいですから」
ペガススさんが笑ってくれた。イノさんの鎧をポンポン叩いて、取りなしてくれる。――イノさんが時折うなずいてるから、念話を使ってるみたいね。
ややあって、イノさんが念話を送ってくれた。
(すみませんでした、シャボンさん)
(いーえー。あ、イノさんの武士キャラ、好きですよ)
(ど……どうもでござる)
イノさん、ペコペコ。――ヤバいわ。見た目は猪武者なんだけど、カワイイと思っちゃった。
見た目と同じくらい、内面も重視するサボテンでございます、ハイ。
んで。
【防火】が掛かったペガススさんのパーティ(withシャボン)は、アカマタのチームと遭遇した。
「ざまぁ団たちに告ぐ!」
ペガススさんが、ビシッとアカマタを指差した。
「私たちは、お前らのような悪行の集団になど、決して屈しない!」
――うん。もうホント、白馬ヘッドじゃなかったらキマり過ぎてるわ。魔法で顔を変えられた王子様ね。
対するアカマタは、整った顔のハズなのに、ザコの雰囲気がプンプンするのよねー。やっぱ中身って大事だわ、ええ。
「うるせえ、かかれ!」
敵はもっと数を増やして、30人ぐらいいた。ンでも。
「ハッハー! お前ら、俺に盾を使わせろよ!」
タイガさんが、鉤爪でザクザク戦場を切り裂いていくかと思えば。
「ぬうん! 拙者も負けておられんでござる!」
イノさんも、疾風怒濤の勢いでバッタバッタと敵をなぎ倒していく。――や、四肢をクリティカルで切ったら、そこが使えなくなるのね。んでもって、イノさんってば、ほぼ全員の足を切ってくんだけど。えーっと……なんか、エラソーに言ってたあたしの方こそ恐縮するわ。剣道勝負なら勝てる気しないわよ。
『クソッ! てめーら目ぇくらめ!』
「ぴよーん、ソレはダメだぴよよ~ん」
敵のヤバい魔法は、蝶介さんが【中止呪文】でカット。雰囲気はゆるいケド、戦場全てに目配せしてるカットマンね。
「ぴよぴよ~ん? 【閃光】の前にセリフを吐くとか、青相手に笑わせるぴよん」
『フザけっ……ぐあー!』
蝶介さんに煽られた敵は、タイガさんの爪さばきによって退治された。ドヤ顔のタイガさんに対し、蝶介さんはお澄まし顔。――なんやかや言って、コンビネーションがバッチリなのよねえ。
あー、あたし? あたしは、ペガススさんを守って後衛にいました。
ほとんどあたしの出る幕なく、敵は速やかに全滅。
「ヒヒーン。はい、みんなお疲れ様~」
素早くダンジョンへ潜ったのち、入り口付近でペガススさんが、仲間1人ずつに【完全回復】。
「いやー、君たちが頑張る! 僕が癒やす! いいチームだよねー」
「待てオイ、なんか腑に落ちねえなァ!?」
タイガさん、すっごいよく分かるわ。
あれだけ大見得切ったチームリーダーが、後衛で回復オンリーだとか。
「うぇー? でもさあ、僕の役割は大事だよ? ――ですよね、シャボンさん」
「ん……ええ。トテモ大切ダト思イマス」
「ほらね?」
「腑に落ちねえんだよ!」
――このパーティー、オチはついてるわね。
春の陽気に変える呪文です。
【防火/Resist Fire】
レベル2・白魔法/コモン
分類:防御
効果:炎系のダメージを1にする。
「少し落ち着こう。大ヤケドをする前にね」
――ジャスティアの憂国の士
249/350




