76話目 1人で倒せるもん(フラグ)
銀ちゃんは、超高度から軽やかに降りてきた。
(それじゃ、私は撮影係に徹するよ)
(ボクも黒子に徹するカゲ)
(うわー、みんなしてあたしを前面に出すわね)
(いやいや。私は、シャボンがヘルプして欲しいのなら、ほどほどに手助けするよ)
(ボクも手伝うカゲ)
(ありがとー。でも大丈夫よ。ちょちょいのちょいで倒してみせるわ)
あたし達3人は、銀竜のひそむ近未来的なダンジョンへと潜っていった。
そもそも、あたしダケだとNPCだから、ヘタしたら「奴らが追ってこれちゃう」のよね。なので、誰かと一緒に入るのは超大事なの。
「そろそろカゲ、シャボン。敵が出てくるカゲよ」
「オッケー」
いつの間にか《影形態》を解いてたマスターは、銀ちゃんと一緒に後ろを歩いてた。あたしが銀竜のダンジョンは初めてだから、極力情報をセーブするようお願いしてる。
「ハハハ。私が思うに、シャボンは苦労するよ」
「はい銀ちゃん、ウルさーい」
こーゆーコト言うしねー。銀ちゃんってば、ゼッタイ推理小説で「あ、犯人コイツだよ」とか口出しするタイプだわ。
人工的なクリーム色の通路を進んでると、ガチャガチャと金属音がしてきた。ふむふむ、ならばコチラも準備ね。
「カモン、【メリッサ】!」
4体のハチ少女を召喚。シグマちゃんとタウちゃんを先行させて威力偵察よ。ふふふ……倒しちゃっても構わないのよ?
「む」
稼働音が騒がしくなってきた。ほおほお、青銅のゴーレムね。なんかちょっと速いけど、このダンジョンの仕様なんでしょ。
「シグマちゃん、タウちゃん、かかれ!」
2体で一気に膝関節を狙わせた。フフーン、これで《麻痺》発動……あれ?
「止まって、ない?」
ガチャガチャガチャガチャ!
「ヤバッ!」
こっち来た! うあー、レーヴァテイン準備!
バコーン!
寸前で用意して叩きのめせた。ふー、アブなかったー。
見ると、通路の先から次々と高速ゴーレムがやってくる。うわーっ!
「ちょっとは手加減しなさいよー!」
ゴガンゴガン叩いてると、後ろで呑気に銀ちゃんが話してた。
「ほらね、マスター。シャボンのことだから、【メリッサ】で刺そうとするって言っただろう?」
「駄目カゲよ、銀狐。彼女は初めて挑んでるカゲ。トライアンドエラーの最中に、揶揄するのはイケナイんだカゲ」
あぁ~、マスターの優しさが身にしみるわ~……。あ、銀ちゃんはクソ。
ともあれ、なんとか敵の猛攻を撃退できた。なおも通路を進むと、先で折れ曲がってる。そーっと顔を出してみたら、曇りガラスの自動ドアがあって、そこがシュッと開いてはゴーレムが出現してた。
「あの奥が広間ってトコね」
ボコスカ叩いて、勢いよくドアを入っていく。
「ごめんくださーい! ――おおっと」
そこは、中央に舞台のある、巨大なコンサートホールだった。
ふむふむ、おっちゃんが好きそうな歌唱スポットね。周りの騒がしいギャラリーさえいなければだケド。
客席に座っていた自動人形たちが、ガチャガチャ襲ってくる。座席を飛び越えて高速で迫ってくるけど、お生憎様。
「こっちは飛べるのよねー」
ジャンプしてくる人形ズを、上空からポカポカ叩くことしばし。
舞台中央が左右に割れて、バカデカい鉄の巨人が下からせり上がってきた。
『グモーッ!』
両手でガッツポーズをしてるので、その間にスキャン! ――はーい、「鉄巨人」で確定ね。
「あら?」
特徴で、《金剛無比》とかいうのが掛かってるわね。
(ねえ、マスター。金剛無比ってどんな効果?)
(防護点が10点つくカゲ。削れば0になって、ライフが減り始めるカゲよ)
(ふ~ん、少しカタいのね)
ま、鉄だしイメージ通りだわ。
(それとだカゲ、コイツの《金剛無比》は、一定時間が過ぎるとまた復活するカゲよ)
(バリアーみたいなモンね)
(その理解でオッケーだカゲ)
とか言ってる間に、鉄巨人の指先が、シュゴーッとミサイルのように飛んできた。ほおほお、指鉄砲ですか。
「んでも、ちょっとノロいのよね~」
難なく回避よ。ひょい。
……とか思ってたら、あたしを器用に追尾してくる。
「あれ?」
ドカーン。
ふ、ふふふ……。ま、まあ、1発ぐらいは……アラ?
近くに迫ってた他の指鉄砲も、次々と真っ赤に光る。
「え! ちょ、ま……!」
ドドドドドドドドドカーン!
「ま、た、かー!!!!」
1発ヒットしたら、連鎖爆発で10連発とかね! 【紅玉アリ】の巣で山ほど食らったわよ、ええ!
【防火】のチョーカーがあったから、10点で済んだケド、メリッサ・シスターズは全滅しちゃった。うぐぐ、ちくせう……。
見ると、巨人の指はスグ復活してた。自動人形ズも色々出てくるし……えーい、このポンコツ機械ドモめ!
「シャボン、怒りモード発動!」
そりゃもー、天使だって不動明王になるわよ。くわっ!(目を見開く)
片っ端から叩き壊して、鉄巨人に接近! 指鉄砲をドカドカ食らいつつも、《金剛無比》を剥がしてからレーヴァテインで殴って一撃! ふはー、ストレス解消! 【痛打】様々だわー。
「ところで、銀ちゃん。姿が見えないけど、ドコいったの?」
(マスターの隣だよ)
ホールの隅で、腕だけ出して手をフリフリしてた。――あ、輪郭が白い。マスターの影より、場所が分かりやすいわ。
(私も【影形態】を入れてきたからね。しっかり観戦させてもらうよ)
(はいはい。カード回収お願いねー)
たしかにあたしってば、「社長のアトラクションを全力で楽しみたいから、手出し無用!」とか言ってたもんね。
1ステージ目では【メリッサ】が不発だったケド、立て直しはヨユーよ。この分なら、手助けナシで頑張れそうだわ。
ホールの敵を片付けると、入ってきたのと反対側の自動ドアのランプが赤から緑に変わった。なるほど、これで通れるようになったみたいね。
奥はスグ階段になってた。とりあえず一歩踏み出す。
シュッ。
段差が消えた。
「え」
滑り台へ移行。
シューッ!!!
「うわあああああーっ!」
このダンジョン、何よーっ!?
(いやー、初見の人は、みんなコレ引っ掛かるよねー)
(んー、趣味に走ってるカゲねえ)
ぐはあ、マスターまで楽しそうだし!
すごい速さで滑り落ちていった先は、ゴミゴミした鉄くず置き場だった。
「ぎゃー!」
叩きつけられそうになるのは飛んで回避! ――え~え、コレぐらいは分かったわ。ダテに何度も社長のワナ食らってないわよ? 自慢じゃないけど。
広さは、さっきのホールほどあった。だけど、どことなく湿気てる。
「ん?」
錆びた鉄の周りに、【ジェリー】に似た生き物がいた。ほおほお、赤くなった色違いかしら。とりあえずポコスカ殴る。
(あーあ。やってしまったね、シャボン)
「なによー、銀ちゃん」
不穏なんだけど……って。
「うぎゃー! レーヴァテインがボロボロ!?」
ウソッ、どーして!?
パニック状態で赤い水玉をスキャンした。えーっと、「錆のジェリー」、4/4/4。特殊能力が……武具を錆びさせる!?
「いやー!!」
錆のジェリーたちは、ズザザザザとあたしに向かってくる。
「ヤバい! やめてー!」
ちょっと! コレ直るわよね!?
これ以上レーヴァテインが朽ちたらコワすぎるから、インベントリに引っ込めた。そんでもって、【ヘパイストス】で頑張る! スグ朽ちちゃうから、さらに【ヘパイストス】!
「銀ちゃん! マスター! ヘルプミー!」
(おや、シャボン? 私は「ちょちょいのちょいで倒す」と聞いたよ?)
「悪かったわよー!!」
でも、そーゆー揚げ足取りって、本性分かるわよ、銀ちゃん! 覚えときなさい!?
(ボクが直すカゲ)
マスターは、素早く量産型の杖を【修理】してくれた。
(はいカゲ、これで上限値も復活したカゲよ)
「ありがとう、マスター!」
(レーヴァテインも修理するカゲか?)
「お願い!」
はぁーん、癒やしの存在だわ、マスター!
すぐにレーヴァテインも【修理】してもらった。もちろん、即行でインベントリへと収納ね。攻撃は量産型レーヴァ一択です!
錆のジェリーを叩くたびに朽ちていって、ダメージが与えられなくなると【修理】のルーチン。
しばらくしたら、巨大な水玉が出てきた。――ん、「マザージェリー」ですって。特殊能力は無しね。
スパーン!
「はぁ……ボスの方が楽チンだわ」
その後も、武器が朽ちては修理を繰り返したのち、なんとか敵を全滅させた。
「うえぇ……肩がスゴくこったわ」
(お疲れさまカゲ、シャボン)
「これは、1人じゃダメだったわね。ありがとう、マスター」
(どういたしましてだカゲ)
(おや、シャボン? 私へのお礼は?)
「はーい、ありがとう」
こっそりと【治癒】を飛ばしてくれてたもんね、銀ちゃんも。
(だけどね、シャボン。撮影スタッフは、極力手助けをしないのが望ましいんだよ)
「あら。じゃあ、この回復は?」
(ステージの切り替わりだから、時間短縮のためだね)
「――ふふっ」
本当にピンチなら、戦闘中も【治癒】してくれそうだけどね~。
(さあ、シャボン。次はいよいよ、銀竜がいるフロアだよ)
「ええ」
思いあがるのはダメね。謙虚が大事だわ。
あたしは、1枚だけ取らずに放置されてた【マザージェリー】のカードを手に取った。
グゴゴゴゴ……。
「はいはい、お定まりの強制移動ね」
フロア全体が下へとそのまま降りていく感じ。ここ自体が巨大なエレベーターだったのねー。
ドズウウゥウン。
下への重力を感じる。どうやら着いたみたい。
「さて、どんな竜かしら」
すごい機械っぽい奴? それとも、まさか水銀みたいな液体の竜?
その直後。
単にオブジェだったハズの鉄くずが、ガシャンガシャンと組み上がっていく。
「おおー」
始めっから見えてたというパターンね。フッフッフ……【骸骨竜】で経験済みよ!
『ギャギャー!!』
禍々しい鉄の骨格と翼を揃えた竜は、激しい金切り声を上げた。
シャボン的に、ここまでのダンジョンで1番キツかった敵を載せておきます。
【錆のジェリー/Rust Jelly】
レベル3・赤魔法/コモン
分類:召喚(ジェリー)
攻1/速1/生1
サイズ:小
能力:武器に触れるたび、上限値を1ずつ下げる(上限値が0になると破壊される)。
能力:防具に触れるたび、防護点を1ずつ下げる(防護点が0になると破壊される)。
「体がサビついちまったら、錆のジェリーに取ってもらえ」
――ドワーフ鉱夫たちのジョーク




