75話目 色んな人に支えられてます
あたしは再びメルティングポットに行った。
工房のみんなは、心配そうな顔であたしを迎える。
「あの、シャボンさん」
リスリスさんが声を掛けてきた。
「もしかして、本当に……」
「はい、通せんぼされたんで、挑んでみました。10人は倒せましたけど、20人でサイコロ振られるとキツかったですね」
あたしは笑いつつ、インベントリからレーヴァテインを出した。
「この杖は守れて良かったです」
「シャボンさんの代名詞ですね」
「はい」
話がてら、リスリスさんに渡して、メンテをしてもらった。【修理】や【清掃】にくわえて、ツヤまで出してくれる。
「どうぞ、シャボンさん」
「ありがとうございます」
レーヴァテインがピカピカに。うん、しっくり馴染んでるわ。
「――けど、この杖をそのまま使うと、取られるキケンが高いんですよね~。何か、取られてもいいぐらいの安い武器ってないですか?」
「じゃあ、いっそ【ヘパイストス】ならどうでしょう」
「ヘパ?」
「はい。接近戦で重宝する瞬間魔法ですね。英雄さんも使ってますよ」
スグに【衛星球】を喚んだリスリスさんは、映像を壁へと投射してくれた。ほうほう、英雄さんってば、槍を瞬間で出して敵の攻撃を受けてるのね~。――って、しれっと背面でも受けてるし。背中に目がついてるの?
リスリスさんが銀色のカードを見せてくれた。
「【ヘパイストス】は、レベル2の瞬間魔法です」
「ふむふむ」
「効果は、武具を1つ作り出すという、シンプルなものですね。持続時間は30秒で、新しく【ヘパイストス】を使ったら、前に出してた武具は消えます」
「なるほど」
「シャボンさんでしたら、予め『杖』で設定しておけば、取られる心配もなくなりますよ」
「おおー、それは使えそうですねえ」
あたしは早速、手持ちの【ヘパイストス】を確認した。
――にゅむ、2枚。
「あのぉ~……。どなたか、【ヘパイストス】を出せる方はいらっしゃいませんか? 交換して下さい」
「俺が出しますよ」
「は~い、アタシも出せま~す」
シルクハット猫のベンガルさんに続き、せんべいピアスのDianaさんも手を挙げてくれた。――おぉ、アチラコチラからも手が。うぅ~、人の情けが身にしみるわぁ……。
その後、ベンガルさんには基本セットにいた4体の竜と交換してもらい、Dianaさんには、【鏖殺】と【呪われた輪廻転生】とかいう、何だか悪の親玉がやりそうな呪文と交換してもらった。
「よし、【ヘパイストス】を4枚確保!」
早速スロットに全部投入した。代わりに出したのは、【忘却】4枚ね。
イシュタール女王には必要なカードだったけど、今度の相手は大量のザコだもの。1人1人を封じるよりも、あたし自身を強化した方が断然対処しやすいわ。
「さあ、これで後は、【防火】を掛けて何度もアタックするダケね」
「あのぉ……それでしたら、シャボンさん」
今度はリスリスさんが手を挙げた。
「私たちも最近分かったんですけど、【魔化】は、武具だけじゃなく、一部のアイテムにも付けられるみたいでして」
「え? それって……どういうことですか」
リスリスさんは、【衛星球】を使って、あたしの「対社長戦」の動画を投射した。
「以前、シャボンさんから、社長のグラディウスを見せてもらいましたよね?」
「はい」
「そのとき、何点のダメージだったって言ってましたか?」
「13点です」
ん。衝撃の大ダメージだったから、よく覚えてる。
「も~う、メチャクチャ【魔化】がされてるなあって、ゲッソリしてました」
「あはは……。でも、それでメルティングポットは分かったんですよ。『何かの道具にも【魔化】が付けられるぞ』って」
「え?」
あたしはグラディウスを取り出した(ちなみにオーナーはあたしに変更済みね)。
「えーっと……大量に呪文がくっついてるから、これで強化されてるものだとばかり思ってましたけど、違うんですか?」
「はい」
リスリスさんは紙とペンを取り出した。
「この『グラディウス赤銀白』には、【火炎武器】で+2、【鋭利】で+2、【神聖武器】で+1と、合計5点の強化がされてます」
「【忠誠武器】と【刻印】は、ダメージボーナスには関係ないんですね」
「はい」
リスリスさんは流麗に文字を記していった。
「社長の攻撃力は2です。これって、社長自体の筋力が2ってことなんです」
「ほおほお」
「それでですね。【武器の達人】を4枚入れてたと仮定しても、『合計11点』なんですよ」
「あ、2点足りない! ――って、アレ? でも、ナイフ自体の殺傷力がありますよね?」
「実は、武器自体には『上限値』というものが定められてるダケなんです」
「え?」
まーたナゾの処理が出てきたわ。
あたしの怪訝な顔が分かったのか、リスリスさんは笑った。
「大丈夫ですよ。『武器に攻撃力はない』ってルールを押さえておけば」
「ふむ。で、その代わりに、上限値がある、と」
「そうです」
リスリスさんはグラディウスを指差した。
「ナイフの場合は、普通1でして。これは、どれだけ力自慢の人が持っても、1点しか与えられないってことなんです」
「じゃあ、社長の筋力は2ですけど、1点?」
「グラディウスの場合、上質のナイフがベースなので、+1点して、上限値は2ですね」
「はぁ~」
「さらに、【魔化】によって魔法の武器となっているので、倍になって上限値は4となります」
「ぐはぁ~」
ナゾ&ナゾの計算式! マイウェポン以外はゼーッタイやらないわ!
「で、シャボンさんが持ってるグラディウスは、このままだと11点なんです」
「13には、2点足りませんね」
「はい。――それで、存在が分かったんです」
リスリスさんは、インベントリからチョーカーを出した。
「つい昨日、他の工房で、【怪力】を一部の小物に付与できることが判明しました」
「ああ~!」
筋力が+2になるんだっけ。つまり……グラディウスの上限値4に、ピッタリ収まる!
うっわ~、社長ってば、やっぱりガチで組んでたんじゃない!
「あのぉ、リスリスさん。失礼なお願いなんですけど、【魔化】をお渡ししますんで、あたしにも作っていただけませんか? 1時間、拘束してしまいますけど」
「分かりました」
リスリスさんは、【魔化】のカードを受け取ると、チョーカーを差し出してくれた。
「では、コチラをどうぞ」
「え!? い、いいんですか!?」
「モチロン。需要があるのは分かっていたので、他の工房と同じく、こまめに作り始めたんですよ」
「なるほどー」
なんだか料理講座みたいな流れね。「ここで一晩寝かせまーす」からの、「ハイ、寝かせたのがコチラでーす」ってパターン。
「えっと、リスリスさん。杖の上限値っていくつですか?」
「3ですね。レーヴァテインは上質なので4で、さらに【魔化】がされているので8です」
さすがおっちゃん、抜かりなかったわ。
ともあれ、これでダメージにプラス2よ! 新生シャボン、爆誕ね!(筋力アップでムキムキ? 姿は変わってないから問題なしね! データだけの話よ、ええ!)
チョーカーを受け取り、首につけようとして、ふと中央のルビーに目を留める。
名前:スカーレット・ルビー付きチョーカー
【怪力】
【防火】
「うわっ!」
もう1個【魔化】がされてたし! しかも……ドンピシャの【防火】が!
リスリスさんは苦笑した。
「朝からドタバタしてて、そのあとも、まさかお1人で挑むとは思わなくて、言いそびれてしまいました……」
「あ、あはははは……」
うん。社長に女王と、大物を退治して、少し過信してたわね、あたし。
手元のチョーカーを見ると、思わずニヤついちゃいそうになる。
うわ~、パワーアップできる。これ欲しい~。
――でも。
「リスリスさん。こちらの装飾品、本当にカユいところに手が届きまくってる逸品なんですけど……」
チョーカーをゆっくりとリスリスさんに差し出した。
「でも、お渡しした【魔化】って1枚だけですし、1つ分だけで……」
「いいえ。どうぞ付けてください、シャボンさん」
両手でそっと覆われて、押し戻された。
「私には、一緒に戦う腕はありません。いえ……回復すらも満足には出来ません。――ですが、こういう貢献なら出来るかなと思ったんです」
「リスリスさん……」
「実は、シャボンさんがざまぁ団と戦ってくれるのに、自分たちは見てるダケでいいんだろうか、何か手伝えることはないだろうかって、さっき話し合ってたんですよ」
周りを見ると、Eクン、ベンガルさん、Dianaさんを始め、みんな温かい目でうなずいてくれてる。
「シャボンさん。どうかお願いします」
「――分かりました」
あたしは、しっかりとチョーカーを付けた。
「これで百人力です。――ええ。20人ぐらい、パパッと蹴散らしちゃいますよ」
スロットに入れてく呪文を少し変更ね。【防火】が不要になったから、代わりに……ああ、それなら魔色も変更だわ。
それと……あの人にも、声を掛けときましょ。
そして、再びの上野。
「また来やがったのか、サボテン」
「ええ、アオダイショウさん。トゲを味わわせに、また来たわ」
ざまぁ団たちに、まずは黒魔法の【闇】で視界を奪う。そして、【ヘパイストス】を発動! 手当たり次第、量産型レーヴァテインで殴る、殴る、殴る!
『おい! 誰か【光】で消せ!』
『つーか、なんで死んでねえんだよサボテン!』
『ダイス振りまくっただろ!?』
え~え、最初の【パラメデス】は軒並み食らったわ。ダイス3個×20で、だいたい200点? ――んまー、乙女の柔肌にオーバーキルってレベルじゃないわよ。ヒドイ奴らよねー。
だけど、あたしには、メルティングポット特製の【防火】があるの。これにより、「火のダメージを1点に減少する」から、たったの20点で済むってワケよ。
『おい! どっから殴ってんだよ!?』
『お前ら、俺を殴るな!』
アハハ、同士討ちしてるわね。作戦、大当たりだわ。
あたしは、視界が利かずにまごまごしてる敵を、空中からボコボコ叩いてた。たまに【闇】が消されるけど、素早く動いてターゲットに取らせないまま、もういっぺん【闇】を張る。
『クソッ! サボテンは1人だぞ!?』
ふふーん、その慢心がウデを鈍らせるのよねー。
大勢でサイコロ振って少人数を倒すとか、ショッパイ戦い方ダケだったんでしょ。
そんな心構えだから、ちょっと予想外の事態が起きたらすぐアタフタしちゃうのよ。結果が、今の総崩れね。
数が少なくなってからは、投げレーヴァに戻りレーヴァも駆使していった。もちろん量産型なんで、戻る機能は「もう一度【ヘパイストス】」ね。
そして……最後の1人は、またもやアオダイショウ。
「まーたラストはアンタね」
「くそっ……どうやったんだ、サボテン。脱法呪文だろ」
「教えなーい。少しは自分の頭で考えてみたらー?」
ボコスカ叩いて、アオダイショウを退治しました。まる。
ダンジョンの手前で、またもや20人現れた。
「しつっこいわねえ」
「何とでも言え。――オイ、お前ら。サボテンのライフは残り少ないはずだ。削り殺せ」
ふふふ、ずゎんねんでした。
ボコスカボコスカ。
『おい! なんでアイツのライフがフルなんだよ!?』
『チクショウ! 誰か回復させてンのか!?』
だからさー、アンタたち、そう思うなら誰か残しときなさいよ。
再び無事に全滅させたあと、銀ちゃんから念話がくる。
(はい、バッチリ撮影できたよ)
(今度は声を掛けたわよ、銀ちゃん)
(ハハハ。もっとも、私はオマケで、本命はマスターの方かな?)
(ええ、実はね)
30秒待って、マスター・カゲから【完全回復】が入る。
(はいカゲ、シャボン。無事にリフレッシュしたカゲよ)
(ありがとう、マスター)
(どういたしましてだカゲ)
近くにあった桜の木の影から、ひょいと親指を立てた灰色の腕が出る。――うわー、そこにいたの。【魔力視覚】があっても、捉えきれないわ。
ともあれ、継戦能力を支える回復役は、マスターにお願いしてたのでした。
今回出た呪文を載せておきます。
(【武具作成】は、本文では【ヘパイストス】で統一します)
【武具作成/Hephaistos】
レベル2・銀魔法/レア
分類:瞬間・道具
効果:武具を一つ作り出す。
二人の男がいた。一人は鮮やかに剣を抜いた。
「俺より格好良く武器を出せると言ったな? やってみろ」
「いいよ」
もう一人は槍を出した。――何もない所から。
136/350
【完全回復/Refresh】
レベル7・白魔法/レア
分類:回復
準備:30秒
効果:対象のアバターかユニット1体のライフを全て回復させる。
「お前は俺を守る、俺はお前を癒やす。持ちつ持たれつだな」
――ジャスティアの治療士
241/350
※隠し条件:準備中、対象のアバターかユニット1体は、ダメージを受けないこと。




