74話目 数の暴力
さて、工房「メルティングポット」も、本来の営業時間になって人が増えてきた。
そんな中、一度外に出てたシルクハット猫のベンガルさんが、神妙な顔で戻ってくる。
「リスリスさん。上野公園、まだ封鎖されてますね」
「やっぱり、ダメ?」
「はい。前に俺が見たままです。ざまぁ団が何グループか入ってて、入れ替わり立ち替わりで塞いでるみたいですね」
おっと、また出た「ざまぁ団」。ホンット、ヒドイ奴が多いわねー。
「あのお」
あたしは手を挙げた。
「何かお困り事があるんですか」
「シャボンさん。はい、実は……」
リスリスさんが話してくれたのは、上野公園にあるダンジョンの話だった。
なんでも、潜った先は未来的な廃墟らしくて、ボスは格好いい銀竜ちゃん。道中でも、たくさんの銀魔法がゲットできるんだとか。
「中でもオススメなのは、【魔化】のカードですね」
「あ、基本セットで見ました」
「はい。シャボンさんの杖も、この【魔化】が複数使われてますよね」
おっそろしいことに、あたしのレーヴァテインに掛かってる【痛打】やら【忠誠武器】やらは、1つをくっつけるたびに、【魔化】を永久消費するの。
んで、今の【魔化】のお値段は、1枚3000円。
「私たちはまだストックがあるので、大きく困ることはないのですが、このままダンジョンに潜る人が減ってしまって、供給が途絶えると……」
「あー。基本セットから出る【魔化】だけだと、あっという間に枯渇しますね」
そして、ざまぁ団はダンジョンに潜り放題と。――うわー、腐った寡占状態だわ。
「運営さんに、対処してもらえないかと声を上げたのですが、自治の範囲とのことで」
「ヒドーイ」
知ってたけどね。
あたしは杖を取り出した。
「ちょっと行ってきます」
「え?」
リスリスさんが慌てて止めてきた。
「シャ、シャボンさん。殴り込みは……」
「いいえ、あたしは穏便にダンジョンへと潜りたい、ドラゴンバスターですから」
ニッコリ笑ってみせた。
「ただ、途中で止められたら、理由しだいによっては対決ですね」
新宿の魔法陣から、チューOラインとヤマノテラインを使って上野に到着した。――ちょっと手こずったケドね。
いやー、路線図があるから、勝手に「アキバ乗り換えなんだわー」とか思って、ぴょんぴょん魔法陣で「次の地点」にワープしてたのね?
そしたら、東京駅についたのよ。
「え?」って思ってエイホウさんに聞いたら、「御茶ノ水駅で総武線に乗り換え」なんですって。――うぐはぁ~、都心の線路は魔境だわ。
ま、それ込みでも、トータル10分ぐらいで着いたんだけどね。
《天使の羽》を広げて、上野駅から飛翔。――おお、西郷さんの像発見。ちょっと挨拶してから、いざ公園へ。ほおほお、まだ寒い季節かと思ってたら、木々は桜が華やいでるわ。んー、キレイねぇ。
「誰だ!」
道の先では、蛇顔の男が通せんぼしてた。んー、無粋ねぇ。
「おっ……? お前、サボテンか」
「ええ、そうよ」
見るともなしに見て、スキャン! ――ん、「ブルー大将」って名前ね。貧相な見てくれは、メチャクチャ下っ端っぽいけど。
「あたし、この先にあるダンジョンに潜りに来たンだけど、場所知ってる?」
「――テメェ、ここの噂を聞いてきたんだろ?」
「えー、何ソレ。知らないわよー?」
すっとぼけてみせると、奥からゾロゾロと人が集まってきた。
「ここら一帯は、俺たちざまぁ団が封鎖してるんだよ。ダンジョンならヨソにもあるだろ? そっちに行きな」
「やーよ。あたしは上野のダンジョンに来たんだから」
しれっと【メリッサ】を喚んでみせると、ブルーは舌打ちした。
「お前ら……やれ」
静かな命令を受けて、一斉に敵が襲い掛かってくる。
――ふうん、10数人ね。
「メリッサ、ゴー!」
相手の攻撃をかわして、次々とヒザを刺していく。ふふふ、敵の機動力を奪って、こっちは予め張ってた【機動】で仕留めるわ!
『くぉらサボテン ! 【絶滅】だボケェ!』
敵がメリッサシスターズを消しちゃったけど、お構いなしにガンガン喚んでやる。【中和】でヒザを回復されても、またチクチク刺してプレッシャーを与え続ける。
『テメェら、あのハチ消せ!』
そして放たれる、山ほどの【絶滅】。――あのさあ、あんたたち。タイミングずらしなさいよ。
ちょっと待ってから、また【メリッサ】。【絶滅】。【メリッサ】。【絶滅】。んでもって……【メリッサ】。
『おい! なんでアイツ5回も喚べンだよ!?』
『〖プレゼント・4U〗入れてるよなァ!?』
なんかワメいてるわね。お構いなしに殴るけど。
あたしは、近くの桜の樹をターゲットに【循環】を掛けといた。ざまぁ団を殴るときは桜から離れるけど、【メリッサ】を唱えるときはそばに戻るから、クールタイムは3秒で済む。
『あ! サボテンの奴、【循環】使ってるぞ!』
気付くの遅いわよ、あんたたち。
メリッサちゃんたちにチクチク刺させて、仕上げにあたしがレーヴァで殴る。
どんどん倒していって、残るはたった1人。
「さ、アオダイショウさん。なんか言うことある?」
「――お前、ただじゃおかねえ」
そこはゴメンナサイでしょ。
あたしはレーヴァテインでタコ殴りにしてあげた。
さーてと、ダンジョンへの道は視界良好ね。桜の舞い散る花びらが祝福してくれてるようだわ。ふふふ~んっと。
「よお、サボテン」
しばらく進んだ先で、またブルーが現れた。
しかも……今度は、20人引き連れて。
「お前、数の暴力って知ってるか?」
うげっ……ネチっこいわね。それにあいつら、なんかダイス振りまくってるし。
あたしはスグにレーヴァテインを仕舞った。――はー、こんな奴らにおっちゃんからもらった杖を取られるなんてゴメンだわ。
案の定、ダイスの出目は6・6・6だらけ。
「ハハハッ! どんだけ強かろうが、20人にゃ勝てねえんだよ!」
大笑いされるなか、あたしは死んだ。
「復活! ムキー!」
あたしは、プライベートルームの机をバシバシ叩いた。
はー、【防火】だわ、【防火】! 予め防御魔法を張っておくのは、とーっても重要なのね!
「にしても……数の暴力ですって?」
あー、ヤダヤダ。【祝福】、【三連撃】に【パラメデス】でございますかー。楽しゅうございますねー。
あいつらってば、コレで勝てると思ってたから、最初の格闘がヘボかったのね。――ううん、マトモにやる気すらないんだわ。【魔化】の取れるダンジョンをあのざまぁ団で押さえちゃえれば、他のことなんかどーだっていーんだもの。
「許せないわ」
あらゆることをナメてる感じね。
あーゆー輩には、オシオキが必要よ。
レーヴァテインの強さを支える魔法のご紹介です。
【魔化/Enchant】
レベル8・銀魔法/レア
分類:一般
準備:1時間
効果:【魔化】を唱えるさい、スロットの呪文を1枚選択する。【魔化】の発動時に、付与するアイテムを選ぶ。アイテムにスロットの呪文が適正に付与できた場合、【魔化】とそのスロットの呪文は消滅する。
発動条件:スロットに空きが50枚あること。
「細かい条件は『やって調べろ』か。――王も、好き勝手言ってくれるものだな」
――サラマン、錬金術師
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