72話目 「○様」な女
グラマーな悪魔ちゃん(中の人は男)と話し終わったあたしは、【開始】して再び喫茶店を訪れた。
「どもー」
「おう、遅かったな」
「実はね、ちょっぴりツンデレ女王様とチャットしてたの」
「何? というか、ツンデレ?」
アイスの顔に、疑問がいっぱい浮かんでるわね。
そこへ、マスター・カゲがコーヒーカップを持ってやってきた。
「はいカゲ、シャボン。サイフォンで淹れたカゲよ」
「おおー。ありがとう、マスター」
砂糖とミルクを入れてからゆっくり飲むと、甘くてコクがある。
「ん~。指パッチンで出たものより、断然コッチの方が美味しい!」
「良かったカゲ。銘柄はグアテマラだカゲよ」
マスターってば、全身灰色なんだけど、スゴく嬉しそう。
「アイスや銀狐は、出しても全然感動がないカゲ」
「あー、なんか分かる」
「おい、ヒドイ言い草だな」
おっちゃんもコーヒーカップに口をつけてた。
「で、シャボン。さっきの女王の話だが」
「うん。えっとね、『ここに来ない?』って勧誘したんだけど、振られちゃったわ」
「あー……まあ、立場が違うしな」
銀髪をかくおっちゃん。――てか、やっぱ当然のように女王の背景も知ってるのね。
「おっちゃん達は、女王がざまぁ団だからって排除しないの?」
「お前、俺たちをなんだと思ってるんだ」
おっちゃんが呆れた顔であたしを見た。
「ストレーションのチームは例外だ。むしろ、あんなふうに追放できる奴が少ないぜ。――みんな、色んな事情があってマホロバをやってるからな」
「そうカゲ。ちなみにボクは、珈琲を淹れれたらそれで幸せカゲ」
みんなで笑ったあと、あたしはエラッタについて聞いて、日が変わる頃においとました。
その後、あたしはプライベートルームで再びBotモードとなり、【死の群れ】を買い漁ることにした。
ふんふ~ん、この前は50円ぐらいまでのを買い集めてたもんね。今日はハッピーな気分だし、100円までにしましょっか……って。
「アレ……? 500円?」
あらヤダ、もしかして「値段が高い方から」でサーチしちゃってた? ――うぅん、違うわね。やっぱ「安い方から」よ。
何の気なしに、「高い方から」に変えてみた。
30000円。
「エェーッ! さんまんえん!?」
サンマじゃないわよ!? 三万円って、あーた!!
すぐ次の価格を見ると、流石にケタが違ったから、ネタで売り出してたんでしょうね。――けど、その後も、5000円とか4000円とかいう値段がゴロゴロ出てくる。
「あ、あばばばばばば……」
恐ろしいけど、見ないのもコワいわ。
次々ページをめくって、なんとか最終ページまで辿り着いた。そこの【死の群れ】は大体600円で、最後の値段は550円になってる。――ん?
「さっきの売れてるし!!」
ウソッ! 500円って安かったの!? たった数日で浦島太郎じゃない!
えーい、何があったのよ!? いったい、何が……!
「あ」
あたしは、ゆっくりと部屋の天井を仰いで、ふーっと息を吐いた。
――ねえ、エイホウさん。
『はい』
この24時間以内に出来た掲示板のスレッドで、【死の群れ】と、「あたし」について話してるのを調べて。
『検索中……該当するものを発見しました』
うん。ありがとう、エイホウさん。
あたしはその掲示板を開いた。
◆
【女王バチと】天使様を愛でるスレ5【お呼び】
全壊のあらすじ
「芝の女王に勝っちゃったよ、○様」
球体
やっぱヤバいな、○様……
〖オーメン〗で振る直前に刺してるし
木
あの御方の実力がこれほどとは、この李白の目をもってしても(ry
妖精
うるせーよFUSHIANA
つ【閃光】
木
目が、目がぁああああ!
【目つぶし治療】⊂
エルフ
じゃけん、【中止呪文】させてもらいますねー
木
2対1とは卑怯なりー!
うごごごごご
球体
つーか、木が目つぶし食らうなとw
妖精
○様、コエーわ
【死の群れ】の操作がキレッキレ
エルフ
《麻痺》、100発100中だっけ?
球体
だな
女王が【絶滅】撃ったから、まず確実
妖精
その後の32戦も、刺すたびに《麻痺》させてたもんな
木
どういうことなの……?(困惑
エルフ
当たるとほぼ詰みのファン○ル×4
球体
ユニット改造もスゴすぎる
妖精
誰がやったんだ?
女王みたいに、本人か?
木
イヤ~、喫茶「火トカゲ」の、人影でしょ
球体
(審議)
エルフ
(有罪)
木
無念ー!(切腹
妖精
はよ伐採されろw
エルフ
○様なら、めるぽ行ってる所を見たぞ
木
ガッ
球体
めるてぃんぐぽっとだよw
木
知ってるw 言いたかった
妖精
うるせーな、この木はw
エルフ
多分、そこで製作してもらったと思われ
木
流石だな、○様
球体
もしそれで合ってるなら、持ってる【死の群れ】をメリッサに変えてもらうか
妖精
さっき価格見たら、【死の群れ】値上がりしてたぞ
木
mjd?
エルフ
あー、そりゃあの戦いぶり見たら、そうもなるか
◆
あたしの名前が巧妙に伏せられてたけど、芝の女王を倒したってところで確定ね。
そして……案の定というべきかしら。価格高騰の原因は、誰あろう、あたしだったわ。
「あはははは……。こんなに騰がるなら、もっと買っとけばよかったわね」
なーんて言ってられるのも、最初のうちだけだった。
ジリッ、ジリッと安い【死の群れ】が買われていき、次第に売り値が吊り上がっていく。
「あれ……? なんかコレ、人気化してる……?」
ふと思いついて、イーちゃんが使ってた呪文価格を調べてみた。【絶滅】やら【魔力制御:黒】やら、どれも値段が上がってる。〖オーメン〗は売り出されてないけど、代わりに【パラメデス】がゴリゴリと買われてる。
「うわ~……。まるっきり、株だわ……」
――そう。これって、株とおんなじなのよ。
いいなあと思った呪文カードが、買われる。そうでもないカードは、売られる。
で、芝の女王とか、あるいはあたしが使ってて結果を残したカードは、人気になる。そりゃあもう、エグいぐらいに。
ひととおり調べて、再び【死の群れ】をチェックしてみた。
「ひぇ~……1000円」
いやいやいやいや。でもコレ、アンコモンよ? レアじゃないし。
流石にあたしは、この値段じゃ買わないわ。スルー決定よ。
朝になったので、ネットで鮭定食を取り寄せることにした。――ん、インベントリにランチョンマットがあって、広げたら「食事にしますか? YES/NO」って出てくるのね。すごいわ文明の利器~。ほい、イエスっと。
「では、いただきます」
おはしで鮭を切り分けて、パクリ。
「美味しい!」
50円とは思えないハイクオリティ! 太らないし、ここってコスパ最強じゃない? ちゃんと味もするし。
しっかし……マホロバ・ライトでコレってことは、リアルだとどんだけ再現してるのやら。怖いわ。
もぐもぐタイムでパクパク食べて、見事完食!
「ごちそうさまでした」
ランチョンマットを畳むと、「食事を終えますか? YES/NO」の文字が。はい、大変おいしゅうございました。――おお、マットごと消えたわ。
「さて、と」
朝食もいただいたし、Eクンの様子が知りたいわね。今日は休日だし、誰かいるかもしれない。――そうそう、あの掲示板の4人もいるかもね、ふふふ。
あたしは新宿西口から【開始】すると、東口の工房「メルティングポット」へと飛んでいった。
はてさて、何人いるかな~っと。
「――え」
そこには、メチャクチャ大勢の人が押し寄せていた。
多分だけど、100人ぐらいはいそう。
「ええ~!?」
ヤッバ……。人気の度合いをナメてたわ。




