70話目 迷宮「あばよ」アリアドネ「よろしく」
いや~、なんかもう、ただのサボテンがすっかり祭り上げられちゃったわ。
「おう、シャボン新女王だな」
「ふふふ……ハチを統べる女王よ」
あたしとアイスは、喫茶「サラマンダーの夜」に戻ってきてた。
もちろん、銀ちゃんもホクホク顔で地下の作業場で編集中ね。【衛星球】に戦闘シーンの映像を入れて、すぐさまアフレコ。
『いやあ、大量に撮れたから、次々アップするよー』
――コレ、連絡入れてなかったらヤバかったわね、ええ。
「はぁ~。でも、マサカって感じだったわ~」
あたしは、マホガニーの丸机にノベ~ッとした。
「あんな事になるなんて」
「いや、ゲーセンなら当たり前なんだが」
「だって、そういう発想が無かったのよ」
――ええ。あたしが芝の女王・イシュタールを倒したあと、みんなにワーッと讃えられた。で、「どーもどーも」って挨拶しようとしたら。
『んじゃ、中へどうぞ!』
戻されたの。
「で! そっからは、あたしがチャンピオンとかね! 挑戦者と延々相手するなんて初耳よ!」
「ノリノリだったじゃねえか」
「うふふ……そりゃ、最初はね。だって、女王様対策の人たちばっかりで、楽勝だったから」
でも、次第にあたしシフトに変わってくるの。おぉぉ……なんというホラー!
「いや~、精神的にキツかったわ~……」
「それなら、ワザと負けりゃ良かったじゃねえか」
「負けるのはもっとイヤ」
キッパリ答えたら、おっちゃんは苦笑してた。えー、でもここは譲れないわ。
――にしても。
「まー、色んな相手が来てくれちゃったわね」
そんな中には、おバカトリオもちゃっかり紛れ込んでた。
『やい、サボテン!』
はーい、どっかの熊ですね。
『お前、よくもすっぽかしたな!?』
スゴイ剣幕だけど、あたしはヨソ行きモードで可愛く小首を傾げてみせる。
『えっと……何を仰ってるんですか、ベアクローさん? あなたとは、とくに待ち合わせをしてませんけど』
『とぼけるなサボテン! お前、おととい千葉の……!』
そこでベアクローは耳を押さえた。時折うなずきつつ、顔をしかめたのち、悔しそうにあたしを睨む。
『う、うぐぐ……! お、覚えてろよ!』
『はあ』
トボけた顔で答えるけど、内心は大笑いですわ。――ええ、そうよねー、それを言っちゃあオシマイよ。自分たちの悪事がバレるだけだモン。今のは、ウマシカたちに念話で止められたのね。
あ、さすがに自分たちからバラすようだったら、さっさと追放処分にしてもらうから。そこんとこヨロシク。
『くそっ! 死ねぇ、サボテン!』
戦闘開始とともに、熊は〖ナイン・エレメンタル〗で攻撃してきた。けど、あっさり殴ってユニット4体を退治。
『なっ……!』
『はい、お返し』
シグマちゃん、タウちゃん、ウーちゃん、ファイちゃんで一斉に四肢をプスリ。ばったり倒れた所をあたしがボコスカしてKO。
『はぁ……癒やしの存在だわ……』
息抜きできる対戦相手って貴重よね、ええ。
ちなみに、次はウマシカコンビが並んでたらしいけど、すごすご帰ってたって。ぷ、そりゃ賢明だわ。
だけど、他の人たちは「あたしへの対策」をしっかり練ってきてた。中でもキビシかったのが、羽を落とす手段ね。【忘却】と、さらにもうひとつ。
『【イカロス】!』
あー、また墜ちる!!
何度も何度も何度も何度も、《天使の羽》がもがれた。――あんた達、そんなに飛べるのが羨ましいの!? ムキーッ!
初見で30点ぐらい食らったから、次からは5点ぐらいで済むようにって、5mダケ飛ぶよう心がけた。落下ダメージは1mごとに1点っていうから、高く飛んでたら頓死してたわ。うう……自由に大空も飛べない世の中よね、ヨヨヨ……。
そして、女王バチにもついに陥落のときが来た。
(【大海嘯】!)
丸くて白い岩さんに、ゴロゴロ~っと回られた挙げ句、大波を食らってあたしは死亡したのでした。悲劇、シャボン! イースター島に散る!
「ってか、あんだけ縦横無尽にローリングしといて、名前が『不動』さんとかさあ! 姿といい名前といい、めちゃくちゃネタっぽいから油断したわ!」
「岩で動けるヤツは、それだけで強いぞ」
「ええ、もう身にしみたわ。笑っちゃうぐらいに完敗だったものね」
何せ、こっちの魔法は【中止呪文】で消されちゃうし、何とか出せたメリッサでお岩さんを刺しても、《麻痺》が効きませんでしたから。
「てか、関節ないしね!」
ヘーンだ、鍼マッサージも効果なしよ!
「くそぉ、肩こりで苦しむがいいわ……」
「ないだろ、岩だから」
ぐはぁ。
「まあ、シャボン。30勝はしたじゃないか」
「はーい、ありがとおっちゃん……ん?」
奥の扉から上ってくる足音が。アラま、銀ちゃんってば、もう編集作業終わったの?
「速いわね、銀ちゃん……じゃない!?」
開いた扉から出てきたのは、影さんだった。マホロバを始めた直後の影法師ね。
「あ、どーもどーもシャボンさん。ボクは喫茶のマスターですカゲ」
「あー、あなたが」
そう言えば、銀ちゃんもマスターがいるって言ってたわね。
握手して、フレンド登録しながら注視すると、名前は「喫茶マスター・カゲ」ってなってた。
「えーっと……カゲ、さん?」
「いや、マスターでお願いしますカゲ」
「あ、じゃああたしもシャボンで」
「分かりましたカゲ」
――なんという語尾。ロコツに〈影人〉ってアピールする態度、嫌いじゃないわ。
「実は、シャボンにお渡しするものがあって、きたですカゲ」
インベントリから1枚の呪文カードを出す。
「〖迷宮〗シリーズの【終了】不可を無効にする、【アリアドネ】だカゲ」
「おー! 仕事速い! てか、黒枠!?」
「ふふふだカゲ。許可も取ったカゲよ」
そっか。みんなにも、安心して使ってもらうためね。
手渡されたので、文面を読んでみた。――ふむふむ、緑2の呪文で、ロープを出すって効果もあるみたいね。
「マスター、これ1枚で〖迷宮2〗&〖強制終了〗が防げるんですか?」
「そうですカゲ。無効のエリアは半径200mで、スロットに入れた直後に発動しますカゲ」
早速スロットに入れてみた。今のあたしは〖迷宮〗が入ってるから、今までだったら【終了】できないハズだけど。
「【終了】!」
すると終了画面が出た。
「おおー!」
さくっとプライベートルームを選択。空間がワープして、あたしの部屋へ。
「いやー、これは便利だわ」
(どうですカゲ?)
(あ、マスター。――はい、使い勝手いいです)
(良かったですカゲ)
ふふふ、実際〖迷宮〗の付け外しは面倒だったからね。【アリアドネ】……素晴らしい脱出呪文だわ。
またも念話がきた。はいはい、マスターかおっちゃんかな……アラ?
(ホホホ……お疲れさまじゃの、シャボン)
女王様だった。
〖迷宮〗から脱出できるカードを載せておきます。
(本編では、表記を【アリアドネ】で統一します)
【導きの糸巻/Ariadne】
レベル2・緑魔法/アンコモン
分類:道具
効果:ロープを出す。
効果:脱法呪文によって【終了】不可能となった効果を無視できる。この効果はレベル0、常動である。
「か細い糸が、未来への道に続いているのだ」




