65話目 白馬ヘッドと愉快な仲間たち
「さ、完敗のショックを受け流せたわね」
あたしは再び【開始】すると、地下のサロンまで戻ってきた。
んー、サボテンがドーナツになっちゃったし、ギャラリーにはボロクソ言われるかも。
そんな覚悟をしてたケド、どうやら違うみたい。
「うあ~、社長キラーのシャボンさんでもダメか~」
「杖でタコ殴りは、決まると思ったんだけどな~……」
「芝の女王、強すぎるぜ」
むう。女王様が無類の強さを誇ってるのね。まったく言われないのも、それはそれでショック。
イシュタール女王陛下は、あれからもドンドン勝ち星を積み上げてたみたい。それも、「強い」って話題の人を呼んでは倒してるあたり、本当に盤石だわ。
「ヒヒーン、シャボンさーん」
おっと、白馬ヘッドな紳士さんが手を振ってくれた。紛う事なき馬ヘッドだし、被害者友の会で見た顔ね。名前は、えーっと……。
「ペガススさん!」
「あははは、忘れてましたね? いま、データ見たでしょう?」
「い、いやー、ナンノコトカナ。ハハハ」
秘技、愛想笑い! ――うん、あのときは何人もいたからね、いっぺんに覚えられるワケないってば。
美白のペガススさんは、念話で(視線を合わせず鑑定するのがコツですよ)ってアドバイスしてくれた。や、どーもどーも。
「僕らのチームもお呼びが掛かってまして。今から、仲間が戦うんですよ」
なるほど、大ちゃん戦で映ってたもんねー。4人で1チームでしたか。
他の2人(蝶さんと虎さん)とも挨拶し、リーダーのペガススさんによって空席に座らせてもらうと、観戦モードに移行した。
『いざ、参る!』
お、猪サムライの「維の志士」さんね。そこはかとなく猪ヘッドだわ。姫路城をバックに、赤い鎧が映えますな。
『ぬうん!』
おーっと、猪さん抜刀せず。初手は〖ナイン・エレメンタル〗の召喚です。――って、脱法呪文よね?
「え、アレって有りなんですか?」
「はい、呪文開発はOKですし」
「ほほぉ」
そっか。脱法呪文って言われてるけど、開発自体は悪じゃないものね。それが悪だと、おっちゃん達も同類だし。脳死を引き起こすとか、ヤバすぎる呪文の存在が問題なダケなんだわ。
「イノは、捨て値で売ってたのを買ったみたいですよ」
「あー」
どっから売り出されたのか、なーんか予想ついちゃったわ、ぷくく。
もはや廃棄扱いのユニットを、見事に再活用してあげてるエコロジーな猪武者さん。1発でも女王様を殴れたら勝ちだし、いい狙いかも。
だけど。
『ホホホ』
芝の女王は、あっさりと【絶滅】で消してきた。イノさんが何度も〖ナイン・エレメンタル〗を出すけど、そのたびに【絶滅】を撃たれて、合戦場がキレイになる。――うーむ、つわものどもが夢の跡。
『ホホ、打ち止めか? ならばコチラから行くぞえ?』
『むぅん……かくなる上は!』
イノさん、刀を抜いてダッシュ。まさに猪突猛進して襲いかかったけど、イシュタール女王の右手が早かった。ゴロリンチョが炸裂して、あえなく終了。
「ぬぅ……無念! 拙者の策では駄目でござった」
ドンマイ、イノさん。
お次は、チョウチョの羽根を持った「蝶介」さんだった。この人は女顔の美少年で、昆虫の複眼とかじゃないわね。
『ぴよよ~ん、ポクの【パンドラ】を食らうんだぴよよーん』
『ホホホ……面白いキャラじゃのぉ』
戦場はジャングルで、射線も通りづらい。蝶介さん、上手いチョイス。
けど、そんな中でも、女王は狙い過たず【魔法霧散】を通してた。蝶介さんが【パンドラ】を張り直しても、丁寧に【魔法霧散】。
『ぴよよ~ん、マズいぴよーん』
蝶介さんは、巨大なバクも出して攻撃させてたけど、女王は構うことなくダイス3つをゴロリンチョ。大ダメージによる豪快な削り合いは、女王様に軍配が上がった。
「ぴよよ……ポク、負けちゃったでぴよよーん」
――うーむ、正規ユニットの突進なら、ダイスの方が早く勝つのね。ナイスファイトだったわ、蝶介さん。
お次は、虎人間の「GATTIRI・止めタイガー」さんだった。
『ハッハー! イシュタールさんよお、俺は盾張り職人でなあ! 全部止めてやるぜ!』
そう言って、毛むくじゃらの胸板をドンと叩く。――おお、お顔が虎だし、なんかプロレス技強そう。舞台もコロッセオにしてるし。
『ホホホ、盾か……それは少し厄介じゃのぉ』
女王様は指をほぐしていた。
『妾は、全ダメージをサイコロで与えるゆえな』
え? ――あぁ、そう言えばそうだわ。ダメージ源は、全部黒い〖オーメン〗か、赤い【エコー】だった。女王様ってば、実は縛りプレイしてたのね。
ペガススさんも身を乗り出してた。
「ふむ……それなら、タイガに勝ち目があるぞ」
たしかに。直接攻撃がないなら、盾は相手の呪文と相殺だもんね。ジリ貧にならないわ。――あ、コレ、本当に勝てるんじゃない?
そして試合が始まったんだけど、まさかまさかの展開だった。
って言うのもね、タイガさんが【巨大な盾】を張るんだけど、女王様ってば、市販のサイコロを、指で弾いて消してたの。――うは~、たしかにサイコロ使ってるわ。トンチで虎退治とか、悪魔界の一休さんね!
『ガァッ! くそっ!』
鉤爪装備のタイガさんが必死に迫るけど、女王様は【中和】と【敏速】を巧みに使って、常に距離を取ってる。で、追いつきそうになったら、〖オーメン〗で牽制。それを【巨大な盾】で辛うじてしのぐタイガさん。――ぐあー、張りっぱなしだと市販ダイスの餌食だもんね。う~、じれる展開!
タイガさんは、紫の盾も張ってた。【魔力の盾】ね。
『ホホホ』
んでも、そっちは女王の【魔法霧散】でスグに消されちゃう。ぬむぅ~、対応が速い!
ほどなく、タイガさんは全ての盾を撃ち尽くしちゃってた。
『ホホ、良いかの? では、悪魔の数字を刻みつけようぞ』
女王が、悠然と〖オーメン〗&【闇の衝撃】を炸裂させた。炎の虎、雄叫びを上げつつコロッセオに斃れる。
うぅ~む……本当にスキがないわ。
「くそお、近付けなかったぜ」
いやいや、ナイスガッツだったわ、タイガさん。
あたしは、リーダーを見た。
「さて、いよいよペガススさんの番よ」
ぐっと手を握る。
「みんなの仇を討ってちょうだい!」
「え? ――ヒ、ヒヒーン」
アラ? ペガススさんが、困った感じでヨソを向いちゃった。
対して、チームのみんなは笑ってる。ん、なんで?
イノさんが答えてくれた。
「シャボン殿。リーダーは、すでに戦い終えたでござる」
「あ、そうだったんですか」
「ぴよよ~ん、ちょっと情けなかったでぴよーん」
「え~? なになに、ソレ見たいんですけど!」
「ちょっ、シャボンさん!?」
取り乱すリーダーをタイガさんが見事に止めて、蝶介さんが【雄蜂の斥候】の映像を壁に投射。うわ~、なんて麗しきチームプレイ。
映像内のペガススさんは、それはもうビシッと女王様を指差してた。
『芝の女王、イシュタールよ! 僕にはお前の攻撃など効かない!』
おー、馬ヘッドでも格好いいわ。人の顔だったら惚れちゃいそうよ。
蝶介さんがコソッと喋った。
「ぴよよ~ん、その白馬は、領土呪文に【島】を仕込んでたぴよーん」
「――え」
それって……惨劇の予感がするわ。
『ははは! ダイス攻撃は完全にシャットアウトだ! 運命を弄ぶ芝の女王よ、お遊びはこれまでだな!』
女王様は、珍しく真顔で、白馬ヘッドに向かって目をパチパチしてた。小首を傾げたのち、〈悪魔の翼〉でほんのりとフワリ。
――うん。飛んだら攻撃できるよね。
『お主……えーっと……。良いかの?』
『――あっ、ハイ。もう……すんません。本当すんません。このスットコドッコイに、遠慮なくブチ込んでください』
そしてペガススさんは、お空の星になった。無茶しやがって……。あ、ネタとしては最高だったわ、あはははは。
「シャボンさん!? そこまで笑わなくてもいーですよね!?」
いやいや、笑ってネタとして昇華するのがいいのよ、残念リーダーちゃん。――ぷくく。
「うあー!」




